8.家の前に
目の前に「家の前に黒い毛玉があります。どうしますか?」そんな選択肢が見えたような気がした。
「大変!!」
「え?ヒイちゃん」
「何?人?倒れてる!」
珍しく、ヒイが一番に駆け出し、ニカとミハも続く。
ヒイが一目散に駆け寄ったのは、黒い毛玉?だった。思わず、拾い上げ声をかける。
「っ大丈夫?」
答えが返ったのは、黒い毛玉の側に倒れていた人からだった。ほっそりした、今にも消えてしまいそうな女性は、消え入りそうな声で告げた。
「この子の名前を・・・呼んで」
そのお願いに、ヒイはごく自然と名前を口にしていた。
「九重狼。クロウ君だね」
名前が黒い毛玉に吸い込まれたように見えた途端、黒い毛玉は黒い子狼だと分かった。
隣に倒れていた少女は安心したように、微笑むと姿が薄れ。
「アキも!」
「「「え?」」」
いきなり目覚めたアキに皆が視線を捕られ、また戻すと。
「アキちゃん!?」
「アキちゃんが増えた!」
ニカは背中のアキが目覚めたことに安堵しつつ、様子が見えるように前に抱く。そしてヒイのいつにない衝動的な行動に不思議さを感じてもいた。
ミハは良く分からない展開に首を傾げつつ、アキが二人になっていることに驚き叫んだ。
ヒイは抱いていたクロウがしっかりしている事を確かめてそっと下すと、今度は地面に横たわっている「アキのそっくりさん?」を抱き上げる。
「アキちゃんじゃないよね。さっきの女性だよね?大丈夫かな?」
くったりしてしまっているアキと瓜二つの女性を、慌てて鑑定する。
「気を失っているみたい。弱っているけど、大丈夫そうだよ」
ヒイはほっとしたように、アキのそっくりさんを抱き直し、家で休ませようと歩き始める。
「お姉ちゃん、黒い毛玉君がアピールしてるよ」
「え? ニ・・・カ、ちゃん?」
ヒイは物心がついてから初めてニカから「お姉ちゃん」と呼ばれたことに、何か意図があるのだと不振気になりながら、「ニカ」と呼びかける。
「ごめんね。クロウ君も一緒にね」
ニカの意図が読めないままだが、慌てて足元に必死に付いて行こうとしているクロウも抱き上げる。
「アキちゃんが目覚めて良かったー!ってあれ?また、寝ちゃった?」
ヒイに抱かれている二人を気にしつつ、ニカに抱かれているアキを覗き込んだミハがちょっとがっかりしている。
「とりあえず、家に入って落ち着こう」
「そうだね」
らしくないのは自分でも理解しているのか、ヒイが仕切り直し、安心安全な家の中で話すことにする。