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36.いつもの朝を

「おはよう。さあ、今日も始めるよ!」


 空気を変えようとしつつ失敗しているのが誰もが感じる程だが、ヒイは頑張っていた。クロは相変わらず一言も発せず、ヒイに絡んだままだ。


「ヒイちゃん、邪魔じゃないの?」


 何も疚しいことはないはずなのにぎくしゃく動くクロを付けたままのヒイに、ニカが突っ込む。


「ニイちゃん。気にしないで」

「・・・そう?」

「お姉ちゃんたち、仲良し!アキもね。トオさんと仲良し!!」


 アキが無邪気にトオと繋いだ手を上に掲げる。


「エル!私たちも負けてられないね」

「ミハ、何に張り合っているんだ?」


 ミハの張り切りように困惑したエルディランドゥが疑問を呈す。ミハは構わずエルディランドゥと腕を組む。


「早く、テレーズと一緒に暮らそう」


 ニカがひっそりと決意する。ヒイはクロをくっつけたまま料理をすることにしたようで、いつもの朝の風景のように皆に指示を出し始めた。


「クロ君、もう少し動きやすいと嬉しいんだけど?トオさんは揚げ物をお願いします。アキちゃんは朝食の準備に回って、マルクさんは卵焼きで、ケイさんとフランさんは朝食のパンとサラダをお願い。ニイちゃんはフランさんを手伝いつつ、今日の打ち合わせを。ミハちゃんとエルディランドゥさんはお弁当の準備をお願いします」


 クロが少しだけ余裕を持たせて、ヒイを囲い込む。ヒイが何かを唱えていた。


「いつものクロ君を背負っているだけ、黒くて可愛い狼のクロ君・・・よし!」


 精神統一でも図ったのか、ヒイの動きがいつもの調子を取り戻す。最近の弁当の数は二百を作るまでになっていた。余っても、ヒイの無限収納袋があるので傷まず次の日に持ち越せる。

 ヒイが作る袋は使用制限をかけ、持ち主から離れると自動で手元に戻る。無限なのはヒイ、ニカ、ミハだけだが、全員が便利な袋を腰につけ、金のカードを首から下げていた。


「ヒイ」

「え?クロ君?」

「俺、可愛い?」


 じっとヒイの作業を見つめていたクロだったが、唐突に口を開いた。誰もが話せたんだと驚きつつ、聞き耳を立てる。ヒイはクロの吸い込まれるような漆黒の瞳に見つめられるが、その視線には物ともせずにさらっと答える。


「可愛いよ」


 クロは満足したのか、またヒイの見守りと張り付きに戻る。曇りのない円らな瞳は子狼の時と変わらないなと思っているのはヒイだけだろう。周りから見れば見つめあい、いちゃついているようにしか見えない。それにヒイが気が付かなかったのは、誰にとっての幸いだったのだろうか。

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