29.新しい
弁当は作れば作るほど売れた。最近は、ヒイが帰って来てから調理の手伝いをするくらいまで売れている。子供達が寝静まった頃、ヒイとニカが話題にするのはミハとエルディランドゥのことだった。
「もう、お弁当屋さんと言ってもいいね」
「確かにね。ニイちゃんもミハちゃんも冒険できなくてごめんね」
「それはいいんだけどさ。ミハもそれどころじゃなくて、気にしていないだろうし」
「まだ、二人で練習してるの?」
「そうみたい」
「エルディランドゥさんはもうそろそろかな」
「かなり、整ってきていたよ」
「綺麗な字というか、正式な文字の形を分かっていなかったようだから、それさえ分かってしまえば早いよね。もともと、形を把握するのは早いし、見たままを再現するのも得意なようだしね」
「冒険者としてもどれも大事な能力だよね」
「うん。どうしようかなー」
「何が?」
「もう、分かっているでしょう? ・・・家に住み込んでもらおうかな」
「それは助かるね」
「騎士団に通うのが大変になっちゃうんだけど」
「聞いてみたら?」
「そうする」
ヒイがミハとエルディランドゥが練習している部屋で声を掛ける。最初に泊まった日から、エルディランドゥは騎士団寮には帰っていない。
「遅くまで、ご苦労様。そろそろ寝よう?」
「そうだね」
「ああ」
「もう、エルディランドゥさんも卒業ですね」
「「!!」」
「二人ともそんなに、驚かなくても・・・」
「そっか」
「いや。それは・・・」
「このままの状態がずっと続けばいいのに」と考えているだろう意気消沈している二人に、ヒイが厳かに告げる。
「そこで、提案なのですが」
二人が揃って凄い勢いでヒイに顔を向ける。一言も聞き逃すまいとしているようだ。
「エルディランドゥさん。引っ越してきませんか?」
「うんうん。家を家にしちゃえばいいんだ!」
「・・・いいのだろうか」
「私たちはそれを望みます」
「是非」
ニカも顔を出す。
「一緒に住もう!」
ミハはプロポーズのような言葉になっている。
「俺も、こんなに居心地が良いのは始めてで、誘って貰えてとても嬉しい」
「じゃあっ」
喜ぶミハを手で制し、エルディランドゥが続ける。
「だが、それは余りにも図々しいというか、俺の我儘というか・・・」
「いいじゃん、エルも嬉しくて、私たちも嬉しい」
さらっとエルディランドゥの愛称を呼んだミハが言い募る。ヒイとニカが目配せする。
「確かにね」
ニカも賛同。
「騎士団でやり辛いとかあるのかな?」
「いや。それは大丈夫だ。この生活が離れがた過ぎて、騎士団の仕事に戻れるかどうか。っ忘れてくれ」
これ以上話を続けると自分が情けなくなると、エルディランドゥが口を噤む。
「家に永久就職しちゃう?」
ヒイが大真面目に問う。ミハが後押し、ニカが同意する。
「え?」
「そうしよ!」
「ええ?」
「いいね。皆、喜ぶよ」
「うんうん」
ミハが深く頷いている横で、驚いているエルディランドゥが置いてきぼりになっている。
「あ、いや。俺は以前の自分がどうやって騎士団で仕事をしていたのか、思い出せないと続けたかっただけで、そ、そんな厚かましい要求をした訳じゃあ・・・」
「駄目なの?騎士団に戻っちゃう?」
ミハがしょんぼりとエルディランドゥを覗き込む。
「う。そ、それは・・・」
「ミハちゃん結婚しちゃえば?家、建ててあげる」
ヒイが微笑みながら言う。がっつり周りから囲う方式だ。
「え?本当?」
「ミハ、プロポーズしなきゃ」
ニカも笑って促す。囲いに更に追い込んでいく。
「はっ。そうだった。エルディランドゥさん。私と結婚して、ここに住んで、仕事を手伝って下さい」
エルディランドゥは真っ赤に茹で上がっていた。ほとんど聞き取れないくらいの小さな声で答えた。
「・・・はい」
新しい家族が増えた。




