105.大人に
朝、起きるとマルクがケイを待ち構えていた。
「なんだ?」
「おはよう」
怪訝そうな顔で尋ねたケイに、やっぱり始めは挨拶から返す真面目な顔をしたマルク。
「ああ。おはよう。どうしたんだ? こんな朝っぱらから」
「俺、街に住もうかと思って」
「食堂で料理人になるのか?」
「それはまだはっきり決めてないけど」
「けど?」
「コーリアの側で助けたいって、思って。俺だけ安全な所へ帰れるからさ、それは一緒に食堂をやっているってことにはならないんじゃないかとか感じて、それで」
「何処に住むか決めたのか?」
「いや、まだ。ケイが折角、連れて来てくれたのに戻るって、なんだかなー・・・」
マルクはケイの恩に報いたかったが、コーリアの近くにいたいという思いはしっかりある。ケイは大したことじゃないとでも言うように、返す。
「いいんじゃないか? それだけ、俺たちが大人になったんだよ。街に戻るっていう選択肢が出来るくらい」
「おう。大人か」
「まだまだだけどな」
「そうだな」
「ヒイさんたちにはいつ言うんだ? 相談だけは早い方がいいぞ」
「分かってる。今日、言う!」
「頑張れよ」
「ああ」
朝食の席で決心したようにマルクが口を開くと、フランが反応した。
「なんでー!!」
「え? フラン?」
「どうして、出て行っちゃうの? 今まで通りじゃ駄目なの!? ここから通うのは難しくなっちゃったの?」
「ど、どうした、フラン?」
あまりの反応に誰もが驚き、ケイが慌てて問い掛ける。
「だって、だって、マルクが出て行っちゃったら、ケイが一人になっちゃうもん。寂しいよね?」
「・・・」
ケイが沈黙し、ミハが突っ込む。
「あれ? フランも巣立つ準備が順調?」
「うん?」
「ふ、ふふふ。そうだよ。最後の一人だ。相手がいないのは俺だけだよ・・・」
「ケイ、しっかり! きっと、良い相手が見つかるよ!」
フランの不可思議な返事に、打ちひしがれるケイを慰めるミハ。
「いや、そうじゃないよね?」
「俺の話がどうしてそうなるんだ?」
止めに入るヒイと、落ち込むマルク。