37.それぞれ
ヒイは考えながらクロを付けて歩く。ヒイは考え事に集中しすぎて、自分が歩いていないことに気が付かなかった。今日はニカが冒険に出る日なので、朝に出掛けるのはヒイとクロ、ニカ、ケイだった。
「・・・ヒイちゃん。まあ、いいけどさ。何をそんなに考え込んでるの?」
「!っえ?ああ。うん。マルクさんとフランさんには、基礎は伝えられるけどそこからどうしようかと思って」
「まあね。私たちだけじゃあ限界があるよね。それで、どうするの?」
「マルクさんにはあの魔女のユガリさんの所で手伝わせてもらって、フランさんは」
「キキラーティカさんに?」
「そう。様子を見てだけど。ケイさんは冒険者ギルドで色々な人をよく見ておいてね」
マルクとフランを気遣って貰っていることに感謝しつつ、黙ってついて来ていたケイは自分の話題になり驚いた。
「え?」
「冒険者ギルドなら色々な仕事や生き方が見れるから。存分に考えて」
「分かった」
ケイは神妙に頷きながら、クロに抱かれて移動していることに気が付いていないヒイにはそれ以外何も言わなかった。
「ひゃ~~~!!言って、二人とも自然に流さないで、言ってー!」
「いや。別にもう着いたしいいかなって」
「今更だしな」
今日の朝から頻繁に聞く悲鳴をあげたヒイが、ニカとケイに抗議する。二人はなんてことは無いと答えている。街に入る門まで来て、子供のように抱き上げられている自分に気が付いたヒイだった。
「私、テレーズにプロポーズしてくるから、また家でね。今日は別に帰るよ」
「・・・分かった。行ってらっしゃい」
「しっかりな」
まだ恥ずかしそうなヒイだったが、とりあえずニカを見送り。ケイも激励する。
「私達は書き方教室だね」
「ああ。本当にありがとな。・・・色々」
ケイはヒイがもたらしてくれる全てに感謝していた。ヒイはなんてことないように返してきた。
「こちらこそ、手伝って貰えて有り難いよ」
「そっか」
ケイは感謝を忘れずに表し続けようと心に決めたが、早々に放棄したくなった。それほど今日の書き方教室の生徒は個性的だった。ケイの顔が盛大に引きつり、逃げた。
「午後の授業の準備してくる」
「お願いします」
「わ~た~し~の名前は~マ□ウ=ジ=OOと~申~しま~す」
多分、化粧をしているのであろう顔は真っ白に塗られ、平面のようで目は笑っているかのように細められている。種族は人だろうと思われるマロウ=ジ=オオは名乗りも独特で、ヒイでさえも名乗られても聞き取れないかと思うほど住んでいる地域に影響を受けている物だった。
個別指導の最初の名前書きで、カードの色が変わらなかったのは初めてだった。
「あ」
「お~や~」
「心当たりはありますか?」
「あ~る~と言~えばあ~る」
「そうですか。言い訳にはなりますが、代筆では銀色になるのですが、マロウ=ジ=オオさんのお名前は無理そうなので、御自身で頑張って頂いて結果の色で料金表通りの金額を頂きます」
「そ~れでい~い」
話し方と顔の化粧にさえ慣れてしまえば、とても穏やかで今までにないくらいに字の上手な人だった。だが、魔力の通りが悪いのか、魔力が無いのか封じているのか色が変わらない。もしかすると偽名なのかもしれないなーと思いながら、必要事項を告げ練習に入る。
「あ~。変~わらな~いな」
「どうされますか?」
「料~金~表~通~りに」
「分かりました。字はとても整っています。今日はありがとうございました」
既定の最低料金を支払い、頷いただけで風変わりな客は帰っていった。




