12話 最終局面
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例の新型兵器が炸裂してから三週間後。当初は大混乱に陥っていた連合軍はなんとか体制を立て直し、再び首都ドラゴンフルーツへと侵攻を再開した。
三つの閃光が生まれたルートを大きく避けるように……新しく開拓されたルートより進軍を進める連合軍。補充要員を追加した444小隊もその進軍に加わっていた。
『先を進むのが怖くなるな……』
小隊に新しく補充された男パイロットの呟きが聞こえる。
『あの新型兵器、地上設置型だったらしいからね。隅々まで警戒しながら進んでるけど……あの光景を見てると流石に足が重くなってくるわね』
補充要員その2がその呟きに答える。
主力部隊に大打撃を受けた連合軍は、かなり慎重になりながら戦争の最終局面を進めつつあった。
『もう疲れたぜ、いつまで戦い続けなきゃならねえんだ俺たち戦車乗りは』
『首都を落とせば、終わるわよ……そうであって欲しいわ』
二人の会話をボンヤリと聞き流しながら、私はある一人の少女について考えていた。
あの要塞攻略戦で出会った彼女、私の大切な……愛おしい女の子の命を奪ったあのパイロット。
お互いの胸部装甲を破壊したあの時……破片が舞い散り体に突き刺さるあの瞬間、確かに私は目にした。
V号戦車パンターに乗っていた"白い虎"。そのパイロットは私と同い年くらいの女の子であった。
ロングの銀髪、左のサイドテールが特徴的な彼女。あの娘が……シルビアや多くの連合軍兵の命を奪った"白い虎"。
何故だろうか、彼女の事を考えると……憎しみより先に親近感というものが湧いてしまう。
彼女は確かに私の一番大切な人の命を奪った。憎いという感情もある。
だけど私が誰かを憎んでいい理由なんてない。私だって多くの人の命をこの手で奪ってる……
私だってあの娘と一緒なんだ、だからこそ彼女に近しいものを感じてしまった。
「ふぅ……」
私は小さく息を吐き、右側の髪を結んで作った小さなシニヨンの根元にある水色のリボンを触る。
そうして、まだ新しめなコックピットの内部を見渡す。
要塞攻略戦で私の愛機は中破状態になってしまった。本来なら修復が行われるところだけど……新しい機体を配備した方が早いとのことで私に新機体が割り当てられた。
"M4E8"、通称シャーマンイージーエイトと呼ばれるシャーマンの改良機だ。
外見こそあまり大差はないが、性能面ではかなり向上しているらしい。
──この機体で、またアナタと戦いたい。だって私にはそれくらいしかアナタの事を知る方法を知らないから。
そうして。私たち444小隊を始めとする首都侵攻部隊は進んでいく、雪がしんしんと降り積もる首都への道を……
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十二月十五日、首都への総攻撃が始まった。既に多数の公国軍兵が武装解除を行い投降を始めていた。しかしながら首都には未だ多くの主力部隊が守りを固めている。
公国の首都ドラゴンフルーツは、古い歴史を持つ大都市だ。中央に存在する巨大な城が特徴的だ。
既に公爵家の面々は、他国に亡命している事が判明している。
国を捨て、国民を捨てた公爵家。あんな馬鹿げた悪魔のような作戦を思いつく公国軍と言い、この国はつくづく指導者に恵まれていない。
だが首都には徹底抗戦を主張する軍上層部の人間や、政府の重要ポストの人間が残り抵抗を続けている。
公国人というのは一体どれだけ諦めが悪い人達なのであろうか。
ドラゴンフルーツは海にも面している、冷たい北海の海上防衛線を突破した連合軍艦隊が近海に展開している。
航空機が登場してからもはや時代の遺物とも言われた大口径の砲を備えた戦艦も、この時ばかりは待ってましたかと言わんばかりに砲弾の雨を降らせている。
海からの艦砲射撃、空からの援護を受け、制圧作戦開始から四日後の十九日。近辺に展開していた防衛線を突破し、陸軍主力部隊が首都に突入する。
私たち444小隊は各戦線を回り必要だと判断した場所を支援するいわば遊撃部隊のような役割を任された。
『ったく、都合のいい使いっ走りだな俺たちは』
補充要員その一のぼやき。古い街並みを乱暴に突き進む私たち小隊四機。
『気をつけろ、どこに敵が潜んでるか……この街は思った以上に区画が複雑だ』
隊長の相変わらず冷静な声が聞こえる。
……なんだかんだ言って、この人もあの"白い虎"との戦いを生き残った人なんだよね。
それを考えるとちょっと不思議な気分になる。まぁ正直言って対白い虎戦ではあまり役に立ってなかったけど。
どうせならシルビアの盾にでもなって欲しかった。
『なぁ、そういえば聞いたか? この街って地下迷宮が色々な場所に張り巡らされてるらしいぜ』
と、唐突に補充要員その一が呟く。
『その迷宮にも敵戦車が潜んでるかもって話でしょ?』
相変わらず身のない会話をする補充要員二人。だが地下迷宮……何かあるかも知れないからそこは頭に入れておこう。
『白い虎もこの街にいるって噂……』
補充要員その二の言葉に、私は思わずピクッと反応してしまう。
────あぁ、アナタもここにいるのかな。じゃあ戦いたい。シルビアの仇……なんて言わないけど。もっとアナタのことを知りたい。
私の胸は複雑な高揚感に満ち溢れていた。




