109.可愛い
また、素敵が出た。
「フランさん、可愛い人だったね。リガルさんとお似合いで素敵だし」
マルクにそう告げてきたコーリアを見ると、今度は嬉しそうでちょっとだけ寂しそうな表情だ。
「可愛いか?」
コーリアの感情には触れられないような気がしたので、事実のみを口にする。フランの何が可愛いのだろうか。
「え? マルクくん、可愛いと思ったことないの?」
「ない」
外見ならケイ、マルク、フラン、ポンドの四人はとても整っている。だからこそ、四人とも外側を汚し隠れるように生活していたのだ。だがマルクは生きるのに必死で、姿形について考えたことは無かったのだ。
「ええ? どんな人なら可愛いなって思うの?」
「可愛い? 可愛いって思う人? ・・・クロ?」
ここにミハがいたのなら、鋭い突っ込みを入れてくれたであろう言葉をマルクは返す。人と言いながら、マルクが思い描いているだろう外見は仔狼の姿のクロだろう。流石に大人のクロの人型を、可愛いと言える情緒をマルクが育てているとは思い難い。
「クロっていう人?」
「うん。可愛いよ」
自分の言葉に納得するように頷きつつ答えるマルク。
「どんな風に?」
「どんな風? うーん。ころころしているところ?」
「外見がふっくらしているの?」
「まあまあ、ふっくらしていなくはないけど、ふわふわだな」
「触るの?」
「たまに、撫でさせてもらえる」
「撫でさせてもらえる?」
コーリアがだんだんと怪訝な表情になっていく。
そこへ、食堂へヒイ、クロ、ケイがやってきた。
「こんにちは」
「あ、あれがクロ」
そう言ったマルクへ向けるコーリアの表情が、弟のアークを見ている時と同じ顔になる。大抵の子供は可愛い。
「そっか」
その一言がこれからのコーリアの長い道のりを表していた。とりあえず、コーリアは気持ちを切り替えようと、ヒイたちへ向き直る。
「シシリアさんとお話できますか?」
クロを腕に抱えたヒイがコーリアに尋ねると、シシリアが厨房から出てきた。朝、マルクを送り届けた時に話をしたいと伝えておいたのだ。
ヒイの話を聞いたシシリアが最悪の予想が外れたことにほっとして、更に喜ばしい申し出に少し尻込みしていた。
「本当にいいんですか?」
「ええ。マルクの意志ですし、こちらこそマルクを住まわせて貰ってよろしいのでしょうか?」
「そうして頂ければ、助かりますし、ありがたいです。それに、コーリアも喜びます」
「何時からがいいですか?」
すぐにでもというシシリアに明日マルク、コーリア、アークも交えて話をしましょうとヒイが持ちかけ、今日の所はマルクと一緒に帰ることにした。シシリアにはコーリアとアークの承諾もとっておいて欲しいとお願いして。