65.木工
鑑定持ちらしい少女が現れたことで、騒然となった冒険者ギルドだったが、ヒイが場を収めたのでこれから冒険者ギルドに何らかの還元があるだろうと安心していた。
ヒイは着実に冒険者ギルドで実績と信頼を築いている。冒険者ギルドに出入りする殆どが、ヒイの仕事を知っているし、書き方教室にも行っていた。そこで思わぬ助けを貰った者も多いのだ。
名前を書き終わった後、雑談していると思わぬ特技を見つけて貰ったり、補い合える仲間を紹介して貰ったりと有益な情報をくれるのだ。それがますます人気を呼ぶ。
そんな書き方教室でヒイと知り合って生活が変わった一人がモックだ。モックが話し掛けてきたのは書き方教室が終わり、片づけをしている時だった。
「ちょっと、いいか?」
「はい?今日の書き方教室は終わりましたけど、明日のご予約ですか?」
「いや、違うんだ。そっちも、違うぞ」
クロがヒイの腕の中でモックに対して低く唸る。
「クロ君。落ち着いて」
「俺、年の離れた妹がいてよ」
「ええ」
ヒイは返事を返しながら、妹さんへの贈り物について相談されるのかなと考える。
「それが、誰に似たのか賢くて、勉強好きなんだ。金は払う。その、こういった文字を練習するものを売ってくれないか?」
「それは、頼もしいですね。構いませんよ」
「本当か!喜ぶよ」
「あ、モック!こんな所にいたのか」
「帰るぞー」
「ああ、カール、ジョン。ちょっと待っててくれ」
モックと呼ばれた妹に勉強道具を買ってやりたい男性は、冒険者として組んでいるのであろう、書き方教室の部屋を覗き込んだカールとジョンに答えた。
「ん?モーリンへの土産か?」
「賢いもんなー。お前の妹」
「まあ、そんな所だ。親父に頼めば、木でできそうなものは作ってくれるだろうからさ」
ヒイが瞳を瞬かせて訊ねた。
「モック、さん?お父様は木工の職人さんですか?」
「モックでいいぜ。俺の親父はそんな大層なもんじゃねえな。ただの木こりだ。まあ、端材で細工物を作って売ったりもしているようだがな」
「それなら、お願いすれば作って頂くこともできますか?」
「物によるんじゃねえかな。親父に聞かなきゃ分かんねえが・・・」
首を捻るモックへヒイがここぞとばかりに作ってもらいたい品で、文字の勉強になりそうなものを積み上げていく。
「作って頂けるかと可能かを聞いて頂きたいのは、まず文字表。木製で作れば長持ちします。できれば絵といっしょがいいんですが・・・」
「絵なら、俺が描こうか?」
「ああ。カールは絵が得意だもんな」
モックが軽く請け負ったカールへ同意する。
「次にこの鉛筆という筆記具。これは外側が木製で、中は炭です」
「俺は炭焼き得意だぜ!」
「そうだったな、ジョン」
幼馴染らしい三人は得意なことが役に立ちそうでわいわいと盛り上がっている。
「最後に、文字表と似ていますが、遊びながら文字を覚えられる木製のかるたです。これにも絵をいれたいんです」
「ふーん。筆記具以外はほぼ板だから大丈夫だと思う」
「では、筆記具である鉛筆一本と文字表は合わせて千でお売りできます。遊び道具は仕事を依頼するお礼として差し上げますよ。遊んでみて改善点をあげて頂けると有り難いです」
「わ、分かった。買うし、頼んでみるよ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。遊び道具も貰っちまって、わりいな。返せるもんがねえんだが」
モックが費用の面で気にしている所で、ヒイが交換条件を出す。
「私達と売り買いしたことを秘密にして、商業ギルドには関わらないで頂ければ充分です」
「それだけでいいのか?」
「俺達も?」
「別にいいけどよ」
モック、カール、ジョンの三人はヒイがそれでいいならと言って、贈り物を抱えて嬉しそうに帰っていった。




