20.増えました
今日も、目立ちながらの出勤だ。
「あ、ケイさーん」
ヒイが大きく手を振り、昨日から生徒になっているケイに声を掛ける。ケイが凄い表情でこちらを見た。
「お姉ちゃん、大丈夫なの?」
「うん。あのままの方が危なかったから」
あまりの表情にミハが驚き、ヒイに聞くが、ヒイは真面目な顔で答える。ニカはケイではなく、ケイが摺ろうとした相手を見据えていた。
そこへ、仕事を邪魔されたケイがなかなかの剣幕で詰め寄ってくる。
「おい!」
ヒイがケイに耳打ち体制を取ると、ニカがそれを隠すように前に立つ。
「腕、危なかったよ」
「なっ!」
「おはよう、ケイさん。今日のお弁当もお姉ちゃんの力作だよ!」
ミハがしっかり話題を変え、グループシキと一人は足早に冒険者ギルドに入った。
「ふー。なんだか、ネチっこい視線の奴だったね」
更なるミハの言葉に流石に、何かを感じ取ったのかケイが声を抑えて言う。
「やばかったのか」
「うん。ケイさん気を付けて。なるべくならそのお仕事はしないで貰いたいけど、その代わり提供できる仕事って、お弁当の宅配なんだよねー」
「なに?ベントーって、あの昨日の昼の?」
「書き方教室だけじゃあ、食べていけそうにないし、昨日のケイさんも美味しいって思ってくれたでしょ?」
「あ、ああ」
渋々だが、口にあったことを認めたケイがその後に言おうとすることを、ヒイが止める。
「俺なんて、」
「今日、終わったら話そう?」
「そうだね」
「私たちも仕事行ってくるー」
テキパキと教室の準備を始めてくれていたニカとミハが、戻ってきて仕事の依頼の紙を振る。
「それそれ、その二件でね。行ってらっしゃい」
二人を見送ると同時に小さな子が集団で入ってくる。
「あ、お前たち!」
声を上げたのはケイだった。
「いたー!」
「見つけた」
「ずるいぞ」
三人のケイと似たり寄ったりの格好で、更に幼い感じの子たちだ。多分、ケイが面倒を見ているのだろう。良く、懐いている。冒険者ギルドに入って来るには幼く、保護者もいないため、眉を顰めている者もいる。
「はーい。こっちへ、来てー。トオさん、四人と上で文字の練習していて、くれる?」
「ええ。かまいません」
「はい、トオさんに付いて行ってー」
「ヒイさん」
流石に、子供たちの集団には戸惑ったのか受付から出てきた人がいた。
「あら? ケインさん、どうされました?」
「あの子たちは?」
「お客さんです」
ヒイはどうしてケインが声を掛けて来たのか重々承知していたが、知らない、気が付かない振りを続ける。
「暫くはあの部屋もヒイさんにお貸出ししていますから、いいのですが・・・」
「はい。ありがとうございます。出てきて頂いたので、ちょっと違うことも伺いたいのですが、お弁当というかお昼に食べるものを販売するのに、許可はいりますでしょうか?」
「お昼?ですか・・・。どのようなものを?」
「これなんですけど」
ケインが子供たちを客だと受け入れてくれたため、ヒイは薄い木の板で作られた四角い箱を、肩から下げていた鞄から出して見せる。蓋は一枚板にして、簡素な紐で十字に止めているので、開けても見せる。
「これを幾らで?」
「700で」
「買います」
「え?ケインさんが買って下さるんですか?」
「はい。昼はどこも混むので、携帯食は飽きました。個人的に知り合いに売るなら許可はいりませんが、商売にされるのなら、商業ギルドへ登録が必要です。詳しくは商業ギルドで聞いて下さい」
「ありがとうございます。まずは、お試だったので、食べてみて感想を聞かせて下さい。今回、お代は頂きません」
「いいんですか?」
ケイ達を見逃してもらったお礼には安いものだ。
「どうぞ。冒険者ギルド外のことも教えて頂いてますし、試作ですから」
「それでは、お言葉に甘えて」
ケインが去っていき、聞き耳を立てていた冒険者たちも解散する。冒険者は目新しいものに敏感だ。同時に切り替えも早い。自分達の手にはまだ入らないと分かると即、立ち去った。




