166.越える
「この前に見た、お父さんとお母さんに会いたい」
「神様、ご協力お願いします」
あっさりと願いが叶えられる。
「あ、お父さーん。お母さーん。あきもいた!」
「うわ。アキちゃん、二人いるし! って誰?」
ミハがいきなり歪んだ向こう側に見える光景に驚き、見たことのない人物に問い掛ける。
「六実の友人のナナよー。こっちは息子の泰」
両親と秋四の隣にいた、母親の友人の女性が軽やかに自己紹介し、隣の少年を紹介する。
アキが待ちきれないかのように、走って行く。
「あき」
「アキちゃん」
「アキ」
向こうの秋四も声を掛け走ってくる。こちらのアキはニカとトオが慌てて止めるが、向こうの秋四は泰の止めるのが間に合わず、あっさりとこちら側に来て、アキに抱き着く。
「えー!!! あきちゃん、大丈夫なの?」
「あ、みはちゃん。久しぶり。なにが? 平気ー」
「あれ? 俺も大丈夫だ」
一緒に来てしまった泰も自分をぽんぽんと叩きながら、何ともないことに驚いている。
「大丈夫よー。行きましょ、六実」
「え、ええ。あなたも」
「ああ」
ナナに言われ、頷いた母親の六実が父の五樹も促し、境界が無いかのように越えてくる。だが、トオが必死に止めたように、向こうへ行くのは危険そうだった。神に戻れないと言われこちらに来た四人だ。あちらからこちらには来れるのだろうが、越えるのは難しいのだろう。
「お母さん。お父さん」
「「一冬」」
両親に抱きしめられるヒイに、ニカも近付く。
「あっ、大丈夫なの? 閉まるよ!」
ミハが歪んで向こうが見えていた穴が小さくなっていることに気付き、声を上げる。
「こちらに来ることにしてたから大丈夫よ。久しぶりだわー」
ナナが慌てずいたずらっ子ぽく微笑む。その様は何故かユガリを彷彿とさせた。