16.名前を定着させよう
「は?」
「漠然としすぎか、あなたは何が好き?」
「かね」
呆然としつつもしっかりとした答えが返ってくる。
「いいね。じゃあ、お金関係の名前にする?」
「そんなんでいいのかよ」
「あなたが良いなら、良いんだよ。それで、どう?」
「別にいい」
「可愛い方がいい?」
「あんた、目ぇ、大丈夫か?」
訝し気な相手に、ヒイは声を潜めた。
「あなた、女の子でしょう?性別が分からない感じの名前の方がいい?」
「っ!それでいい」
ヒイは少し考え、一、十、百、千、万、億、兆、京、次はがいかと思い浮かべる。
「ケイはどう?私の所では凄く大きい数字の単位なの」
「へえ。いいんじゃね」
「じゃあ、ケイさんでいい?」
「さんなんていらねえ」
「癖だし、呼び捨てにすると目立っちゃうからごめんね。アキちゃん、トオさん、クロくん。3日間、宣伝兼練習するケイさんだよ」
「アキだよ」
「ケイさん。よろしくおねがいします」
「ク」
字の練習についてはトオに任せると、ヒイは勧誘へ戻る。
お昼は一緒にお弁当だ。
「なんだ、これ?」
「お弁当。見慣れない?」
「冒険者の携帯食って、違うだろ?」
「そうなの?私たちは冒険者じゃないから、お弁当にしたの。良かったら、どうぞ」
「いいのか?」
「一緒に食べた方が美味しいしね?」
「ねー」
ヒイの問い掛けにアキが同意する。トオはにっこり頷き、クロははぐはぐともう食べ進めている。クロも特に食べ物に忌避はなく、成長するには肉類を多めに摂った方がいいようだが、それ以外はないらしい。ケイがお弁当を見つめ、少し口にし、隠すようにしまった事には言及しないでおいた。
夕方になり、日を跨がない冒険者が続々と帰ってくる。
ミハとニカも帰ってきて、ヒイに告げる。
「ただいまー」
「戻ってきたよ」
「お帰り」
「生徒は一人?」
「うん。ケイさん」
「よろしくね、ケイさん。あ、ここもう少し撥ねた方がいいんじゃない?」
「撥ね・・・る?」
「そうそう。ここぴょこっと」
ミハが早速ケイに挨拶と、仲良くなりにいく。
「帰ってから話そうか」
「そうだね。終了の手続きあるんでしょう?」
ニカが代表して二件の依頼を終わらせ、帰り支度をする。
「ケイさん。帰りは大丈夫?」
「気にすんな」
「そう?また、明日ね」
「ああ」
さっと立ち去るケイを見送っていると、ニカが言う。
「良かったの?」
「あんまり、手を出すのもね。逃げだけど、何か良い方法がないかは考え続けるよ」
「難しいね」
二人はしみじみする間もなく、帰路に着く。
「寝ちゃった?」
「三人ともぐっすり。トオさんも大人だけど、体は子供だし、一緒の扱いでいいんだよね?」
「本人も構わないみたいだし、アキちゃんもまだ睡眠は結構必要みたいだから。クロくんも」
「分かったー」
ニカが晩御飯を食べてお風呂に入り、寝かかっているアキを抱えて寝室へ向かう。まだ成長中のクロとトオと一緒に早めの眠りについたのを確認すると戻って来た。