66.読める
「おーい。先生よー!これ、すげえぜ。俺でも読めたぜ!!」
「モックさん。それは良かった」
「信じられないんだがよ。描かれた絵の最初の文字が書かれているっていうから、並べてみたら読めるのよ!!」
モックが大興奮で、書き方教室の終わりに飛び込んできた。
モックが言うのは文字表だ。実は文字表は周りに溝が彫ってあり、横にずらすことで大きな板状の文字表を個別の文字に分けて並べ替えたりできるのだ。文字の読み方も分かるように桃の絵が描かれている「も」は、桃なので「も」と読めるようにできている。
ばらばらにならない文字表も作ってもらっている。カールは自分で言うだけあって、絵が上手い。かるたも文章に合わせて絵を考えてくれている。見本で渡したかるたは日本のことわざ風だったが、もっと親しみやすいように改良中だ。
一方の鉛筆は少し難航している。作り方は鑑定で分かるのだが、手作業では難しい部分も多い。いっそのこと、木炭だけにしようかとジョンとも話し合っている。字の練習ができればいいのだし、手は汚れたら洗えばいいと大らかだ。
モックの父親も、娘が非常に喜んだ大層な贈り物を貰ったことで張り切ってくれている。
「うおっ。鑑定っ子もいるのか。先生の所の子になったんだよな?」
「そうですよ。モックさん。こちら、サラナサ。サラナサさん、こちらは文字表を作って下さっている、モックさんです」
「先生、相変わらず丁寧だなー。モックだ。よろしくな」
「・・・サラナサ。よろしく」
「それで、モックさん他に何か用事があったのでは?」
「お。そうだった。これ通りに並べれば文字は読めるんだけどよ。ちょっと嵩張るんで、親父に相談したらもっと薄く小さくしたらどうだって言われてよ」
「そうですね。覚えるまでに持ち歩くのはいいですね。薄く小さくして、穴を開けて紐を通してみては?」
「作っていいのか!」
「ええ。勿論、便利な文字表になりそうですね。売値は材料費とモックさんのお父様の考案料で考えて大丈夫ですよ」
「んん?それでいいのか、先生の取り分無いぞ?」
「持ち歩く方は、私は何もしていないですから」
「そうかー?先生が言うなら、持ち歩く方は遠慮なくやらせてもらうな!けど、親父に怒られそうだな。親父は礼をいくら言っても言い足りないって、いっつも俺らに言うからなー。礼の足しになるか分かんねえけど、俺達で出来ることがあったら、遠慮なく依頼してくれ」
「はい。あの、お言葉に甘えて。良かったら今度、実際に作っていらっしゃる所にお邪魔していいですか?」
「そんなことでいいなら、いつでも来てくれ!」
「妹さんにもお話を聞けますか?」
「喜ぶぜ」
モックは来た時の勢いのまま帰っていった。
モックの幼馴染のカールとジャックの二人は、村で作っている文字表に関する仕事が忙しくなって、ほとんど冒険者としての活動はやっていないらしい。お休みの日に十二人全員で村に見学に行くと、途中の道まで迎えに来てくれたモックが若干呆れながらも嬉しそうに教えてくれた。
「カールもジャックも仕事に夢中で、仕方なしに俺が先生の所へ許可を取りに行ったんだ」
「楽しんで作成して頂いているのなら良かったです」
ヒイが文字表等の作成を積極的に行ってくれていることに、ほっとしたように告げた。
「俺たちは村で稼げないし、食べていけないから冒険者を始めたくちだからなー。村で仕事ができるなら、それが一番有り難いんだ」
「そうでしたか。充分、食べていけそうですか?」
「おう。腹いっぱいだ。村も潤ってる」
「木材が足りなくならないように、使った分を植えたりして気を付けて下さい」
「それも、親父が感心してた。村で話し合っているみたいだ」
「木は森と山を保つために必要ですから」
「分かった」
モックが神妙に頷いたと同時に、ぴょこりとモックと同じ色の頭がのぞいた。
「何故?」




