144.動く
「どうしちゃったんだろうね?」
トオと手を繋ぎ、ミハの後ろを走っていたアキが問い掛ける。勿論、答えるのはヒイだ。
「ダンジョンの隠し部屋って動くみたいだね」
「そうなの?」
ミハが振り返る。どうやらマッサージ樹の動きが止まった様だ。
「一回発見されると場所を変えるらしいよ」
「道案内に来てくれたの?」
アキの問い掛けだが、ふわっと、肯定とも、否定とも判別がつかない動きをするマッサージ樹は、その場で漂っている。さっきまではどちらかに向かおうとしていたようだったののだが、方向を示さないので、またアキが聞いてみている。
「迷っちゃったの?」
留まることで、自由落下するだけとなったマッサージ樹は、地面に落ちる前に、ミハやアキが手を出して上に戻してやっている。それを数度繰り返すと、細かく振動した。
「え?」
「震えてるー!」
ミハとアキの驚きと共に、クロの耳がピクリと動く。トオも少し遅れて反応した。
「あちらのようです」
前回と同様のノックで開いた隠し部屋には、みっちりとマッサージ樹が詰まっていた。
「アキちゃん、流石にそれは危険だよ」
アキが顔から埋もれて行こうとするのを、ヒイが止める。見た目には分からないが、前回よりも隠し部屋が狭くなっており、密度が高いようだ。
「あ」
「あ~。びゃー!!!」
アキは止められたが、もう一人を止められなかった一行は、マッサージと言うよりも強制的に全身振動を与えられているミハを慌てて引っ張り出す。
「ミハちゃん。大丈夫?」
「あばば・・・。あんばり・・・。でもも・・・痩せそう。・・・ふふふ」
「そんな動きではあったね。前回よりも部屋が狭いと振動を強く感じるみたいだよ」
「・・・ううう。それでかー。驚いた!」
「ミハ、大丈夫か?」
エルディランドゥが心配そうにミハを支えている。労わりあって、仲良くしている二人を放っておいて、残りの四人で、マッサージ樹をせっせと袋に詰める。
「よいしょ。よいしょ」
「どんどんはいりますね」
「クー」
ヒイは三人の可愛さに、悶えることを何とか堪えながら、袋に詰めた。
「これで色々使えそう」
ダンジョンに来た六人で、お礼を言って隠し部屋を後にした。マッサージ樹はふるりと震えて応えてくれた。