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8話 掃討戦

 マスカット要塞掃討戦が始まる。Cルートから侵攻した私たちの部隊は厄介な重戦車ティーガーを撃破。


 他のルートに展開していた戦車部隊も幾つもの屍を超えながら敵の防衛戦を突破し城内に侵入を始めた。


 途切れ途切れに聞こえる他ルートからの通信を聞くに、他のルートにおいてもティーガーが配備されていたとの事。


 私たちCルート隊とは違い、ティーガーによりかなりの損害……戦死者が発生したとの事だ。それでも数でゴリ押しして何とか突破したらしい。


『こっちにはユリ姉がいてホント良かったです』


 隣をキュラキュラと、音を立てて進むシャーマンからの通信。


「死神なんかじゃなくて勝利の女神って呼んでほしいね」


 いくら戦果を上げても、私は厄介者扱いだ。どこに行ってもこうだ……



 マスカット要塞は古城を利用して築かれた要塞だ。城内は複雑、味方の爆撃により崩落が目立つがまだまだ施設の六割方は残存しており意外とタフな事がわかる。


「じゃなきゃ、無敵要塞なんて呼ばれてないか……」


 だが、その無敵要塞は陥落する。いくら堅牢な要塞であろうと物量に任せたゴリ押し攻撃には敵わない。


『まだ敵が潜んでいる可能性もある、気をつけろ』


 先行する隊長機からの通信。私たち444小隊は古城の東側の制圧に当たっている。


 狭い城外、時には邪魔な建物を破壊して乱暴に歩みを進める。


 そうして、雪が降り積もった広い庭園のような場所に出た、味方の空爆により破壊された高射砲や人型対空戦車の残骸が転がっている。


「……」


 私はモニター越しに見える白い古城を見上げる、内部では突入した歩兵部隊による残存兵の掃討が行われている。陥落ももう時間の問題だ。


『……が……で……あぁ……』


 突如入る、ノイズ混じりの通信。


「なに……ねえ、どうしたの?」


 発信元を拾う。先程分かれた201小隊機からの通信だった。


『白……虎………が…………』


「……!」


 そして、響き渡る爆発音。爆発音は少し離れた場所から聞こえた。


『201小隊、応答しろ! 201小隊!!!』


 隊長の叫び、しかしレスポンスは唯の一つも返ってこなかった。


白い虎(ヴァイスティーガー)だ……! 奴が出たんだ!!!』


 角刈りの悲鳴のような声。確かに味方の「白い虎」という遺言を聞いたけど……


「どう思いますか隊長」


 そんなエース機が陥落寸前の要塞に残っているのだろうか。


『奴がここに残って、撤退する味方の援護に回ってるのかもしれん……とにかく201小隊のいた場所に急行するぞ』


「了解」『り、了解』


 私と角刈りの返事が重なる。


「……シルビア?」


 彼女は先ほどからずっと押し黙っている、やはり"白い虎"に恐れ慄いているのであろうか。


『は、はい! 大丈夫です!』


 声からして間違いなく無理をしていそうだ。


「怖くなったら私の後ろに隠れてなね」


『こ、怖くなんかないですって!!』


 ……大丈夫、アナタは私が守ってあげる。あの時の約束は守るから。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「復帰、ですか」


 辺境の田舎基地でつまらない仕事をこなす私、そうして内戦から半年ほど経ったある日、私は直属の上官の部屋に呼ばれる。


 そうして、告げられたのは人型戦車乗りへの復帰であった。


「あぁ……先の内戦での君の戦果も鑑みてな、このまま君をここで遊ばせておくのは国家にとっての損失、と判断された」


 冴えない顔をした、第二十四補給部隊の隊長がそう冴えない声で私に言い放つ。


「また戦争が始まるからですよね」


 ハブられていても、嫌でも耳に入ってくる。共和国が公国と戦争をしたがっているという噂を。


「……私の口からは何も言えん」


 今度は一体どんな建前を使って戦争を始めるのか。パイン公国は違う民族の国だ、いくらでも理由付けなんて出来るだろう。


 内部の敵を討ち滅ぼした共和国は、今度は外に国家の敵を作りたがっている。それにピッタリなのが、何度も戦争してきて因縁のある相手でもあるパイン公国というわけだ。


 人間は違う人種の人たちを差別し、敵視したがる。それは私が生きてきて一番感じていた事だ。


「少尉の配属先は追って連絡が来るが、まあ十中八九444小隊だろうな」


 ……444小隊、問題を起こした者が集う厄介者の集まりだ、共和国内でも悪い意味で有名な部隊でもある。


「わかりました、失礼しました」


 私はそれだけ短く答え、部屋を出た。


「あの人、戦場に戻るんだって……」「今度は何人味方を殺すんだ……?」


 基地内を歩いていると嫌でも聞こえるヒソヒソ声。こそこそ話してないで本人に直接聞いたらどうですか? と思った。


「ユリ姉!!」


 背後からシルビアの私の名前を呼ぶ声が聞こえた、私は振り返る。


「どうしたの……って、うわ!」


 彼女が駆け寄ってきて、その勢いのまま私に抱きついてきた。


「聞きました……戦車乗りに復帰するそうですね」


「あー、うん」


 小さい基地だから噂が広まるのは早いだろうけど……にしたって、いくらなんでも早すぎだ、私が知る前から漏れていたんじゃないか?


「私も、戦車乗りになります!!!」


「…………え?」

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