106.いるよ
場を落ち着かせたヒイが改めて、フランに問い掛ける。
「フランさん。どうして、ケイさんが一人になっちゃうの?」
何が疑問なのか分からないらしく首を傾げているが、一応説明してくれる様子のフランの声に耳を傾ける。
「リガルと結婚したら、別のお家でしょう?」
「そうだね。・・・それで、ケイさんがこの家に一人になっちゃうと淋しがるから、フランさんも結婚しないでいるの?」
「・・・そういう訳じゃないけど」
どうやらフランとリガルの関係は順調のようで、結婚の同意までいっているようだ。
「マルクさんが街で暮らすのを止めたいのもそれが理由? ケイさんが一人じゃなくて、淋しくなかったら大丈夫?」
「うん」
それだけが心配だとフランは言う。
「あー。俺は大丈夫だよ」
「でも・・・」
「私もいる」
マロウが加わった。フランが何かに気が付いたようにマロウの顔を見て、一つ頷いた。
「一緒に住む?」
「いや、それは・・・」
「ケイを淋しがらせないように、約束しよう」
言い淀むケイにマロウが力強く言う。もう一度フランは頷き、マルクへ向き直る。
「なら、大丈夫。マルクは料理を仕事にするの?」
「ああ」
「魔法は?」
「料理も充分魔法みたいだった。それに、冒険者の資格だってある。材料を狩りにも行けるんだ」
「料理、好き?」
「ああ。それに、魔法より向いてる。フランだって、知っているだろ?」
「うん」
「納得したか?」
「うん。マルクも結婚するの?」
一瞬だけ言い淀んだマルクだが、しっかりフランを見て答える。
「分かんねえ。同意だって学んだろ?」
「うん。私とリガルは同意した。じゃあ、マルクは結婚したい?」
あっけらかんと白状する。
「はは。それも、分かんねぇ」
「そっか」
「そんなにすぐには答え、出なかっただろ?」
「うん」
「暫く待ってろ」
「うん」
寂しそうで、嬉しそうなフランはやっと微笑んだ。
「フランさん。家族だから遠い所に住んでいたって、フランさんが離れたいと思わなければずっと一緒だよ」
大変な時に協力しあってずっと一緒だった人たちと離れるのは寂しいし、悲しい。ポンドが街で暮らすようになった時も勿論、そう思った。だけど、ばらばらになるなんて考えてなかったから、ぽろりと涙が零れる。
泣き笑いになったフランを皆でもみくちゃにして、湿っぽい空気を吹き飛ばす。更なる追い風はヒイだ。
「そんな、フランさんに良い魔法があるよ。マルクさんにも魔道具を用意してあるから心配しないで」
「おい、それは大丈夫なやつか?」
ケイが間髪入れずに確認する。
「普通の魔法だよ」
自信満々に答えるヒイにマルクはこっそりと息を吐いた。
「そんな訳、無いよなー」
それでも、フランが悲しい顔をすることに比べれば大したことじゃない。