18.二件目の依頼は
徒歩で迎える距離だったので、ニカとミハは街を堪能しながら歩く。次の依頼に向かう途中の話題は、自ずとキキラーティカの家にあった武器の事になる。
「次は、双剣について聞けるといいね」
「そうだね。今度は指名してくれるっていうし、徐々に仲良くなって聞きたいね」
「ニイちゃん。お姉ちゃんのことだから、次の仕事は私関係?」
「多分ね。魔道具店の水晶玉磨きだって」
「・・・地味じゃない?」
ミハが魔法を使う依頼では無い事にがっかりする。ニカはまだ初日だという事をミハに思い出させている。
「9級の依頼なんてそんなもんじゃない?」
「それも、そうか。ただ磨けばいいの?」
「ええっと。魔法を使わず、魔法を出さずに磨くことが可能な者」
「普通に、きゅっきゅすればいいのかな?」
魔法初心者にはさっぱり分からない事だらけである。
「やってみて、駄目だったら仕方が無いよ。魔道具店の見学だけして帰ろうか。お試ありって書いてあるし」
「そうだね。お姉ちゃんの書き方教室も心配だし」
「あっちは何とかなっているでしょう。ここだね」
「わあ」
魔道具店としてイメージしていたものよりももっと魔女っぽくて、更に怪しげで、不気味だった。何故か店の一部の様に止まっている烏のような黒い鳥も鳴いた。いつもは物怖じしないミハだが、ホラー系は大の苦手だった。腰が完全に引けている。逆にニカは怖い話は平気だった。ミハが嫌がるので家にいる時には見たり、聞いたり、話したりはしなかったが。
「表からでいいのかな?」
「・・・裏もあるの?」
ニカの後ろについて店の裏手まで回ってみるが、特に出入口は無いようだった。
「こんにちはー」
「ニイちゃん、そんないきなり」
「ひひひ。いらっしゃいって、お客さんじゃなさそうですね」
雰囲気作りのためか老婆の魔女姿だった女性の声が、突如若返る。ニカが手でぴらぴらさせている冒険者の依頼書に目を止めたかららしい。ミハはニカの背中にくっ付いたままだ。
「び、びっくりしたー」
「水晶玉磨きの冒険者さん?」
「そう。お試して貰いに」
「今まで磨いたことは?」
「私も妹も無いよ」
「では、お試から。こちらをこの布で磨いて下さい。魔法を使わず、魔力を出さず」
何も無い所から、手のひらから余るくらいの大きさで曇った感じの水晶玉二個と布二枚を出し、ニカとミハに渡す。
「ニイちゃん。何も無い所から出たよ!手品?」
「いや、魔法でしょ」
「手品?はい。魔法ですよ。私、魔力強くって磨きに向いてないんですよ。細かい調整も苦手で」
ニカと同じ年くらいの長い紫色の髪の毛をふわふわとさせていた女性はにっこりとほほ笑んだ。
「店主さん?」
「ええ。この店の店主で魔女名をユガリと申します」
「ニカです」
「アキです。魔道具もユガリさんが?」
「ええ。作成、販売、調整も行っております。また、別途呪い、占いもお受けしますので、お気軽にどうぞー」
「店の感じは御趣味で?」
ニカがユガリの穏やかな感じで聞けそうだと判断し、聞いた。
「いえ、ここ魔女の店チェーンなんで、皆こんな感じです。ご存じなかったですか?」
「チェーン、店」
日本語化でチェーン店と言っているが、系列のということなのだろうと自分を納得させるニカとミハ。若いからチェーン店と言っているのだろう。
「へえ」
「やだあ。私の趣味じゃないですよ」
「それは良かった。はい。これでどうですか?」
ミハが心底ほっとした様子で、魔力を使わず、出さずを意識して磨いた透明になった水晶玉を差し出す。
「わあ。しっかり磨けています。お二人とも大丈夫そうですね。このまま100お願いします」
「百!」
「チェーン店なら、そういう回収して磨いて戻すという制度とかもあるのでは?」
「フランチャイズなので、そういうのはやってないんですよ」
何故か会話が日本にいるかのようで錯覚してしまう。ニカはその考えを頭から振り払い、水晶玉磨きに没頭することにした。
「ありがとうございました。また、機会がありましたら。後は、お客さんとして来て頂くのも大歓迎です!」
店主のユガリに見送られ、百個を磨ききった二人は、帰路に着く。ニカがミハに聞く。
「魔道具参考になった?」
「魔女の店は余り儲からなさそうってことは分かった」
「まあね。お客さん誰も来なかったしね。何か大口の収入があるのかもしれないけど」
「水晶玉のレンタルとかかなー。しかも、冒険に役立ちそうなものはあまり置いていないみたいだった」
「そうだよね」
二人は磨きに余裕が出てくると、店内を見回す余裕もできた。魔女の店の出入り口は一つのみで、入ってすぐ、カウンターが店の幅いっぱいに伸び、真ん中に店主のユガリが立ち、その後ろに陳列棚、長いカウンターの端にカウンターチェアといった背の高い椅子二脚が置かれていた。その二つの椅子に腰かけ磨いていたので、雑多に棚に押し込まれている商品を見るともなしに見れたのだ。