71.接近
「・・・勘弁してくれよ」
ケイの心の声は口から出ていた。
視線を落とした先にはボロボロで倒れているマロウ。
思わず、辺りを見回す。誰もいない・・・。何故、誰もいないのか。いないから、倒れたのか。人気が無いから襲われたのか。
ケイはヒイの言いつけを守って生活しているので、人気が無い所には近づいていないし、一人で行動することもほとんどない。送り迎えは戦える誰かにしてもらっている。
「それなのにだ!」
思わず、独り言が多くなる。誰かを呼ぼうと踵を返しかけると、ズボンの裾を掴まれた。
「・・・待・・って・・・・・・」
「いや、待たないし。お前、ヤバそうだし。急ぐよ。・・・これ、恥ずかしいんだよなー」
マロウから離れることを諦めて、掴まれたまま大きく息を吸う。そして上を向いてこっそりと叫んだ。
「よ~せ~さ~ん。助けてー」
恥ずかしさを何でもないように押し隠し、暫し待つ。「う」と「い」を抜いて哀れっぽく呼ぶようにとの指導で、緊急の連絡はこんな形になっている。
「ケイー!」
空からミハとアキが現れた。ケイは嫌な予感がする。だが、仕方がない。
「ここだ、ここ」
「ケイ、大丈夫?」
「俺はな。問題はこっち」
相変わらず一人称が俺のケイに、ミハとアキがマロウを見た感想を漏らす。
「うわー」
「ボロボロ」
「そうなんだ、ちょっと、助けてやってくんない?」
「いいよー。トオ、呼ぶ?」
「待って、アキちゃん。ちょっと連れてこう」
「家に?」
「うん。家でトオさんに治して貰って、お姉ちゃんに見せた方がいいかなって」
「じゃあ、しゅっぱーつ!!」
あっと言う間に人、一人抱えて、二人は文字通り飛んで帰ってしまった。
「・・・ギルドに戻るか。ヒイさんに報告だな」
一応、ヒイが個別の指導をした客が忘れて行った物を追いかけて渡し終わって戻っている時に、倒れているマロウに気付いてしまったのだ。
「ケイさん、遅かったね。追いつけなかった?」
「いや、ちょっと妖精呼んでた」
「え?大丈夫?」
「俺はな。帰ってから話すよ。忘れ物は無事に渡せた。ミハとアキが来てくれたんだ。それで、持ち帰った・・・」
「帰ってから聞こうかな」
「そうしてくれ」
何かを察したヒイはそれ以上のことを言わずに、午後の準備に入った。なるべく仕事以外のことを考えないようにして。




