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74.旅行

 マロウは考えていた。

 お家騒動に巻き込まれたのは、自分ではどうしようもなかった。それは言われてみれば全くその通りといった具合だ。では、自分はどうしたいか。帝になんてなりたくない。それは巻き込まれる前から思っていた。そう。それが、答えだ。

 腹が満ちて、安全な場所で落ち着いて考えれば、簡単なことだった。でも、母と弟が生きていたならばその答えは出しにくかった。もう、守る者は旅立ってしまったのだ。後悔していないとは言えないし、守りきったとも言えないが、自分の希望は楽に出せることだけが救いだった。


「私は家に巻き込まれたくないと伝えたいのだが、助けて貰えるだろうか?」


 翌朝、朝食を食べた後にすっきりとした顔でマロウが告げた。


「全て放棄するという事で、どうしたら信じて貰える手紙が送れますかね?」

「せいいをもってつたえるのではいけないのですか?」


 ヒイの手紙を送る案に、トオが不思議そうに問い掛ける。


「難しいかも・・・。疑心暗鬼で、マロウさんが優秀だから更に心配みたいだよ」

「マロウさんが『やっぱり止めて、戻ってきちゃった』とか言ったら、相手は勝ち目がない感じ?」

「ミハちゃん。そうなるね」

「お家騒動って、後継ぎはどうやって決まるの? 血筋だと捨てようが無いけど・・・」

「面倒くせえな」


 ニカの言葉にケイもうんざりした様子を隠さない。


「簡単なのは私が死ぬことだったんだが」


 マロウの言葉に怒りで眉が吊り上がったケイが口を開く前に、ヒイが案を出す。


「じゃあ、皆でマロウさんのお家の近くで演劇でも披露しますか」

「はあ?」


 ケイが全員の答えを代弁する。


「アキも、参加できる?」

「うん。アキちゃんとトオさんは大事な役割をお願いするね。マロウさんは死んだ振りを」

「畏まった」


 何だか愉快そうな返事がマロウから発せられる。


「マロウさんがやられた所を、お家騒動の関係者に見せるっていうことね」

「マロウさんが主演で観客はマロウさんを狙っている人達だね」


 ミハとニカの言葉が被る。ケイが首を傾げる。


「なんで、全員で行くんだ?」

「え?折角だし、外国、興味ない?」

「いや、それはあるっちゃあるけどよー」

「ケイ。旅行のついでに寸劇だよ」


 ケイがそんな軽い気持ちで付いて行っていいのかと心配する中、ミハが更に軽い返しをする。


「おい、お前、当事者だろ! いいのかよ、それで」

「楽しめるのは良いことだ」


 マロウが思わず、怒鳴りつけるような声掛けになってしまったケイに、にんまり笑った。気を使わせない配慮と、真面目に考え心配してくれる自分の味方が一気に増えて、気分は朗らかだ。今までだって、道化の演技をしてきたのだ。死んだ振りぐらい、旅行のついでに幾らでもやってやろうという心持だ。これが失敗するなんて事は考える隙も無かった。

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