14.働く準備
家に着いて、ヒイがニカに告げる。年少組とミハはおやつの時間のためにうがい手洗い、年長二人は先に準備中だ。
「明日からみんなで、働くねー・・・」
「そうだね」
「その前に、言った方がいいと思う?」
「まあね」
「そう、じゃあ、言う。今日、言う!」
決心して勢い込んだヒイへ、「おやつー!」と喜び走り込んできたミハが声を上げる。
「なにー?え?私たちが異世界から来たこと、まだ言ってなかったの!?」
「クッ!」
「え?」
「間接的に言えちゃったね」
ニカが苦笑。ヒイは聞かれてしまったトオとクロの二人に、説明中だ。二人は薄々、遠くから来たと分かっていたらしく、特に気にした様子もなかった。
「もし、もどることがあるのなら、ぜったいにつれていってください」
「クー!!」
「クロもです」
トオが「絶対に」を強調し、連れて行って欲しいと告げ、クロも力強く同意する。それを約束し、しょんぼりしているミハへおやつを増量する。
「ミハちゃんきっかけをくれてありがとね」
「・・・お姉ちゃん」
「ほら、ミハちゃんベリー系好きでしょ?」
「うん。好き」
ミハの気分が浮上してきた所を見計らって、ヒイが告げる。
「明日は、ニイちゃんと気を付けて冒険してきてね」
「うん」
「武器と防具はしっかり、お金を稼げてからね」
「・・・お姉ちゃん。そこを何とか」
「ヒイちゃん、武器と防具で稼ぎ方も変わってくるよ!」
ミハが頼み、ニカも援護する。
「順番です」
「「はい」」
「私は晩御飯の用意して、明日のために、ここの文字の勉強をしちゃうから。二人も食べ終わったら、早く寝なさいね」
「「はーい」」
お姉ちゃんには勝てないのです。特に、あの雰囲気の時はいけません。
晩御飯を食べながら、ミハが聞く。
「ねえ、そもそも冒険者カードは何で色が変わるの?」
「えーっと。本人の魔力をいかに込めて名前を書けるかが、大事みたいだね」
「そうなんだ」
ヒイが鑑定し、ニカが感心し、アキ達は無心に食べている。勿論、それぞれが見守っている。ヒイはクロを、ニカはアキをミハはトオだ。この組み合わせで食事の時は落ち着いた。
「じゃあ、魔力を通しやすい道具とインクで書けばいいの?」
「一応、読みやすさとか、うーん、丁寧さが必要だね。字の綺麗さはそこまで重視されないみたい。綺麗に越したことはないんだろうけど」
「それで、ヒイちゃんと書くと金色になったのかな?」
「そうだと思う。道具も私が作ったし、パイプのような役割になったんじゃないかな。その方向で書き方教室は進めてみる。ありがとね、ミハちゃん、ニイちゃん」
「ううん。不思議だっただけだから」
あっさりと、冒険者カードの秘密を詳らかにすると、皆を風呂に入らせ、寝かしつける。その後、ヒイは明日のために文字の書き取りだ。鑑定で見本を呼び出し、平仮名の五十音表と同じように並べていく。こちらは表音文字なので聞いた音を書いていけば良いようだ。書く度に鑑定をかけ、字の完成度を測る。字を書くことに集中しながらも、明日の進め方を考える。
そんなに人が集中することは無いだろうしと思いつつ、最初は物珍しさで上手く進められないかもしれないなーと考えが行きつく。その場合は個室を借りて、小学校の書き方のような授業を千で引き受ける手もあるかと思う。そうなると色が変わらなくても個別指導は3千をとろうと決めると、料金表を書き出す。勿論、墨でだ。看板も兼ねているので、しっかり下書きをして位置を決めてから取り掛かった。
シキ名前書き方教室
料金
集団指導、1千(予約制。一律)
個別指導 3千(色が変わらなかった場合)
個別指導 5千(銅色に変わった場合)
個別指導 1万(銀色に変わった場合)
個別指導 5万(金色に変わった場合)
※その他の指導に関しては要相談
料金表を書き終わると、また新たな問題を思いつく。筆記具をどうするかだ。こんな時こそ、鑑定につぐ、鑑定。
一般的な筆記具は能力を付け替え、錬金術と細工師で作り、インクも同様だ。晩御飯の会話を思い出し、ペンもインクも魔力を通しやすいようにする。持ち帰られるのも防ぐため、防犯装置も組み込む。集団指導の時は鉛筆のような形にした。個別指導との差異を出すためだ。これにも防犯装置付き。これならば、偽名で個別指導を受けて、安く済ませても道具がないから自分の努力次第ということになるだろう。あまり考えすぎるのも良くないなと思い、ヒイはここまでで眠りについた。