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7話 虎狩りの死神

「っし……!」


 私は思いっきり足元のフットペダルを蹴る。自動制御装置が作動、私の機体は瓦礫の影より飛び出る。勿論ティーガーもそれに気がつかないほど間抜けではない。


 一機のティーガーがこちらに向かい軽機関砲を連射する。私は側に落ちていたIV号の残骸から、複合装甲の防盾をとり斜めに構え突撃する。


 同時に、後方の味方達は右方面に展開していた一機のティーガーに集中砲火をかける、ありがたい、それでいい。


 私の機体はそれとは反対の、左にいる中に向かい突き進む。


 狙いにくいよう、ジグザグに……ランダムな機体操作を行う。


 こちらに向かってくる機関砲の弾丸は傾斜のついた防盾により跳弾。だが運悪く一発が右腕を掠める。


 右の操縦桿の反応が硬い、いくつかの神経配線がイカれたのかもしれないが構うことは無い。


 別の一機が、左腕に装備されている榴弾砲をこちらに合わせる。一機が遊んでいる間に装填を終えたのだろうか。



 ──────だがもう遅い。



 私は右手に持っていた、先程拾ったIV号の防盾を投擲する。防盾はそのまま榴弾砲にぶち当たり、射線を逸らす。


 ドゴォン……! とあらぬ方向に撃たれる火砲。下手な場所に撃ってしまった反動からか、その機体は態勢を崩し後ろに倒れ込む。


 その間にさらに距離を詰め、機関砲を乱れ撃ちしているティーガーの懐に入る。


「機体が大ぶりなら……動きもトロい……!」


 この間合いに入れれば、重戦車が中戦車に敵うはずがない。


 右操縦桿を倒す、連動して右腕が動き、持っていた機関砲の銃剣をシュッとティーガーの右肩、胴体との接続部の間に押し込む。


 どんなに硬い装甲を持っていようとも、関節部に重厚な装甲は存在しない。可動域というのはそういうものだ。


 火花が飛ぶ、右腕接続部の神経配線に傷を入れられたようだ。軽機関砲を地面にズシンと落とすティーガー。


 だが、まだまだ奴の息の根を止めるには足りない。そいつは反対の腕に装備している大ぶりな榴弾砲をパージし私の機体の右腕を掴む。


「……ッツ!! このっ!!!」


 バキバキ……と、嫌な音が聞こえる。私はすぐに後方へ跳ねるように指示を入力。


 悲鳴のような金属音、そしてケーブルを引き裂く音。私の機体は無惨にも右腕を引きちぎられる。


「なんてデタラメなパワーしてるんだよコイツ……」


 右腕を持っていかれた。結晶モニターで状況確認。関節より先は無くなり、尖った内部フレームが露出している。


 引き千切られた右腕を乱雑に投げ捨てたティーガー。後ろの倒れていた機体も、ようやくのそのそと起きあがろうとしてる……勝負を掛けなければ。


 大きく拳を振り上げるティーガー、私はその大ぶりな攻撃を躱しちぎれ、鋭利に違ったフレームを胸部の装甲と装甲。その僅かな隙間に突き立てる。


 大きな衝撃音、ぬるりとした感覚が操縦桿から伝わってきたような気がした。


「……誰かが言ってた、折れたフレームは刺さりやすいって」


 フレームは間違いなく内部のコックピット、その中にいる兵士を押し潰したであろう。


 ティーガーから腕を抜く、ナイフのような内部フレームは赤く染まっていた。


 ズシン……と大きな音を立てて手前のティーガーが崩れ去る。


 左結晶モニターを確認すると、間抜けにコケたもう一機のディーガーが態勢を立て直し、立ち上がる。


「のろま……ようやくお目覚めかな?」


 と、強がってはみたけど。結構めんどくさい状況かも知れない。


 こちらは既に腕を一本持っていかれてる。厄介な置き土産をしてくれたモノだ。


『ユリ姉ええええ!!! 加勢しますう!!!』


 唐突に響き渡るシルビアの声。右結晶モニターを確認すると、シルビアのシャーマンが携行機関砲をばら撒きながら突撃してくるのが見えた。


「あのバカ……」


 起き上がったティーガーの頭部が横を向く。まともに狙いもつけていないシルビアの銃撃、当然跳弾だらけでダメージはゼロ、だけど……


 私はその一瞬をつき、残った左腕で地面に転がっていた公国軍の25mm汎用携行軽機関砲を拾い上げ、ティーガーの脇腹に乱暴にぶつける。


「っと、ここだっけ」


 うまく装甲の弱い部分を狙い……機関砲を連射した。


 大きな発砲音と衝撃音、そうして火花、火が散る。ズシンと倒れる敵戦車。


「いっちょ上がり」


 そうして機関砲を放り投げ、私はそばに放棄されていたティーガーの榴弾砲を代わりに装備する。


 私は機体を少し高いところに移動させ、反対側で他の味方全員に追い込まれつつあるティーガーに狙いを定める。


「ばいばい」


 ドゴォン……!! という比較にならない砲撃音。機体にも衝撃が走る。


 そうして、戦車を殺すことに特化した榴弾は最後の一匹を葬った。


『くぅ……! 流石ですユリ姉!! ティーガーを三機も墜とすなんて!!』


 シルビアの興奮したような声。


「おおげさ、結構ギリギリだったんだから……ってかシルビア〜? どうして勝手に飛び出てきたのかなぁ?」


 まったく、無茶をする娘だ。


『よくやった死神、IV号共もビビって退却した。さっさと要塞の制圧に当たるぞ』


 隊長機からの悪魔でも冷静な声の通信が入る。


「はいはい……」


 そうして、私たちの舞台は難攻不落と呼ばれたマスカット要塞に入城する、いくつもの屍を踏み越えて……

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