164.見る視る
「凄い。見違えますね」
「そうかー?」
マッサージ樹がふわっと全面に置かれた部屋に歓声を上げるルドッセと、冷静に突っ込むケイ。ケイにとってはモックの所でも、自分の所でも見る光景と変わらないので仕方が無い事だった。
「どなたも、魔道具に触れないので言いますが、これは凄い魔道具なんですよ! 誰もが驚く」
「へー」
「ほー」
気の無い返事のケイとサラナサが魔道具を見つつ相槌を打つ。
「モックさんはお分かりですよね!!」
「あ、いや。うん。・・・凄いな」
「ですよね!!!」
「ゴリ押しじゃねぇか?」
「言ってやるな」
呆れきったケイにマロウが止めに入る。モックから助けてくれと視線が来ている気がするが、気のせいと決めつけ二人はマッサージ樹の微調整をしているように見せかける。
「ヒイさん。これ、結構凄い道具なんだよね?」
「サラナサさん、結構視えた?」
「うん。でも、どうしてこんなに視えるの?」
サラナサは自分の能力が上がったかの鑑定結果の視えように、少しだけ慄いた。
「多分、馴染みのあるもので構成されているからだと思うよ。サラナサさんは充分、凄腕だよ」
ヒイに掛けられた言葉に疑問は持つが、特に能力が飛躍的に上昇したという訳では無いという事は理解した。異世界の知識と材料で構築したものよりも、こちらの人がこちらの知識と道具、素材のみで作り上げたものは遥かに分かり易い。
「分からないけど、分かった。でも、魔道具は結構凄いんだろうし、お金もかかっているだろうけど、そのまま真似たんだね」
「一番、手っ取り早いからね。体験して良かった物を作る。上乗せするのは少しだけで、後から追加や修正していくんじゃないかな」
「そっか。一から作り上げるのは大変だもんね」
「そうだね」
サラナサの言葉にヒイは嬉しそうに同意する。モックの村で暮らし始めたのは良い影響を及ぼしているようで安心した。ルドッセが来なければまだ一緒に暮らしている筈だったが、独身の女性、本命はモックだが、サラナサの思い人であるカールの側にいるのは不安だろうと話し合い、少し早いが独り立ちを決めたのだ。カールは絵を描くので、そういう芸術家は無から何かを作り上げる。それをサラナサはとても感心し、好きになり、自分の手でも生み出してみたいと、独自の和紙の作成に乗り出したのだ。よく相談に乗って貰っているようで、皆で微笑ましく見ている。