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88.素敵

「素敵ってなんだ?」

「え?突然なんだよ。どうしたんだ?」


 マルクからぼそりと出た言葉にケイが聞き返す。食堂の一日は無事に終わり、忙しくて何がそんなに気になるのか分からないまま帰って来てからもコーリアが言った「素敵」という言葉が引っ掛かっていた。また、その時の羨ましそうな、眩しそうな表情も。


「ニカとテレーズなら分かるんだ」

「なんだ?誰かが素敵って言ってたのか?」

「ああ。ミハとエルディランドゥを」

「ミハか・・・」


 ケイも難しい顔をする。ミハは親しみやすさが強くて、綺麗さや可愛さもあるにはあるが・・・という印象なのだ。エルディランドゥは騎士だったし、騎士じゃなくなっても強くて落ち着いていて格好いい。ニカは街の女の子に凄く人気で、テレーズも美人と評判の看板娘でお似合いだ。


「え?なに、なにー?恋バナ?」

「「コイバナ?」」


 そのミハの登場にケイとマルクはそっくりに首を傾げた。


「ああ、恋愛話って意味だよ。二人も気になる人が出来たんじゃないかと思って」

「「!?」」

「二人とも、すっごく顔怖いよ。どうしたの?え?何かあった?」


 ミハに言われたことのあまりの衝撃で二人の顔が強張った。


「マルク、素敵は無理だ」

「だよな」

「え?素敵ってそんな物騒にやり取りするものなの?二人とも大丈夫?」

「ああ」

「気にすんな」


 マルクとケイは即座に無かった事にした。恋愛なんて考えられないし、考えたこともなかった。未知の物は恐怖しかない。何気なく誰もがやっているらしいことだとは知っているが、やらなくても大丈夫だ。

 ミハは二人の反応に首を傾げて去っていった。


「てっきり、恋バナだと思ったんだけどなー。まあ二人とも恋バナしたくなったら、何時でも言ってね」

「ないわー」

「ない、ない」


 二人とも笑って否定し、自分から恋を遠ざけた。だが、恋は近づいてくるものではなく、気が付いたら忍び寄って来て、落ちてしまうものだ。

 偶然か、同時期にマロウとコーリアがくしゃみをしていたとか。

 その時フランは充実した鍛冶仕事で、早めにぐっすりと眠っていた。

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