172.性別
「ヤッくん」
「なに?」
「ヤッくん」
両方からアキとヨツに引っ張られてやって来たヤグロは恥ずかしがったり、照れたり邪険にしそうなお年頃にも関わらず、何時だって二人に優しく穏やかだ。
「ヤグロ君、二人がごめんね」
「「ニイちゃん」」
「いえ」
食事は静かに食べることが出来た方が良いだろうと、ニカが食事を早々に終えた二人を引き取る。
「フウちゃんは兄ちゃんになったの?」
「そうだよ」
「男?」
「どっちにもなれるよ」
「凄い。どうやるの?」
「秘密」
「ええー。アキは見た?」
「ううん。見てないけど、アキも男になった!」
アキが胸を張る。イツとムウが食事を放り出し、駆け寄って来た。
「「アキちゃん!」」
「なにー?」
「男って!?」
何故かミハも混じっている。
「ミハ、気が付いてなかったの・・・。トオさんと差が出て来てたでしょう? それに、ヨッちゃんとも瓜二つとは言えなくなってきてるよ」
「本当だー!」
「ええ? アキちゃん、どうやったの?」
イツがおろおろする中、ムウがすっとしゃがみ込み、アキと目線を合わせる。
「アキちゃんは男性になりたかったの?」
「うん。トオと結婚したいもん」
あっけらかんと告げられる。理由が分かり、ヒイが他の情報も出していく。
「そうだったの。同性でも結婚できるよ」
「うーん。ニイちゃんみたいに格好良くなりたい! あと、子供が欲しかったら男女だって冒険者の人たちが言ってたよ」
「そうだね。人はそうかも。アキちゃんは人じゃないから、どっちでも大丈夫じゃない?」
「そう?」
「はい」
トオがアキの問い掛けに答える。
「でも、このままが良いの! ヨツと一緒になると、弾かれちゃう!!」
「それはー大変だわ。このままーがいいわね」
「そうでしょ!」
ルグヤが話に加わり、どうやら知らぬ所でアキかヨツがこの世界から弾かれてしまう状況だったらしい。