112.ぎゅっ
賑やかに帰ってきたミハはフラン達に顔を見せる。ミハの後ろにいるエルディランドゥに視線を送るマロウ。何かに気が付いたエルディランドゥはマロウの方を一切見ない。二人の無言の我慢比べが続く中、朗らかに会話が進む。アキとトオはヒイ達と住んでいる自分の家に戻っていていない。ケイは自宅ながら気配を消している。
「今日も沢山、売れたよー。フランはいちゃいちゃできた?」
「いちゃいちゃ?」
「私達のように仲良くお話することですよ」
聞いたことが無い言葉をリガルが微笑えんでフランへ解説する。その微笑みだけで苦いお茶が飲めそうだ。
「マロウさん凄いね」
ミハは二人の様子に一緒に残されたマロウへ話を振る。無言の応酬を一時中断し、口を開く。
「慣れている」
「え? そうなの? マロウさんの周りはラブラブな人が多いんだね」
マロウの最大限の抵抗は、ミハにいなしているという意識も無しに流された。マロウの周りは非常に仲の良い夫婦が多いと遠回しに言ったのだが、通じなかった。
「ラブラブ?」
「私達のように仲良く寄り添うことですよ」
また知らない言葉をリガルが慈愛に満ちた瞳で解説する。ケイが痒そうに身じろいだ。その動きに気が付いたフランの視線がマロウとケイの間を行ったり来たりする。
「慣れているの? 私、見たこと無いよ」
「フラン、何のこと?」
「すっごい仲良しに慣れているんだったら、もっと皆と、とってもいちゃいちゃもラブラブもできるでしょう?」
「おお。そういうことか」
ミハが感心する中、リガルが愉快そうな表情を浮かべる。エルディランドゥは必死に視線を逸らす。ケイはフランの話の展開についていけていない。
「見るのに慣れているだけで、やることに慣れている訳ではないから、難しいと思うが・・・」
「マロウもできるよ! ほら、ここに入って一緒にぎゅぎゅっとすれば仲良しだよ」
リガルは行動に出たフランの隣を確保し、反対側をぼんやりしていたケイを引っ張り込む。
「え?」
「ケイも一緒に!」
リガルはマロウとそれほど仲良くしたい訳でも無かったが、フランが喜ぶなら話は別だ。何故だか四人で円陣を組んだような形になっている。
フランは四人で押したり引いたりしてキャッキャとご機嫌に喜んでいる。
「エル、私達も加わろう?」
来るだろうと思っていたお誘いに、エルディランドゥは自分の入る場所を覚悟する。
「ミハはフランとケイの間に」
「分かったー! まーぜーてっ!」
エルディランドゥは無言でリガルとマロウの間に加わった。