9.家族が増えました
一時は起きたアキちゃんと、そっくりな人を用心のために少し離れた位置に寝かせる。
アキはニカに抱かれたままで、クロウもヒイに抱かれたままだ。
「まずは、私から、ヒフユといいます。ヒイって呼んで下さい」
「クー」
名乗り頭を下げたヒイに、クロウが返事らしき鳴き声を発するのに対してニカから疑問が上がる。
「ええっと、ヒイちゃんはこの仔の言葉は分かるの?」
「ううん。でも、勝手に鑑定して見せて貰っちゃったから、礼儀としてね。妹兼弟のフウカことニカと、妹のミハルのミハとアキヨのアキちゃんです」
「クー」
クロウからは頷くような動作と声が返るのみだが、一応理解しているようだ。
「あなたのことも紹介していい?」
「クー」
「こちら、クロウ君です。今はアキちゃんにそっくりな人は、目が覚めた時に自己紹介してもらおう。本名が分かったから二人とも、家族になったよ」
「なるほど?」
とりあえず納得したようなニカに、様子見していたミハも声をかける。
「クロウ君とは呼んでもいいの?」
「大丈夫。クロウ君もヒイ、ニカ、ミハ、アキって呼んでね」
「クー」
「お姉ちゃん。アキちゃんは大丈夫?」
「大丈夫。また長く寝ちゃうとは思うけど」
「それは大丈夫なの?」
「アキちゃんもあの人を助けたかったみたいで」
ニカが思わず言うと、ヒイの解説が告げられる。
「そうなの。アキちゃん凄いな」
「本当にね」
「ん」
「アキちゃんのそっくりさんが!」
ミハが三人を代弁する。
「わたし・・・?」
「アキちゃんが助けてくれたようで、体調はどうですか?」
心底不思議そうなアキとそっくりな顔で、辺りを見回した女性に、ヒイが穏やかに問い掛ける。外見はアキとそっくりで小さくなっているが、倒れていた時は大人の女性だった。
「だいじょうぶ。たすけてくれて、ありがとう」
「いえ。元気になって良かったです。私はヒイと言います。あなたは?」
「わたし、わたしのなまえは?」
「え? 名前無いの?」
自分の名前に心当たりが無い事に、ミハが驚いて問い返す。
「いえ、わたしがこのかたちをとっているということは、わたしのなまえはきまっているはずなのですが・・・」
「そうなの?お姉ちゃん」
言っている意味が分からなかったミハは、すかさずヒイを見る。
「あなたのことを見せて貰ってもいいですか?」
「はい」
「トオ。トオさんかな」
「わ。兄も父もできちゃった!」
ミハが思わず立ち上がって喜んだ。
「ミハ、落ち着いて。それで、一体全体どういうこと?」
ニカの尤もな質問に、深く頷きトオが口を開いた。
「このこのなまえは?」
「クロウ」
ヒイが当然の様に答える。
「いいなまえをもらいましたね。このこはまだおさなく、はなせるようになるにはすこしかかります。かわりに、わたしがせつめいします」
「お願いします」
まだアキの形をとって間もないため、慣れない体でたどたどしくなりながら、途中でヒイが心配して休憩や食事をとりつつトオが説明し終わると、陽が暮れていた。