160.気概
「モックさん、その動ぶ」
「これも売れますわー!!!」
いきなり覚醒したキナッケが叫んだ。全員が微睡みから覚める位に強烈だった。
「ありがとうございます。でもパックでは潤い成分が無くなるので、使い切りだと分かって貰えるのですが」
パックに使っているマッサージ樹のふわふわは何故か、水に濡らして一度使うと溶けて無くなってしまうのだ。それで和紙二枚だけが残ることになる。商品の使い終わりとしては分かり易いし、和紙なので片付けるのも簡単だ。燃やすなり、本来の紙として使ったり、掃除や売ったりすれば良い。こちらでは自作の紙も持って行く所によっては売れるのだ。
「マッサージ樹は実際に触れた方が良いので・・・。このように部屋のように用意するか、接触する何かを工夫するしかないんです」
「そうですわね」
「私も試してよろしいですか?」
「ルドッセさんも、勿論どうぞ」
モックへの売り込みを途中で止められた恨めしい気持ちはあるが、今は目の前にある商品が気になって仕方が無いルドッセは自分も試してみることにした。
「あ~~」
どんな商品にしようかと考えようと思っていたルドッセだったが、思考が溶けた。
ルドッセが堪能している間に話は進んでいたようで、マッサージ樹専用の小屋を建ててそこを貸し出すことにした。その形態はルドッセとキナッケに任されることになった。宿泊施設に併設するか、単独にするかは検討するとのことで、場所が決まって建設されたら、マッサージ樹を皆で運んでいくことが決まった。
「まあ。皆さんで運び込んで下さるの?」
キナッケが尤もな疑問を投げ掛ける。
「全員が冒険者なので適当な依頼を探しますので、御心配無く」
「旅行ー!」
「やったー」
旅行気分のミハとアキの喜びの言葉に、ケイが反応する。
「冒険だから、気を抜くなよ」
「ええ。物見遊山の旅で来て頂くには少し遠いかと・・・」
流石、商売人。旅行費用までは出してくれないようだ。心配の言葉だけは掛けるが、それ以上の発言は無い。
「私が依頼を出します」
「ルドッセさん」
ヒイがマッサージ樹で良い気分になっていたルドッセが冒険者ギルドに依頼を出してくれると聞き、驚いた。同様にキナッケも目を見張っている。モックの村の専属商人の気概が、もう見えて来ている。モック効果、凄い。それにこの対応の差こそが、ルドッセを専属の商人とした理由だった。
最後に話を聞けていなかったルドッセにマッサージ樹の専用小屋の説明をしつつ、マッサージ樹が持ち去られる危険性も話す。そこはマッサージ樹が動きたいと思わなければ、一つでも持って行こうとするのは不可能だったため考えないこととなった。マッサージ樹が付いて行ってしまった場合は、仕方が無いという事で落ち着いた。マッサージ樹は植物なので、行きたい所に付いて行ってしまう事もあるようだ。