195.やりがい
ぐったりしているケイの一方で、心なしかしょんぼりしているムウがいた。
「お母さん、どうしたの?」
「ああ。少しやりがいがな・・・」
遠巻きで、母親の様子に気が付いたヒイがイツに尋ねる。父親はどうにも煮え切らない態度だ。
「お母さん、したいことあったの?」
そこへミハが飛び込んで聞いてくる。ちらりとケイとムウを見るが、暫くそっとしておこうと判断したようだ。
「お母さん、皆が一気に成長しちゃったからなー。アキちゃんもヨッちゃんもしっかりしているから、どうにもな」
「お母さん、何が趣味だっけ?」
ミハが問い掛けるが、イツは首を傾げて悩んでいる。
「うーん。お母さん何でも興味あるし、取り敢えずは、やってみようという方針だからな」
「うん。そんな感じ」
イツとミハが相談する中、ヒイは虚空を見続けている。
「生き物は全般好きだけれど、お別れが寂しいって言っていたからなー」
「お母さん、人も動物も好きなんだ!」
「そうだなー」
「それにしよう」
ヒイは思案が終わったのか、二人をしっかり見た。
「どれ?」
「何か良い案があるのかい?」
「召喚か憑依か迷っているんだけど・・・」
助け舟を出すようにイツが情報を口にする。
「お母さん、昔、大きな動物に跨りたかったって言っていたなー」
「それだ! お姉ちゃん、ふわふわでもこもこで大きいのがいい!! 乗れるくらい!!!」
「てんこ盛りだね」
「ミハは正直だなー」
イツは末っ子が長かったミハの、欲望への忠実と素直な甘え様に笑っている。
「ちょっと考えておくけど、お母さんにも聞いてみるよ」
「頼んだよ」
もうウキウキしたミハが話を進めていく。
「お父さん、どんな動物がいい?」
「え? 二人で決めちゃうのかい?」
「違うよ! アキちゃんとヨッちゃんも誘うよ」
「そうか。呼んで・・・」
「ちょっと行ってくるねー!!」
イツが呼んでこようかと腰を上げた所で、ミハが唐突に立ち上がり走り去ってしまった。
「呼んで来てくれるのかな?」
考えながらも、呆然とした父親を憐れに思ったのかヒイが答えた。
「多分ね」