15話 決着
こちらに気がつき振り返る二台のパンター、だが反応が遅すぎる。
私はそのまま勢いに任せ、一気に高い方の一台の懐に入り込み、大剣をコックピット部にぶち当てる。
衝撃、吹き飛ぶパンター。仕留めきれなかったが……中のパイロットは恐らく気を失っただろう。
そうして二台目のパンターに向き直る。大剣を持っている手とは反対の手に持っている軽機関砲をすかさず乱射。
チュンチュン……と、弾が跳弾する音。装甲を抜く必要はない、牽制になればいい。
と、その時。十メートルほど先にいるⅧ号が大きな巨体をこちらに転換させようとしているのが確認できた。
そして……その先にいる白いティーガーがこちらを向く。
「久しぶり」
私はパンターの大ぶりなランスによる攻撃を躱す、操縦桿を引き──勢いよく押し出した。
パンターの首元に向かう大剣の刃先、大きな衝撃音と金属が擦れ合う音。
「二台目……ッ!」
Ⅷ号や白い虎が反応をする前に邪魔な二体を片付けられた。
大剣を抜き、すぐさま次の動作に移る。
「────ッッッ!!!」
右横方向に機体を跳躍させる。瞬間、私のイージーエイトがいた場所に降り注ぐ榴弾。
ドガァァァァァアン……! という鼓膜が破けるような音と振動。
大剣を盾代わりにして、破片を受け止める。
雪煙と土煙狩り混ざった灰色の煙が周囲を包み込む。瞬間、感じる殺気。
大剣を起こす、そうして機体を襲う大きな衝撃が走る。
煙が晴れる、モニターに映っていたのは、私にランスを向けているティーガー。なんとか大剣でその攻撃は受け止められたようだ。
「ランスを剣変わりとか、なんて乱暴な戦い方……!」
まあ私も似たようなものか。
ランスを受け止めた大剣を押し返して、ティーガーとは距離をとる。
「ちょ……マジで」
重鈍ながら正確な動きで大型の砲をこちらに向けるⅧ号。
「やられてたまるかッッッ!!!」
ペダルを蹴る。同じように私のイージーエイトも地面を蹴り上げ大きく跳躍する。
直後、私のいた場所は弾け飛ぶ。爆風に煽られながらもなんとか姿勢を整え……
そのまま大剣をⅧ号の大兜のようなずんぐりとした頭部に振り上げる。
大剣をⅧ号の頭部に残して着地。弱点は見えた……私はコックピット内に常備されているショットガンを抜き、間髪を入れずコックピットのハッチを解放する。
上を見上げる、VIII号は頭部も装甲が硬いようで大剣による勢い任せの攻撃もほぼ意味がなかったようだ。
頭部に残してきた大剣が地面に勢いよく落ちる。衝撃と風で飛ばされないようにハッチの取っ手部分に掴まる。
「……っ!」
そうして、私はⅧ号に飛びつく。ちらりと背後を確認すると……こちらに砲口を向けている白い虎のティーガーが見えた。
「味方に……攻撃は出来ないでしょ!」
そのまま上によじ登っていく。こういうロッククライミングみたいなのは得意だ。
そうしてコックピットブロックがあると思われる腹部辺りに素早く辿り着く。
「もらったァッッッ!!!」
ショットガンを構え、装甲の隙間に存在する緊急用イジェクターと思わしき機構がある場所に乱射。
誤作動を起こしたイジェクターによりハッチが開かれる、私は手早く中の搭乗員を蜂の巣にした。
「……ようやくここまで来た」
Ⅷ号を仕留めた私はそのまま、解放されっぱなしだったイージーエイトのコックピットに飛び乗る。
「私がいない間に、戦車を破壊しないなんて。やっぱり公国人って騎士サマみたいな気質なんだね」
そうして、目の前のティーガーと対峙する。肩部に白虎を模したパーソナルマークを携えたその機体。今、目の前のティーガーの中にいる"彼女"はどの様な気持ちなのだろうか。
「……それとも、アナタも私たちサシで戦いたかったのかな」
操縦桿のグリップを握る手が汗ばむ。鼓動の高鳴りを感じる。邪魔なものは倒した、あとは彼女と……激突するまでだ。
私は側に転がっていた装備を拾い大剣を再び構える、刃はボロボロに欠けていて剣としては使いようがないが鈍器としてならまだまだ使えるだろう。
白いティーガーが、私のイージーエイトにランスを持つ手とは反対に装備されている榴弾砲を向ける。
私は履帯を滑らせ、弧を描くようにティーガーの背後に回る。
ドンッ……! と撃ち込まれる榴弾を回避しつつ一度ティーガーとは距離をとるようにする。
くるりと回る、軽機関砲を乱射しながら後ろ滑りできた道を戻る私のイージーエイト。
榴弾砲をパージして、私の元に駆け出してくる彼女の機体。
突き出されるランスをギリギリのところで回避する。
「……ッ」
今のが当たってたら、コックピット串刺しだった。
ティーガーの手首に向け大剣を叩き込む。衝撃で弾き飛ばされるランス。
ランスは近くの建物に直撃、大きく崩壊する三階建てのアパートらしき建物。
反対の手に装備してある軽機関砲の銃剣を突き刺そうとするが……相手の左手によりこちらの手首が掴まれる。
押し潰される前腕部、ズドンと軽機関砲が落ちる音。
──またこのパターン、私はどれだけ腕を取られればいいのか。
左膝部で、ティーガーに膝蹴りを入れた。崩壊した建物の方に飛ばされるティーガー。
その時、静かな地響き。ヒビ割れ音のようなものが聞こえた。
私はそれに構う事なく、ティーガーの元に。それに向かって大剣を振り上げる。
「勝った──」
そう確信した瞬間だった。ティーガーの腰アーマーから……ロケット弾のような物が飛ばされてくるが見えた。
「……は」
急いで回避行動を取ろうとする、だが間に合わない──
爆発音、そして衝撃音……
そうして、その瞬間。あたりの地面を蜘蛛の巣のようなビビが覆う。崩落する地面……最後に見えたのはどこまでも灰色過ぎる空であった。




