13話 超重戦車
首都制圧作戦が進む、偶発的に遭遇する敵部隊を叩きながら市街地を進んでいく私たち。
『しっかし、この街は広いな……行っても行っても進んでる気がしねぇよ』
補充要員その一の言う通り、ドラゴンフルーツはかなり広めな街だ。流石歴史の古い国の中心部というべきか……
大きな駆動音を上げながら脚部の履帯で戦闘車両のように進んでいく四機のシャーマン。
ふと空を見上げる、味方の戦闘機が音を上げ通過していくのが見えた。既に首都の制空権は連合の手にある。
海、そして空は連合の支配下。中央に聳え立つ大仰な城に連合の旗が立つのも時間の問題であろう。
「────っ、十時の方向! 敵戦車を視認!!」
微かに映った動く影、それを捉えたのは私だけだったようだ。
『味方じゃないのか!?』
「アンタにはあの迷彩が見えなかったの?」
チラリと視界に映った独特の迷彩は公国軍特有のものであった。
味方の誤爆を防ぐ為の迷彩なのであろうが、逆にそれがこっちにとっては判別が付けやすく有難かったりする。
『お前らは建物の陰に回れ、俺と死神が前に出る!』
隊長機の指示を聞き、補充要員二人のシャーマンは背後の建物を遮蔽物とするように身を隠す。
直後、砲撃が私たちを襲う。一発、二発、三発……三発目は隊長機の防盾にぶち当たるが、角度がついていた為跳弾した。
私は機体を操作し、砲撃が降ってきた方向に向け軽機関砲を乱射する。
パラパラと放たれる砲弾はクラシック調な建物を巻き込み機体が潜んでいたと思われる場所に着弾。
大きな音を立て崩れ去る建物、雪煙の中から現れる二機のパンターが見えた。
雪に覆われた道路を滑るようにこちらに向かってくる二機。私は背部に装備されている大剣のロックを解除して一気に引き抜く。
中型のシャーマンイージーエイトにはアンバランスなその大剣を傾斜をつけて、盾代わりにし軽機関砲による銃撃を跳弾させる。
「──あの人とは大違い」
あまりにも単調で読みやすい攻撃、戦争が長引き熟練の兵が消耗され今前線に出ているのは新兵ばかりと聞くが……
「にしても……中の人が違うとこんな動きも違うんだ」
盾がわりに使用していた大剣を乱雑に投擲、大剣は丁度一機の腹部に直撃しパンターを二分した。
そこに降り注ぐ後方の味方からの集中射撃。真っ二つになったパンターはそのまま爆散。
それに怯んだ残りの一機、私はその隙を見逃さなかった。私のイージーエイトは一気に生き残りに向けて跳躍。
操縦桿を起こし、機体の動きを調整する。そうしてズシンと機体に着地の衝撃が伝わってきた。
間髪入れずに短刀を引き抜き……パンターの首を刎ねた。
視界を失った事により右往左往する敵機、私は側に落ちていた大剣を回収、そうして──そのままとどめをさす。
そのまま結晶板モニターで周囲を探る。他に敵は居ないようだった。
『……相変わらずやべえ動き』
「そりゃどうも」
味方の恐れを含んだ賞賛も最早慣れっこだ。シルビアだったら……純粋に褒めてくれるのに。
──だめだ、またあの娘の事を。私ってこんな引きずるタイプだったっけか。
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数日で終わると思われていた首都制圧作戦であったが、公国軍のゲリラ紛いの戦法により連合軍占領部隊は苦戦を強いられていた。
ドラゴンフルーツに張り巡らされている地下迷宮を利用した奇襲攻撃、チクチクとした嫌らしい攻撃により占領部隊の疲弊は日に日に高まっている。
しかしながら、それでも戦力は圧倒的に連合軍の方が上。公国側は既に瓦解しかけ。指揮系統もメチャクチャな状態であった。
連合軍による首都への総攻撃開始から一週間。ドラゴンフルーツの四分の三は連合軍の支配下に落ちた。
それでもなお抵抗を続ける公国軍残存部隊。もはや彼らを突き動かしているのは単なる"意地"であった。
「……十八っ!」
背後で爆散するIV号。首都に入ってからこれで十八機の戦車を狩った。
機体を履帯を使い旋回させる、背後に聳え立っていた大仰な建物。まるで宮殿のようなその建物を眺める。
パイン公国行政評議会宮殿、半壊したその建物、砲撃を受け黒煙を上げている。
十二月二十四日、今日この日パイン公国、行政の心臓部が陥落した。
私はコックピットハッチのロックを解除、外の冷たい空気が操縦席内に流れ込んでくる。そうしてチラチラと白い雪が降り注ぐ。
嗅覚をくすぐる炎の焦げたような匂い、そうして火薬の激しい匂い。
「ここにいないのかな……」
首都制圧作戦が開始してから今日まで、"白い虎"が現れたという報告は上がっていない。
コックピット内に常備されているハンドガンを手に取り立ち上がる、そうして外に。
シャーマンの肩アーマ上部に乗り灰色の空を見上げる。
『……が……大型……』
コックピット内から聞こえて来る味方機からの通信。
『……マンゴー通り……超重戦車……』
超重戦車、もしかして彼女なのだろうか?
私はコックピットに飛び乗り、もう何度目かわからない味方部隊の支援に向かうのであった。




