24.初めての個別指導
実際に見るということは大事だった。最初にケイからしっかりとヒントは貰っていたのだ。金色のカードを首から下げた二人に、冒険者たちが群がった。今日も閑古鳥が鳴くようだったら、ニカだけ何か軽く仕事をしようと話していたのだが、そんな暇は無かった。
「はい。あなたは明日の午後の集団ね。」
「分かりました。個別も予約は三日後の午前になります」
こんな調子で怒涛のように予約を受け、帰ると存分に食べ、遊んだ子たちとあまり話もできずに寝てしまった。
今日もヒイとくっついているクロ、ニカの三人で出勤だ。あまりに人が多かったため、子供たちを連れて行くのは不安だったのと、まだまだミハ以外は絶好調で健康とは言いづらい状況だった。本人たちは元気だとは言うが、体は痩せているし、まだ新しい環境に緊張しているようで表情が硬かったので留守番をしてもらっている。
午前中は個別指導だ。今日の個別指導は格好いいお姫様のような騎士だった。もしかしたら、お姫様の冒険者かもしれない。豪奢な衣装に、立派な防御力の高そうな鎧で固めている。
「よろしく頼む」
「はい。まず、冒険者身分証明書に記載する名前をお伺いしています」
「エカチェリーナと」
「分かりました。次に目標の色は金色で、失礼ですが、お支払いの準備はありますでしょうか?」
「勿論だ。だが、大きく出たな。まあ、その首から下げている物を見れば、分かりはするが。後、金はここに」
支払い能力がある所をしっかりと見せて貰う。お互いの安心のためで冒険者ギルドでは必要とあれば問題ない行為らしい。これもケインから教えて貰っていた。
「ありがとうございます。まず、銀色に致しましょう。端を押さえて頂いて構いませんので、私が書かせて頂いても?」
「ああ。やってくれ」
ヒイがエカチェリーナと書き、パッと光り銀色になる。
「なんと!!素晴らしいな。これで辞めたくもあるが・・・」
「どちらでも構いません」
「そなた、余り欲が無いようだな」
「そうでもないんですが、無理強いも良くないかと。何度でも書きますので、御自身で練習してみては?」
「そうだな。やってみなければ、無理かどうかも分からないな」
エカチェリーナが真剣な様子でペンを持つも、既にペンがミシミシと軋んだ音を立てている。お姫様のような印象を受けたので、軽量化された防御力の高い鎧を着ているのかと思ったが、見た目通りの重量の鎧を着れる方らしい。それならばこの力の入り様も頷ける。下げている剣も重量級だ。利き手じゃない方には盾が立て掛けてある。それもとてもしっかりした物だ。
「エカチェリーナさん、まずはこのペンの持ち方から練習しましょう」
「そうか?」
ヒイはこのペン限定で金色にするための持ち方や、書き方があるのだと伝える。本当はどんな筆記具でも、エカチェリーナの力の入れ具合では書く前に壊れるし、判別できる字を書くことは難しいくらいの力の入り具合だ。だが、本人は真剣で、書き物をしたことがない感じにも取れたし、筆記具で文字を書くという事を誰もが当たり前のこととしてできる訳でもないのだ。
「まずはもう少し力を抜いて横に」
「ふんっ。こうか」
エカチェリーナは力が有り余っているようだ。
「手は添えるだけで。引っ張るとすぐ抜けるくらいの力加減がいいですね」
「む、難しいな」
「そうです。その調子です。次は縦に」
「ぐぬぬぬ」
今度は顔に力が入っている。
「今度はうっすら書かれている文字を、なるべく似た形でなぞって下さい」
「それならば・・・わっ。はみ出たぞ! 行き過ぎだ! くっ手強いな」
「気にし過ぎず、どんどん書いて下さい。沢山ありますから」
何と戦っているのだろうか。用意した、灰色で書かれている文字をなぞって練習してもらう。まず、字を書くことに慣れることと、字の形とバランスを覚えてもらうことが重要だ。冒険者としてはかなりの力量なのだろう。凄い集中力と学習能力で、どんどん書く文字が整っていく。
「随分、上達されましたね。今度は、御自身のカードに書いてみてはどうですか?」
「・・・そうか? 勿体ないな。銀色を取り消すことになるとは」
「納得のいく出来にならなかった場合は、もう一度私が書きますよ」
「それならば、心置きなく。いくぞ!!」
気合は充分です。
「これからも、精進することにする。世話になったな」
「いえ、一万頂きましたので。これからも練習していけば、金色にもなりますよ。今日だけの練習で銀色になったのですから」
「ああ。感謝する。ではな」
「ありがとうございました」
ヒイが頭を下げ、抱かれていたクロが少し潰されているが、それも嬉しそうだ。こうして、初めてのお客と言えるだろう、エカチェリーナが帰っていった。
お昼を食べて次は集団指導だ。
「俺、こんなに真剣に字を書いたの初めてだ」
「俺も、初めて名前をしっかり書いた」
集団指導で最後まで粘っていた二人組が嬉しそうに、自分たちの名前が書かれた銀色のカードを見せあっている。一番、時間をかけて丁寧に描いた二人だったが、金色まではいかなかったようだ。それでも、満足して帰っていく。集団で銀色に持っていければ、かなりお得だろう。彼らも広告というか、宣伝をしてくれるだろう。早々に、諦めたものでも、木の色のままという人はいなかったのは御の字だろう。




