123.凄い
コーリアが部屋を出ると、マルクは手にした靴を見た。
「これ説明、聞かないで履いて大丈夫なのか?」
「マルクさん」
「え?」
「静かにね」
「ぇぇ?」
「器用だね。ごめん、実は聞こえてた」
「うわっ!」
マルクが靴を持ったまま飛び上がって驚いた。沈黙していたはずの黒い板からヒイが見ていた。ケイとフラン、ミハも顔を出している。
「コーリアさんに分かって貰えなかったらどうしようかと思って、待機してたんだ。盗み聞きになってごめんなさい」
「ごめん」
「ごめんね」
「ごめんなさい」
向こう側にいる四人が頭を下げて謝ってきて、漸く話が分かって来たマルクが驚き以外の声を出す。
「滅茶苦茶、びっくりした。またコーリア呼んじゃうとこだったー」
「本当にごめんね。一応、最後まで説明しなきゃと思って、待ってたの」
「それはいいけど、これどうなってんの? あと、靴の説明もお願いします」
マルクは気にせずあっさり許して、逆に頭を下げる。ヒイはほっとして説明を始める。
「まずはこの魔道具からね。これは同じ物であれば、顔を見て話が出来て、物の受け渡しが出来る魔道具です」
「すげえ」
「ありがと。靴はね、色々な機能が付いているけど、魔力を通さなければ普通の靴より丈夫位だから、働く時は履いておいて」
「分かった」
「詳しい説明は、誰かが食堂に食べに行った時にしてもらうようにするから」
「うん」
「じゃあ、元気でやっていて良かった。お休みー。ほら、皆も」
「色々、すまん」
ケイがすまなそうに言う。フランは寝る前だが元気いっぱいに声を掛ける。
「マルク、この魔道具凄いよね! またねー」
「仲良さそうで、何より! おやすみー」
最初はいなかったはずのミハは、マルクとコーリアの会話を聞いて緩んだ顔だ。
「あ、マルクさん。言い忘れちゃった。この魔道具は、そちらからも作動させることができるから。フランさんの新居にも置く予定。これも使い方は、また今度お伝えするね」
「あ、ああ」
ヒイは伝え終わると、全員で手を振って、魔道具は今度こそ完全に沈黙した。
「フラン、本当に結婚するんだな。なんか実感湧かないわー」
マルクは色々驚いて、最後の感想はフランのことだった。それに昔を思い出して少し笑った。