192.いた
「おいっ!」
今日も朝からケイは元気です。声を掛けられたマロウが問い返す。
「どうしたのだ?」
「どうしたじゃないんだよ! なんで、お前もこっちにいるんだよ!!」
「就職したからだな」
「はあ?」
「私も無試験だ」
「そうだろうよ!」
ケイはやけっぱちに答えた。マロウだって、読み書きはばっちりだ。それは知っているし、送り迎えのついでに自分の用事もすませてもらった方が気を使わなくてすむ。だからといって同じ職場というのは聞いていない。しかもマロウの方が、仕事内容が複雑そうで賢そうな所もまた悔しい。実際、賢いのだ。外国語もできるとは聞いたことがあった。どうやら、そういった仕事もするらしい。
とりあえず、仕事の初日はマロウと大人しく、ケインの話を聞く。家に帰ったら、ヒイの前に走っていった。
「マロウがいたぞ!」
「?」
ヒイが不思議そうにケイを見ている。そこへミハもやって来た。
「ケイ、なに、なにー?」
「どうしてマロウも冒険者ギルドにいるんだよ!?」
「ああ。就職したからだね」
「あれ? 昨日は二人の就職祝いだったの?」
「そう」
ミハが聞きヒイがあっさり答える。それに憤る、ケイ。
「そうだろ! 俺も知らなかったんだよ!」
「水臭いから怒ってるの? うーん。今度から色々話してって言っといたら良いんじゃない?」
ミハの助言に、ケイは何だか自分の態度と気持ちが恥ずかしくなってきて、一言返して立ち去った。
「考えとく!」
逃げるように去ったケイの背中を見ながら、ミハが疑問に思った事を聞いた。
「お姉ちゃん、マロウさんに協力してあげたの?」
「あれ。分かっちゃった?」
「うん。気が付かないの、ケイくらいだよ」
「ケイさん、マロウさんの事となると視界が狭くなっちゃうよね。でも、それも可愛いから良いんだって」
「はー。ケイは大変だね」
「もう少し自分の事をよく考えて、気持ちとも向き合えると良いね」
「照れ屋で意地っ張りだからねー」
「ミハちゃんでもそう言っちゃうか」
「ええー。私だって、既婚者だよ」
「ま、そうだね」
「あ、それでお姉ちゃんはマロウさんにこっそり何してあげたの?」
「推薦書を出したよ」
「へー。そんな制度あるの?」
「無いけど、経歴というか、どんな事が出来るか他者からも知れた方が、採用しやすいでしょう?」
「そうだね」
ミハはすかさず同意したが、ヒイの文章の事だ。きっと完全完璧に仕上げて、不採用は選べないものになっていたに違いない。一人、静かに大きく頷くと、今日の晩御飯の準備に混じる事にした。