120.靴と服
「ヒイちゃん。いいよ!」
「お姉ちゃん、この靴いいね!」
「歩きやすい!」
ニカ、ミハ、アキから賞賛を貰い、勢い付いたヒイは続けて全員へ靴を渡す。皆、喜んでくれてめでたしめでたしだ。但し、常識人の精神状態を除いて。
「有り難いな」
穏健派常識人のエルディランドゥは無難な感想だ。常時作用する機能だけを聞き、非常に感心して履き心地に満足していた。
「目が痛い・・・」
靴を渡されたのに、目について話すのはサラナサ。勿論、鑑定の結果が凄い勢いで目の前を流れていく。
「サラナサ、感想が怖いぞ。ほんと、凄いんだよなー。で、聞くのが怖いんだけど、一応、全部教えてくれ」
「あ、聞いちゃうんだ」
ニカが敵にでも挑みかかるようなケイに苦笑をしつつ、マロウも一緒にサラナサの説明を聞く。
「・・・まず、固有、防水、防臭、防菌、通気性、疲労軽減、衝撃緩和、防御が常時で魔力を使うと」、
「まだ、追加があるのか!」
サラナサのどんどん追加されていく言葉に、マロウが驚嘆している。
「あるよ。魔力を使うと敏捷性、跳躍力、脚力、強固の力を引き出せるって。待って。まだ、あるよ」
「なんというか、凄まじいな」
「ええっと、火を点けたり、水を出せたり、字を書いたり、地図を作ったり、場所を表示させたり、地面を調べたりできるらしいよ」
「ふっふっふ。俺はもう、無理」
ニカはテレーズの服に合った靴で非常に満足していたので、機能には驚くがそれほどでもない。危機的状況に陥らない限り、使わないだろう。逆に覚えておけるかの方が気になっているという状況だ。ケイも同様らしい。考えることも、覚えることも放棄する姿勢を見せた。一番の常識人はちょっと壊れかかってしまったようだ。そんなケイをマロウがいつもと反対のように、肩を叩いて励ました。
暢気なニカの隣にいるテレーズは素敵な靴に喜んでいるが、怯えてもいた。こんな凄い魔道具が自分の物だなんて信じられないし、持っているのが怖かった。
「テレーズ。靴は靴だよ。誰かに詳しく鑑定されなければ分からないんだし。私も一緒にいるよ。心配しないで」
「そ、そうですね」
テレーズは曖昧に微笑むしかなかった。
機能はさらっと流したミハは、ヒイがクロに渡した靴の行き先を見ていた。クロは目の前の靴を前に人型を取ると早速、どことなくうきうきした様子で履き替える。古い靴はヒイに作って貰った収納袋に入れる。
「わ。久しぶり! ねえ、お姉ちゃん。前から気になっていたんだけどさ・・・」
久しぶりのクロの人型に全員が少し目を見張る。クロはそんなことは気にせず、また子狼に戻る。その様子をしげしげと観察していたミハが続けて口を開く。
「クロくんの服とか靴ってどうなっているの?」
「え? ああ。収納の袋に入れているみたいだよ。変化の時に着た姿を想像すると、着用して現れるんだって」
「へー。でも子狼の時ってどうなっているの?」
「空間収納も使えるから。でも私が作ったからって収納袋を使ってくれているんだよ。優しいよね。それに、凄く格好良い」
弾んだヒイの声に、ミハが何か気が付いた顔をする。
「うんうん。そういうことか。エルもすっごく格好いい。何着ても素敵。分かるー」
真っ赤な顔のエルディランドゥがミハを回収していった。