182.来ちゃってた
家も出来、落ち着いてきたので観光も兼ねてサラナサがいるモックの村を訪ねて行くことにした。ムウが和紙系の仕事をしようと考えていたのでその希望の和紙も伝えに。
イツはまだどんな仕事をしようか悩んでいた。自分がしたかった事。子供の頃の憧れ、冒険心、探求心、どれもすっかり忘れてしまっていた。だが、我が子達と共に身近に戻って来た。そのことが嬉しくて、その喜びに浸っていてついついどれか一つを選びきれないでいた。
「あなた。何でもやってみたらいいじゃない? ヒイちゃんが衣食住とお金に困らないようにしてくれているんだし」
「ヒイに甘え過ぎじゃないか?」
「平気よ。一つでもものになって稼げれば、お金は返していけるでしょう? それに、あの子もあなたと一緒で色々やるのが楽しい質よ」
「・・・そうかもしれないな」
「それで、手始めに何をするの?」
「ム、ムウはどうするんだ?」
「まだ、名前で照れるの?」
「そういうお母さんだって、『あなた』って」
「イッ君。これでいい? もう、また『お母さん』になっているし」
ムウの勝ち誇った顔は最高に可愛かった。
「サラナサさん? 初めまして。母のムウです。これから、よろしくね」
「父のイツです」
「よ、よろしくお願いします。サラナサです」
ぐいぐいとサラナサに近寄り、手を取り握手をするムウにミハっぽさを存分に感じながら何とか初対面の挨拶を済ませた。そしてケイに助けを求める視線を送るが、あっさり逸らされた。そこへヒイが気にせず問い掛ける。
「お仕事はどう?」
「順調だと思う」
「今日は母の求める紙の相談に乗って貰おうと思って」
「母・・・」
こそっとケイが補足をする。嬉しそうな困ったような調子でだ。
「いつの間にか来ちゃってた。流石、家族って感じだ。気を付けろっ」
「え、ええー」
「うん。家族と合流、出来たんだけど、よく見るのは父だけにした方がいいと思う」
「わ、分かった・・・」
和紙の相談をするサラナサと母を残し、父にマロウの村を案内する。そこへカールがやって来た。
「先生、久しぶり」
「カールさん。お仕事どうですか? モックの彼女?が凄い勢いだ」
「本当だぜっ。まあ、仕事は増えて稼げてるが・・・」
ジョンも顔を煤で黒くしながらやってきた。炭焼き等も順調なようだ。ヒイとクロ以外は二人に挨拶して、村を駆け巡る方へ向かっていった。
「順調なようで何よりです。サラナサさんはどうですか?」
「頑張り屋だな」
「しっかり働いてるぜぇ。お前とも仲良くやってるようだしな!」
そう言うなり、ジョンがさっさと逃げていく。