121.予感
マルクは身震いがした。
「なんだ・・・?」
「マルク、どうしたの?」
一緒に住むことになり、気軽に話をするようになったコーリアが心配そうに声を掛けてきた。
「なんでもない、と思う」
「なんで曖昧なの?」
追及の手を緩めたかったマルクは、丁度、昼に出てきたアークを呼び止める。
「あ、アーク。虫は元気か?」
「ひっ!」
「マルク。元気だ。姉ちゃんは落ち着け」
大の虫好きのアークの姉は、虫が得意では無かった。虫を扱うアークに近付けなくなるほどに。
ヒイから説明を受けたのはアークと養蚕では補助として働くマルクは、シシリアの食堂の外に小屋を作って貰いそこで蚕を育てていた。まず、観察と飼育、それから糸にして布にする予定である。また、アークはまだ幼いので母親の元で虫に関係した職業を極めていくことにしたのだった。
アークと虫の話題で誤魔化したが、マルクは嫌な予感に心当たりがあった。
「やっぱりか・・・」
「ごめん。マルク。無理だった」
食堂の一日の仕事が終わり、自室に戻ったマルクを待ち受けていたのはヒイ特製の魔道具だった。四角い板からヒイ、ケイ、フランの顔が見える。しかも声も聞こえてきた。
「マルクさん。そちらはどう?」
「あ、ああ。なんとかやってる」
戸惑っているマルクにヒイは一番気にしていることを尋ねる。
マルクは心底驚いた。部屋に戻ったら、いきなり声を掛けられたのだ。夜は街にいるはずのないヒイから。それにケイの謝罪が続く。嫌な予感は的中だ。
「マルクー」
フランは暢気に手を振っている。
「今日、マルクさんに連絡したのは、良い靴が出来たから貰って貰おうと思って」
「それは有り難いんだけど」
「エルにそっくりだ! 同じこと言ってたよ」
言い淀むマルクにフランが笑いかける。後ろで、無言ですまなそうな態度を見せるケイが気になっていた。そこへヒイが靴を差し出す。
「はい!」
「うん。今度、取りに行けばいいー?!! 出たー!!!!!」
「マルク、落ち着け!」
ケイが訴えるが、マルクに届かず、あまりの叫びにコーリアがマルクの部屋に飛び込んできた。
「マルク!」
「あ、ああ。コーリア。大丈夫。驚かせてごめん」
「そうなの?」
コーリアがおずおずと後退ると、ヒイが街の外から声を掛けた。
「コーリアさん。お騒がせして、ごめんね。ちょっと、マルクさんにお届け物をしたくて」
「え? ええ? ええー!!!」
「あー。本当に、すまん。マルク説明しておいてくれ。またな」
「え? ケイ、もう終わり?」
「終わりにする?」
ケイが話に収集を付けるため強制終了を告げる。フランはもっと話したかったと訴えるが、ヒイがまた今度と言い板は黒く沈黙した。