115.新し
「ミハから聞いたんだけど、転職するんだって?」
「ああ。ニイちゃん。書き方教室は随分浸透したから、週一回とかでもいいかなって」
「そうだね。段々受ける人は減っているんでしょう?」
「そうなの。早々、新しい人はまとまって入ってこないからね。最後は月一回とかかな」
「で、何するの?」
興味津々のニカに聞かれて、ヒイが少し考える。
「魔道具を作ろうかな」
「本業にする?」
ニカは内心ヒイの考え付く道具が過激すぎやしないかと、命名に不安があった。そこへ、ヒイに抱かれているクロが目に入る。一時は大きく人型で張り付いていたが、仔狼の方が全身でヒイにくっ付けるからと最近ではその姿も声も確認することは稀だ。
「どんなの作ろうかなー」
「クロにも一緒に道具の名前考えて貰ったら?」
「クロ君も興味ある?」
思わぬニカの申し出にヒイはクロを覗き込む。ヒイにベタ惚れのクロの答えは一択だ。
「くー」
「よし。決まり。二人で協力して取り組むという事で」
ヒイはもう作りたい魔道具の構想があるらしい。
「じゃあ、早速、腕時計でも作ろうかな。あ、懐中時計の方がいいかなー」
「時計でもマロウさん驚いていたから、懐中時計の方がいいかもね」
「そうだね。後は靴も気になっているんだ。革製品の財布とかから取り掛かろうかな」
「靴ね。それはお願いしたいかも。テレーズに合う可愛くて実用的な靴が無くって」
「確かにね。皆の足型からかな。楽しみ」
「好きだねー」
「うん。作るの楽しいんだよね」
「知ってた。じゃ、クロも道具作りの協力よろしくね」
うきうきしているヒイをクロに頼んで、ミハを探すことにした。
「あ、ミハ!」
「ニイちゃんどうしたの?」
「ミハこそ、何しているの?」
ミハが遠い的に向かって魔術を放っていた。魔法を的に当てる練習をしているのは珍しい。自動で追尾する機能を付けていたはずだ。
「職業を揃えようと思って。お姉ちゃんが魔法職に前衛が付いているって言うから、中衛と後衛もできればいいなって」
「へー。そんな風に付くこともあるんだね」
「うん。それで、ニイちゃんはどうしたの? 私のこと探してた?」
「ああ。ヒイちゃんが魔道具作成を主軸にするらしいから、一応、報告と何に注意したら良いかなって?」
「魔道具か。いいね。お姉ちゃんが作ったら注意も何も無いんじゃない? やり過ぎ必須でしょ?」
ミハが尤もなことを言う。
「そうだよね・・・」
「本当にまずいのは使ったら、跡形もなく壊れるようにして貰ったら?」
「ミハ、良い考え!! 鑑定が出来なくなるくらい粉々にして貰えればいいね」
「ふふふ。でしょ!」
ヒイの転職は証拠隠滅を図るということで一致した。命名はクロに丸投げだ。