179.結婚
「フランー」
「あ。リガル」
フランと引き離されていたリガルが、呼び声と共にひしと抱きついてきた。一緒にいたケイはフランが完全にリガルと離された理由を忘れていた事に気が付き、嘆息する。
「おい。どうして、いきなりフランと結婚してんだよっ」
フランが忘れていて気の毒だとは思うが、それとこれとは別だった。最初っから喧嘩腰だ。それを聞きつけたのかマロウとエルディランドゥもやって来る。
「黙っていたのはすまない。フランとどうしても離れがたく、故郷に行った折につい・・・」
「『つい』ですむかっ!!」
「そうですよね。婚約者としてご挨拶に行くと言っていたとは記憶しています。フランさん、どうして結婚することになったの?」
きっとエルディランドゥがすぐさま取って返して呼んできたのだろう。ヒイがいた。ケイはヒイを見てすとんと怒りが落ち着いた。ヒイはきっと自分の分まで怒って、この何とも言えない気持ちを解決してくれるだろう。
「分かんない」
「フラン・・・」
「フランさんは、結婚をするのは良かったんだよね? どうして?」
「うん。一緒にいれるから。結婚は同意が必要だから、同意したよ!」
フランの言葉にリガルが感極まっている。非常に簡潔な答えだが、フランの意思と思いが汲み取れた。そこでヒイは、漸くリガルに対してのみの剣呑な雰囲気を引っ込めた。旅行中は四六時中一緒にいたが、帰って来てから以前の生活に戻った事を全く気にしていないフランとリガルの差に、ヒイもケイも二人の力関係を察した。
「そっか。結婚。おめでとう。フランさん。じゃあ、今度は結婚してからはどういう生活をしていくのか、考えてみて?」
「結婚してから・・・」
いつもしっかりはっきり意思表示をするフランにしては、珍しく言い淀んで考えている。
「どういう仕事をしていきたいかを考えた時と一緒だよ。鍛冶はこれからも続けていく?」
「勿論!」
「じゃあお仕事は続けて行こうと考えていて、住む場所はどうする?」
思ってもみないことを聞かれたかのように、フランが首を傾げた。
「ここじゃないの?」
「大丈夫だよ。ここで。リガルさんの家と行ったり来たりしてもいいし。マルクさんのようにしてもいいよ。家はどうする? ニイちゃんやミハちゃんのように新しい家を建てる?」
「ここにする」
「分かった。では、リガルさんの部屋をケイさんと相談して用意しようか」
「うん」
リガルはフランの答えを頷きつつ、全て同意していた。こうして婚約者の紹介旅行が、新婚旅行と兼ねてのものとなって幕を綴じた。更に、結婚式をあげる仲間にフランとリガルが追加され、それを聞いたアキとヨツはとても喜んだ。