90.恋は
冒険者ギルドで書き方教室を終えて帰宅したケイからちらり、ちらりと視線が走る。視線の先のマロウは、日中はケイと別行動だ。冒険者ギルドに近付くのは時期尚早だろうということで、フランについて鍛冶場にいるかサラナサと村に出掛けている。
「ケイさん。怪しいよ」
「っうわあああああ!」
ヒイがかけた言葉にケイが爆発的に反応する。思わず、帰って来ていた皆の視線を集めるケイ。
「大丈夫?」
「ああ」
「調子、出ないんだったら、部屋で晩御飯まで休んでいたら?」
ケイはこくこくと頷くと、慌てふためいて二階の部屋へと入っていった。
サラナサがその様子を見てゆっくりと首を傾げる。
「サラナサさん。こういうのは見てみない振りがいいかも」
「分かった。後で、聞いてもいい?」
「勿論。晩御飯を食べたら、私達の棟においで」
「恋って見えた」
ケイとマルクのいつには無い様子で、何とか食事を終えたそれぞれは寝場所に引き上げた。それを横目にサラナサが走ってヒイの元へ来るなり、言った。
「そうだね。誰かを好きになったみたい」
「誰かも分かる?」
「見ようと思えばね。でも、私は自分に置き換えて、見られたら嫌だから見ないな。何か危険が迫ればその限りでは無いけれど」
「うん。私も自分だったらやだ」
サラナサの同意が得られた所で提案する。
「そうだね。知らなかった振りをするのがいいかな?」
「いいと思う。けど、難しい」
「何処まで見るかが大事だね。いつもと様子が違って、心配して鑑定してみるのはどう?」
「それは、する」
今までの生活とは違う、心配し、心配される。それが当たり前の生活になった。だから、見ないという選択肢はサラナサの中では無い、それが許されている。
「今回はそれで『恋』と出たよね。他にも色々なものを見ると思う。その都度、どうして行けばいいのか考えよう」
サラナサは深く頷くとほっとしたような、やりきったような穏やかな様子で、部屋に戻っていった。
「ふふふ。幸せが続きそうだね」
仔狼の姿のクロを優しくなでながら、ヒイはそう話し掛けた。苦労してきたケイとマルクだ、生活に余裕ができ、自分のこと将来のことをしっかり考えられるような状況になったからこそ、恋もできると思うのだ。




