85.設置過多
「俺、やりすぎだと思うんだ」
「まあ、まあ」
ニカがマルクを取り成す。マルクの食堂での働き初日なので、ヒイ、クロ、ケイ、ニカとテレーズで来ていた。今はヒイが挨拶中だ。
「今日からマルクがお世話になります。家庭での料理の経験しかありませんが、何事も真剣に取り組みますのでよろしくお願い致します」
「こちらこそ。助かります。ですが、本当にお礼は必要ないのでしょうか」
「はい。食材、調理方法と食堂の仕入れ、経営方法等まで教えて頂けて、お昼もご相伴に預かれるなら充分です」
「そう言って頂けるなら、こちらも願ってもない申し出です」
「あと、少し道具を置かせて頂いても?」
「え、ええ」
「ちょっと、害のある人が近寄らないようにするだけの道具ですから」
何とも言えない顔をして、何も返せないシシリアはヒイを見守るだけになった。ヒイはそんな様子に気付かない振りをして、食堂に安全装置を次々と設置していく。細々とした雑貨を模した防犯の道具は、かなりの数になっている。
「これ、なに?」
「家を守る、やもりくんだよ」
「やもりくん」
「アーク。邪魔しないの!」
「大丈夫ですよ。こういうの、興味あるの?」
「うん。すげえ」
いつの間にかヒイのやることをじっくり見ているアークは、道具が設置される度に尋ねている。はらはらと見守っていたシシリアと、アークを大人しくさせようとするコーリアがケイとマルクに回収されていく。
「こっちはね、ほだんご」
「ほだんご?」
「そう。捕獲する団子だよ」
「どうやるの?」
「投げるだけでいいけど、マルクさんにしか使えなくなっているよ」
途端に興味をなくしたアークが気になっていたことをヒイに聞く。
「ふーん。弱そうだけど、あんたも冒険者?」
「違うよ」
ヒイの肩にぶら下がっているクロがアークをじっと見つめている。
「どうして、冒険者にならないんだ?」
「弱いからだね」
「・・・俺も弱いから、駄目?」
「アークさんは冒険者になりたいの?」
「・・・うー、うん」
「シシリアさんに相談した?」
「・・・してない。駄目だって言われる」
「駄目だって言われたら、理由を聞いてそれを解消するしか無いんじゃない?」
「・・・でも、俺・・・」
「まあ、自分次第だよ」
ヒイはそこで切り上げた。シシリアの家の事情を知らずに、そこまで踏み込むべきではないとの判断だ。それに、本当にアークが冒険者になりたいようにも見えないので、まずは三人の生活の安定が先だった。




