21.従業員を雇う
「じゃあ、名前はマルク、フラン、ポンドはどう?」
「俺、マルク!」
「あたし、フランっ」
「ぼ、おれポンド」
今日も書き方教室の希望者は現れず。ちらちら見ていく人が多いので、認知はされて来ているようだ。ヒイは稼ぎが無いことを気にもせず、朝にケイと約束した仕事の話の前に、ケイを慕って付いてきた来た三人に名前を提案していた。三人ともお金が大事とのことで、その繋がりで決めた。フランだけが女の子だ。孤児のようで、孤児院もあるらしいが、どうやら四人には合わなかったようで、協力して生活しているらしい。
「ありがとな。こいつらにも」
ケイが冒険者ギルドにいられるようにしてくれた事、書き方教室、弁当と三つの礼をまとめてする。
「ううん。皆、きちんと書き方も練習してくれたし、ありがとね。それで、仕事の話なんだけどね」
「ああ」
「今までやっていた仕事は、目を付けられているみたいだから、辞めた方がいいと思うの。これは、私の意見だからケイさんが続けたいのなら仕方が無いんだけど」
「別に、やりたくてやってる訳じゃない」
危険な仕事で、犯罪だということは分かっていた。目を付けられているのなら、尚更だ。だが、他に食べ物を得る術を知らないケイにはどうしようもなかった。誰かに相談することも、仕事を斡旋してもらうことも、知らなければやりようがない。
「じゃあ、私が提案する仕事を考えてくれる?」
「あんたが、俺を?」
雇ってくれそうだという事は理解したケイが聞き返す。
「そう。あと、マルクさんとフランさんとポンドさんにも」
「あいつらもいいのか!」
「うん。四人とも街には詳しいでしょう?だから、お昼のお弁当を配達してもらおうかと思って」
「昼になんか、すればいいのか?」
四人全員で働けるならば願っても無いが、すぐさま飛びつくような真似はしない。
「そう、今日お昼ご飯食べたでしょ、あれを届けて欲しいって言った人の家に届けてもらおうかと思って」
「俺たちが持ち逃げするとか考えないのか?」
「うーん。そうしてしまうかもしれないけど、一時凌ぎだよね」
「あんたのも、そうかもしれないだろ」
懸念を皮肉で返す辺りが、何とか三人を養って来た経歴を感じさせる。ヒイは流石だなと感じつつ、もう少し踏み込んだ。
「それもそうだね。私は、商業ギルドでお店を作ろうと思って、従業員に四人を雇おうと思っています。それには、三食と家と、衣服も付きます。お給料は利益が出たら相談させて下さい。それまでは、現物支給で契約もきちんとしよう」
騙そうとか搾取しようという意識が無いことは通じたのか、ケイがしっかりと顔を上げ聞く。
「俺たちにそこまでしてどうする?」
「ご縁があったし、四人とも柔軟そうだからかな」
「なんだ、それ。誰でも良かったのかよ」
「そうとも言うけど、違うかな。ケイさん、自分で何とかしようって、何時だって考えて行動してたでしょう。だからかな」
「憐れんだのか?」
「尊敬した」
「ふん。こいつらまで面倒見てくれるなら、暫く仕事は手伝ってやる」
「よろしくね」
ケイ、マルク、フラン、ポンドはその日の内に、まだ出来ていないシキ商会の従業員となった。ちなみに、従業員の宿舎は街の外のヒイ達の家の隣に建った。
「有り得ないだろ!」
新しい家を示された四人は、口をあんぐりと開け驚いた。森に、我に返ったケイの叫びが響き渡たる。
冒険者ギルドで仕事終わりのニカとミハが合流し、数少ない隠していた荷物を持って、街の外に恐る恐る出た四人だったが、恐怖というよりも驚きの連続で疲れ切り、自分たちがどうにかなってしまうというか、されてしまうという心配をせずに新しい家でその日は眠りに付けたのだった。