174.行こう
「お父さん、お母さん。何するー?」
ミハがわくわくした顔を隠しもせずに聞いている。それにヒイが若干、慌てて続ける。
「ルグヤさんとヤグロさん、お二人にも不自由させない程の稼ぎはあるつもりですが、何かご希望はありますか?」
「あらー助かるわ」
「いえ、御心配には及びません」
「ヤッくん。何するの?」
「一緒にお札、飛ばす?」
ヤグロの丁寧な言葉に、ヨツとアキがきゃいきゃいと混ざってくる。
「そうねー、ヤグロはアキちゃんにヨッちゃんと一緒に学ばせて貰いなさい? そうしたーお願いは構わない?」
「はい。勿論です。ルグヤさんご自身はどうされますか?」
「私はー、ユガリの所に顔を出して、調整してからーどうするか考えるわ」
「ナナはお出掛け?」
「そうーね」
ムウが少し心配そうに声を掛けるが、元々こちらにいたルグヤの方が生きていく術を知っているのだ。寂しいが、帰ってくるまでこちらもしっかり生活基盤を作って待っていようと思う。
「気を付けてね。ヤグロ君と待ってるわね」
「私ー強いから大丈夫」
「知ってるわ」
ムウがその後は言葉にしなかったが、幼馴染で頭も良く、運動神経も抜群で、精神力も強靭だ。
「でもー、私がズルしたってムーも思う?」
珍しく殊勝な調子で問い掛けて来たルグヤに、微かに目を丸くしながらムウが返す。
「え? なんで?」
「うーん。大人でー、むこうに行ったから」
「会った時は子供だったでしょう?」
「そこはー魔法で」
「へー。あっちでも使えたのね。凄いわ。こちらでは大人でも、あっちでは何もかも初めてだから、子供と一緒でしょ」
「うふー。ムー、好き」
「急にどうしたの? 私も好きよ。直ぐ行くの?」
「そうねー。ムーも一緒に行く?」
「いいの? あなたはどうする?」
イツは二人で行きたいことが隠しきれしないムウと、それを聞いたミハが中々凄い顔をしている理由を後で聞いておこうと思いながら苦笑しつつ答える。
「留守番しているよ。行っておいで。ルグヤさん、よろしくお願いします」
「まーかせて」
こうして二人は出掛けることとなり、そんな大人の話をそっちのけでお札を飛ばして遊んでいた、基、生活の糧を模索していた子供達はあっさりと両母親を見送った。