110.選択
「一緒に住む」
コーリアはドキドキしていた。好意を持っている相手が一緒に住むのだ。昨日シシリアに聞いてからずっと心ここにあらずだ。
一方のアークは悩んでいた。急に家の仕事を手伝うか、他の仕事の見習いになるか選ぶようにと言われたのだ。マルクが一緒に住むのは構わない。この選択がマルクによるものだとは分かっている。恨む気持ちは無いが、感謝はまだできそうにない。変な奴らが出入りしなくなって、母と姉も安心して食堂をやっていけている。それに、別に誰がどんな職業だっていいのだ。向き不向きはあるし、好きなものが得意ではないこともある。逆もまた。自分は何をしたいのか。ずっと遊ばせて貰っているのは知っていた。危なくて手伝わせられないというのもあった。それくらいは感じられる。でも、どうしよう。姉には相談できない。食堂を手伝うことは決まっていて選択はできなかったはずだ。
翌日マルクの住み込みの詳細を相談に来て、帰る途中のヒイにどうやって仕事を選べばいいか聞いた。アークへ直ぐに答えずに、一緒に来ていたエルディランドゥに問い掛ける。
「エルディランドゥさんはどうやって職業を選んだの?」
「給料が良くて、住み込みで、しっかりした所が良かったんだ」
「ミハちゃんは?」
「私も? なりたかったから!」
ヒイがエルディランドゥとミハの答えを聞いて、自分の話もする。
「私は得意だったからかな。アークさんは何が好き? 何をしたい? 逆に、何だったらずっとやっていけると思う? それと、やりたくないことは?」
「俺、料理はずっとはできないと思う。それに・・・冒険者って言ったけど、それもあんまり。他の仕事って何があるんだ?」
「何が好き?」
「遊ぶこと」
「何して遊ぶのが好き?」
「虫」
「虫は捕るの? 見るの?」
「見る」
「ずっと見ていられる?」
「うん」
「虫以外は?」
「あんまり見ない」
「そっか。虫を見るだけだと仕事にはなりにくいけど、虫に関する仕事なら幾つかあるよ」
「本当!!」
ずっと沈んだ顔だったアークの顔が輝く。クロはヒイの腕の中から無表情で眺めている。
「お姉ちゃん、虫関係の仕事って何があったっけ?」
「養蚕業はこっちにもあるみたいだよ」
「ああ。他には?」
「昆虫学者系だね。それ以外は生き物全般を相手にするものが多いね」
「ようさんぎょうってなに? 俺にもできる?」
「虫が作る糸を取り出す仕事だね。布まで作る人もいるよ」
ただ虫を見ていただけなので、アークはよく分かっていないようだ。虫の名前も知らないのかもしれない。だが、やる気はあるようで、色々聞きたいようだが、今日はそれぞれ仕事がある。
「蜘蛛は見たことがある?」
「くも?」
「サラナサさんと学んでみる? マルクはシシリアさんとコーリアさんにお世話になるし、アークさんは私達と仕事する?」
「いいの?」
「いいよ。許可を貰おうか」
「うん」
「アーク、お礼!!」
最後の遣り取りを聞いたシシリアが鋭く告げる。
「あ、ありがとう。俺、やってみたい!」
そうして、アークが加わった。