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5話 白い虎と赤に染まった雪

〜〜〜〜〜〜〜〜



 私がシルビアと出会ったのは、あの内戦が終わってから半年の事であった。


 内戦で味方を手にかけた私、正直今でもあれが事件なのか事故なのか、私にはわからない。


 だがその事件は"事故"として処理された。そこにどういう意図があったのか。あの少将が何か手を回したのか、それは私にはわからなかった。


 私は半年間人型戦車を降ろされ後方支援部隊に回された。後ろでの仕事はただひたすら退屈なものであった。人型戦車に乗りたくて仕方がなかった。


 "味方殺し"の異名は常に私について回った。ついでに"エース"としての賞賛も。


 この世界では、人型戦車を十機狩ればエースパイロットと呼ばれる。


 私は入隊三年にして、総撃破数十一機のエースパイロットになっていた。ついでに言えば、敵航空機を五機落としてる、つまり陸の基準でも空の基準でも私はエースと言うことになる。


 人を殺した数で賞賛されるとはおかしな話しだけど、まあ軍隊なんてそんなものだ、みんなイカれてる。


 味方殺しのエース……私に近づく人間なんていなかった。特に後方支援部隊なんて大人しい奴ばっかだったし。


 ただ一人、シルビアを除いて……



「あ、あの!!」


 ある日、彼女が声をかけてきた。共和国の辺境にある陸軍の基地でつまらない事務作業をしていた時の事であった。


「……なに?」


 声をかけてきた彼女。最初見た時は……小学生かな、と思うくらいの幼さであった。


「子供?」


 思わず口に出てしまった。でも陸軍の作業服を着ている、社会科見学かな、と思った。


「え? あの、一応これでも多分アナタと同い年くらい……」


「嘘でしょ? その見た目で!?」


 なんというか驚きだった。


「どういうことですか!」


「いや、ごめんごめん……えっと、アナタは?」


 私は彼女に名前を聞いた。


「はい! 私はシルビア・フェアレディです、本日付けで第二十四補給部隊に配属されることになりました!」


 元気よく私に敬礼してくる彼女。


 そこで私はようやく思い出した。この日、新たな隊員がやってくるという事を。


 そうしてその新人は……なにやら訳ありという噂も聞いている。


「あー、アナタが」


「です! よろしくお願いします!! ……ところで。キリシマ少尉ですよね?」


 この時の私は、入隊から三年目にして少尉という異例の速さで昇進をしていた。内戦での功績を讃えて……との事らしい。


 人型戦車乗りは基本的に軍曹レベルの人たちが多い、人型戦車は陸戦兵器であり数も多いので搭乗員を一々尉官にしていたら現場が混乱するとの理由らしい。


「うん、そうだけど」


「すみません! 握手してもらってもいいですか!!」


 一々テンションの高い娘だなぁと思った。


「いいけど」


 私は手をさしだした。彼女は私の手を握り込む様にして握手をしてきた。


 あったかい……と思った。人の手の温もりを感じたのなんて本当にいつぶりかな、と。


「はわぁ、光栄です! 入隊からわずか二年でエースなんて! まるで小説の主人公みたいです!!」


「え、あぁ、そう……」


 そんな事を面と向かって言われたのは初めてだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜



 最前線基地到着の翌日。とても寒い雪の朝、ニーベルング要塞攻略戦が始まった。


 作戦としてはまず、空軍の戦爆連合による敵戦力のすり潰し、対空兵器の間を縫って絶え間ない爆撃機による波状攻撃を浴びせ続ける。


 当然、敵の要撃機も上がってくる。大規模な空戦が繰り広げられた。


 敵をすり潰しつつ、航空優勢状態になり、敵の陸上戦力が薄くなったところで陸上部隊が一気に侵攻をかける。


 ここからは私たち陸軍の出番だ、空の支援を受けつつ一気に要塞に攻め込む。



『作戦は順調に進んでいる、現在三方向から陸上部隊が侵攻中……Cルート部隊、現在位置を知らせよ』


 ノイズ混じりのコマンドポストからの通信。


『こちら444小隊、201小隊及び205小隊と共にCルートを進行中、座標は……』


 隊長機の応答が聞こえた。


 私たちはただひたすら、背の高い針葉樹林が軒を連ねる深い深いタイガの森を乱暴に突き進む。


『後方から追従する自走砲部隊に伝えろ! もう少し静かに進めねぇのか!』


 201小隊の隊長が乱暴にコマンドポストに文句を垂れる。


『まもなく敵対戦車自走砲の射程圏内に入る、砲撃が来るぞ、気をつけて進め』


 対して冷静なウチの隊長。こういうのってやっぱり性格が出るな……


 その時、上方から大きな空切り音が聞こえた。


 モニターで上を確認すると、灰色の空を複数の味方の双発の爆撃機、複数の単発単座の護衛戦闘機が、編隊を組み要塞に向かっているのが見えた。


『クソっ、どんだけしぶといんだよ公国人は……』


 角刈りが喚く。


『これで何回目ですか……本当に順調に進んでるのでしょうか?』


 不安そうなシルビアの声。


「空の連中も頑張ってるみたいだし……任せるしかないよ、上の事は」


 私たちはとにかく、空の味方を信じて進むしかなかった。


 そして、いよいよ要塞からの攻撃が降ってきた。要塞に配備されているのは公国軍の新型対戦車自走砲。射程はこちらが追従させている自走砲よりもはるかに長いと聞く。


 敵の対戦車用榴弾が降ってくる。榴弾は近くのタイガに落着し爆発。大きな爆音をあげ付近の樹木を焼き払う。


『ひぃー……あんなの当たったらひとたまりもねーぞ!』


『この距離なら、よっぽど運が悪くなきゃ当たりはしねぇよ! 進め進め!!!』


 あぁ、そう言う奴ほど運悪く当たって死ぬんだよね。



 そうして私たちは進み続ける。虎の待つ、地獄の砦に。

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