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4話 吹雪の東部戦線

〜〜〜〜〜〜〜〜



「はぁ……あっちぃ……」


 しんしんと降り積もる雪の中、行軍を進める。


 どうも私の機体の空調の調子が悪くコックピット内は外とは対照的に真夏の様な熱気に包まれていた。


 ムンムンとした熱気、いくらなんでも効きすぎだ。だが暖房を切ると……多分コックピット内は氷点下の寒さになるだろう。


「あー……つら」


 上半身のパイロット服を脱ぎ下着姿になる。首にかけているドックタグがペタリと汗で素肌に張り付いた。


 ずっとこんな状態なら脱水症状になりかねない。故障箇所は分かっているので後で自分で治そう、パイロットでもそれくらいの簡単な修理なら出来る。


『はぁ、どこ見渡しても白、白、白……いい加減この光景も飽きてきたぜ』


 角刈りの愚痴が聞こえた。私たち444小隊は見晴らしのいい雪原を進んでいた。


 モニター越しに先行する隊長機を見る。カラーリングはいつもと違い白っぽい。これは氷雪地帯用の簡易迷彩だ、急拵えなもので結構雑だか無いよりはマシだ。


『かなり吹雪いてきましたね、標準器が無かったら遭難しそうです……』


 シルビアが不安そうにそう言った。天候のせいで前線基地への到着は遅れそうだ。


「迷子になったら虎に食われるよ」



 そうして、ただひたすら雪の中を進み続ける。途中の放棄された街で一度休息をとり、ついでにイカれていた空調も整備する。


「前線基地はここから四十キロ、もう少しですね」


 吹き荒れる吹雪、かろうじてそれを凌げるボロボロの倉庫の中に身を寄せ合う様に、膝立ち状態の四機のシャーマンが駐機されている。


 スペース的に小隊五機は入りそうになかったので、隊長機だけ吹雪いている外に停められていた。


 隙間からの冷たい風、この倉庫は全く寒さを凌そうにない。防寒着を羽織り空調を確かめる。


「着いたら、すぐに作戦だし休む暇もないのがキツいわ……あ、そこのレンチとって」


 開け放たれたコックピットハッチ、脚立の頂上に座りこちらを覗き込んでいるシルビアに手を出す。


 人型戦車は種類の差はあれど、おおよそ6〜8m程の大きさだ。降着状態ならコックピットの位置は2.5mほどの高さにある。


「はいどうぞ!」


 レンチを受け取る。コックピットのフットペダル右に存在するカバーを開けて配線盤を見てみると案の定、空調制御用の配線がイカれていた。


「整備班は何してたのよ……」


 戦火は激しさを増し、あらゆる人員が不足しがちなのはわかるけど。


「こういう所はちゃんとして欲しいわ……」


 手早く故障箇所を治して蓋を戻す。


「あー終わった終わった」


 私はコックピットから身を乗り出してピョンと下に降りた、シルビアも脚立を伝い私の元に降りてくる。


「ユリ姉、ご飯にしましょう!」


「……ご飯、ねぇ」


 シルビアはテンション高めだけど、私は気が乗らない。食事なんてどうせいつも代わり映えのない、クソほど不味いレーションだし。


「あんた、よくあんなの嬉しそうに食べられるね」


 誰かが「ドブの味がする」とか言ってたのを聞いて腹を抱えて笑った覚えがある。トブの味って……


 風の噂では、パイン公国軍のレーションは絶品と聞く。それを聞いた時、私はオレンジ共和国に生まれてしまった事を人生で一番後悔した。


「シルビアにあげる」


「え? 嬉しいですけど……ダメですよ! しっかり食べないと!」


 彼女はレーションを私に押し付けてくる。


「はぁ……」


 こんなゴミみたいなモノでも、何も腹に入れないよりはマシか。腹が減っては戦はできぬ……だっけ、私の母の故郷にはそんな言葉があるらしいし。


「要塞攻略には、どれくらいの部隊が参加するんでしょうか?」


 と、シルビアがレーションをむしゃむしゃ食べながら私に聞いてきた。


「えっと確か、戦車部隊がウチ入れて八十機くらいだっけ、歩兵部隊に航空部隊……とまあとにかく沢山いるね」


 人型戦車は基本四〜五機の小隊編成で行動する。八十機なら規模は四個大隊程だ。さらに人型戦車の後方から支援射撃を行う自走砲部隊、それに何千人もの歩兵、空軍の戦爆連合部隊も作戦に参加する。


「それだけいれば……白虎には負けませんよね?」


「大丈夫だって、心配しすぎ」


 シルビアはよっぽど"白い虎"を恐れているらしい。


「そんな怖がる必要ないって、戦場の噂なんて大体誇張されまくりなんだから」


 そう、いくら優れているパイロットであろうと、一人で戦局を覆すなんて不可能だ。


「一人で戦争を終わらせるなんて、物語の中でしかあり得ないからさ」



〜〜〜〜〜〜〜〜



 そうして、いよいよ集結地点である最前線基地に到着する。


 最前線基地であるプラム基地、州の中でも比較的気候が穏やかで、降雪も激しくない。


 プラム基地には各方面から集められた精鋭部隊が軒を連ねていた。それだけ連合軍HQ(司令部)のマスカット要塞攻略に賭ける意気込みが強いのがわかる。


「……おい、あれ」「肩のマーク、死神だ……」「アイツらも参加するのか……俺後ろから撃たれたかぁないぜ?」


 味方部隊からは散々な言われようだ。まぁ、うちって評判最悪だし仕方ない。



 そうして、いよいよ運命のマスカット要塞攻略戦の火蓋が落とされた。

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