10.どうして異世界に来てしまったのか
ヒイはニカと寝入った皆を見守りつつ、口を開いた。
「クロウ君のためにきょうだいだってことを示してくれたの?」
「そう、私を一番警戒していたみたいだったから」
「ありがと」
「でも、ヒイちゃんがあんなに早く家族認定するとは思わなかったよ」
「私も、驚いた。一目惚れとかを表現するように、ビビッときたというか、なんか分かったというか。感覚?」
「え?それは凄いね」
「うん。もしかして、これが、私がこっちに来た理由かなって思ったよ」
「へー、それはご馳走様」
「いや、惚気じゃないからね。ただ、私しかいないと思ったというか、呼ばなきゃという思いが強くて」
お腹いっぱいの無の表情のニカがいた。
翌朝、ヒイが朝食の準備をしていると続々皆が起きてきた。
「おはよう。お姉ちゃん」
「ミハちゃん、みんなも、おはよう」
「おはよー」
「おはようございます」
「クー」
「クロウ君、可愛い!」
ミハが構いたくてうずうずしているようだが、黒い子犬のような仔狼のクロウはヒイ一直線で、ヒイしか見ていない。
朝食を食べ終わり、今日の予定の打ち合わせだ。
「今日はどうするの?」
ニカが問い掛ける。
「アキちゃんは今日も寝てる?」
「そうみたい」
「そっか、トオさんもアキちゃんと同じように登録するでしょう?クロウ君もする?」
ミハが「昨日と同じような一日になるのかなー?」と聞いている。トオとクロウは最終目的であるヒイに会えたこと以外は、特に要望は無いらしい。考え込んでいるヒイにニカが提案する。
「私とミハで冒険者の仮登録の書類を追加で2枚貰ってくるよ」
「お願いできる?」
「ねえ、それでこれからみんなでどうするんだっけ?」
「ミハちゃん昨日の話の途中から寝てた?」
「うん。記憶にない」
ミハが堂々とした笑顔でヒイに答える。
「ミハ~」
「だって、クロウ君が『お姉ちゃんを探し当てて、名前が分かって、トオさんも助かって、みんな家族でやったね!』でしょう?」
「・・・間違ってない」
呆れたニカへ、ミハが慌てて覚えていることを繋ぎ合わせる。それが、見事に全てを要約していたことに、ニカが苦笑しつつも、感心していた。
「凄いね、ミハちゃん寝ててもほぼ分かってるよ。それで、二人は嬉しいことに私たちの、世界満喫生活に同意してくれました!」
ヒイが嬉しそうに発表すると、ミハがニカへ囁く。
「ねえ、いつのまに世界満喫生活なんて目標立ってるの?」
「それは、私も初耳」
「なに?二人とも冒険者をしたいっていうのは、そういうことじゃないの?」
「まあ、」
とニカが曖昧に笑い。
「そういうこと?」
ミハが疑問形で締めた。
「街へ出入りするにも冒険者登録しておいた方がいいと思って。後は商業ギルドか街に住んで住民登録か、消去法だね。二人が行ってきてくれている間に、正式な登録書類の準備をしておくよ」
「遂に!!」
ミハが帰ってくるまで、「準備だけで、絶対に始めたりしないでね」と振り返り、何度も言う背中を押すニカと街へ出掛けて行った。