表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/18

3話 虎の待つ砦

「作戦概要を伝える。444小隊は二時間後の一四〇〇、基地を経ち東部マスカット州に向かう」


 シルビアの言った通り、東部方面での作戦展開であった。東部は激戦地となっており444小隊もしょっちゅう派遣されている。


 マスカット州はパイン公国の中でも特に荒れた土地が多く、さらにこの時期になると雪が多く降り積もる豪雪地帯と化す。


「またあっちか、今度は何人死ぬかねぇ……」


 小隊のメンバー、マイクの隣にある角刈りの男がそう呟いた。前回東部戦域に行った時は小隊メンバーが一人戦死、代わりに補充されたのがマイクであった。


「ま、少なくとも私とシルビアじゃないのは確実だね」


 私はシルビアを抱き寄せながらそう言った。


「あ? 俺らのどっちかが死ぬって言いたいのかよ!」


 喚き散らす角刈り。


「どっちか? 両方の間違いじゃないですか?」


 シルビアが舌を出して挑発、かわいい。


「てめぇ!!」


「いい加減にしろ!!!」


 隊長の怒鳴り声で私たちは一応黙る。この小隊はいつもこんな感じだ。


「で、マスカット州で何をするんですか?」


 私は体調にそう尋ねる、まあやる事なんて分かりきってるけど。


「マスカット要塞の攻略を、複数の部隊と共同して行う」


 マスカット要塞、あそこは高台に立つ堅牢な要塞だ。


 要塞には公国軍の新型重戦車(ヘビータンク)や協力な砲を持つ自走砲が幾多も配備され、対空兵器もハリネズミのように張り巡らされている。


 連合軍は攻略に随分と手間取っているらしい。


「今までチマチマと攻撃を仕掛けて来たが、いよいよ本腰を入れて攻略ってわけか」


 と、角刈り。


「あそこを抜ければ一気に首都に近づくからな」


 雪が深々と降り積もるその州を抜けると、一気に公国の首都"ドラゴンフルーツ"に向け攻勢をかけられる。


「首都を落とせば、流石の公国人も降伏するだろ」


 マイクの楽観的な意見、果たしてそう素直に進むものだろうか……



 そうして、私たち小隊は出撃準備を進める。その中でふとシルビアがこんな事を言った。


白い虎(ヴァイスティーガー)……って知ってます?」


「うん、もちろん」


 "白い虎"。公国陸軍最強とも言われるエースパイロット。機体に白虎のノーズアートが描かれている事からそう呼ばれている。


 戦争初期から各地で暴れ回り、連合軍側を恐怖に陥れている強者。連合軍戦略情報部によれば、コイツの戦力は一人で一個戦車大隊に相当するとか。


 いやいや、流石にそれは盛りすぎでしょ。


「どうも、そいつがマスカット要塞にいるなんて噂が……」


 不安そうな顔をするシルビア。


「大丈夫だって、そんな心配しなくても、ただの噂でしょ」


 何の根拠も無いけど、こういう時はこういう事を言うのが一番良いだろう。


「ですよね! たとえいたとしても"リボン付きの死神(グリムリーパー)"なら負けませんもんね!!」


 "リボン付きの死神"は私の異名だ、自慢では無いが、私も結構色々な意味で名が知れている。


 でもまあ死神とは……皮肉なものだが私にふさわしいよ。


 多分その死神には、畏怖の他に味方殺しの意味も含まれているのだろう。そう、私は444小隊の死神。小隊の数字も死神にぴったりだ。


 私はそっとシルビアを抱く。


「あっ……ユリ姉……」


「大丈夫、私が守るから」


 そう、この娘だけは居なくならないで欲しい。


「うぅ……嬉しいですけど、私そんな弱くないです! 私もユリ姉の隣に立てるくらいには……」


 私はシルビアを放す。


「はいはい、わかってるって」


「むー、絶対わかってませんよね!!」


 ……この娘は何故こうも、天使みたいなのだろうか。



〜〜〜〜〜〜〜〜



 陸軍に入った私は、人型戦車乗りとしての日々を生きていた。


 訓練の日々は厳しいものだった。まさしく想像していたスパルタ式の軍隊そのものであった。


 勿論、女だからって何か特別な事も無かった。軍隊ってそういうものだ。男女に差なんてなくある意味平等だ。


 ただ一つだけ、周りの男達からは距離を取られた。理由は……


「アイツ、少将の愛人らしいぜ」「こえーな……手出したら処刑されるんじゃね」「あー、せっかくの上玉なのによ」


 ……あの客、将官だったのか。



 そんなこんなで人型戦車に乗り続ける日々。不思議なもので人型戦車の操縦は、まるで前世から覚えているみたいに上達していった。


 そうして、私は初めての実戦を経験する。


 軍隊に入って一年、共和国の西部において内戦が起きた。この内戦の起きた地方は元々別の国であり、共和国が武力的に併合した土地であった。


 内戦の火種が燻っていた場所、いつ爆発してもおかしくなかったが……それが弾けたというわけだ。


 そこで私は、初めて人を殺した。初めて殺ったのは反乱軍の"M3 Lee"という人型戦車だった。シャーマンの一世代前の機体だ。


 今でも覚えてる、敵のコックピットブロックに無我夢中で機関砲を撃った事を。


 飛び散った黒いモノがオイルなのか人の血なのか……それはわからない。


 戦争なんだから仕方ない、私は私の仕事を全うしているだけ。私は自分にそう言い聞かせた。



 だけど、その時の私は気が付かなかった。自分の心の中にドス黒い感情、性的快感と同じくらいに気持ちのいいモノが渦巻いていた事を。


 内戦は長く続いた、一年くらいだろうか。歩兵や敵戦車……果ては爆撃機、その間にいったい私は何人の敵を殺したのだろうか。


 その中で私は……味方をも手にかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ