116.進む
「クロ君。早速、取り掛かろうと思うの」
ヒイの声を聞いたクロが前足をちょんと出す。
「時計なら自分だけで出来そうだから、作ってみるね。まずは時計だけ、だけかー。けど、懐中時計だったら、持ち歩くし折角だから何か他の機能も付けたいよね?」
独り言のようなヒイの言葉が続く。常識人のケイが聞いたら、すぐさま止めただろうが、クロは自分とヒイが関係すること以外は全肯定だ。普通の時計でも充分過ぎる。だが、二人だけなのでどんどん進んでいく。
「時計を作ってみたかったんだー。楽しみ。まずは見本を」
錬金術の恩恵を多大に受けながら、ヒイの時計作りは誰にも止められず進んでいく。
「時間が分かりやすいのが一番だよね」
「くー」
盤面は数字のみで分かり易い物になった。
「時計はもっと凝った物はまた今度ね。あとは、自分の靴だったら作れそうだね。クロ君のも作ろうか」
「ああ」
あっという間に人型を取ると、落ち着いた返事が聞こえる。その姿に慣れている感じを伺わせるヒイはにっこり笑うと、材料を準備していく。
「革。木型はいるかな?」
「靴を作っている所は始めて見る」
「私もしっかり見たことは無いから、探り探りになりそう」
「ヒイならすぐ物にしそうだ」
「ありがと」
ヒイは靴底に悩む。同じように革にしようとも思ったが、靴底が真っ平だと滑りそうだ。
「ゴムにしようかな」
「ゴム?」
「滑りにくくなるし、軽いし、加工しやすいよ。家では輪ゴムをよく使っているね」
「輪ゴム。便利」
「ゴム長靴も作っちゃおうかな」
「?」
どんな靴か分からなかったのかクロが首を傾げると、ヒイが説明する。
「雨の時に・・・そっか。靴に防水機能を付ければ、わざわざ長靴じゃなくてもいいのか!」
「閃いた?」
「うん。色々盛り込めば一足で良さそう。でも、お洒落なニイちゃんは色々欲しがるだろうから、それはそれで」
「皆、喜ぶ」
靴もまた機能がてんこ盛りになりそうだ。止める者が不在のまま靴作りも進んでいく。
「防水と、防臭と、通気性も欲しいよね。あと、防菌も大事」
ヒイが重苦しく言うので、クロも神妙に頷く。クロはあまり靴を履く機会も無いので賛同のみだ。