表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火星物語   作者: いずたく
1/2

銀色の髪の毛の少年

火星物語=第1章 カレン


 地球は銀河系でもまれな青く美しい惑星で有り、その美しさは数百年後の世界も見た目は変わる事は無かった。

 しかし、人口の増加による食料不足や急速なインフラ対策による設備の増強により人々が暮らす場所には膨大なエネルギーと食料を必要とした。

 人々は生き残る為、急速な対策を投じた。

 食料対策は地球の周りにコロニーを設置し、そこで農作物や家畜に魚介類を育てていった。

 不足したエネルギーも太陽光エネルギーの開発を急速に進めた。その開発により地球の衛星上に大きなソーラーパネルを建設し膨大な太陽光エネルギーを地球に送り込んでいた。

 様高層エレベータの完成である。

 地球から大気圏も貫く高い塔を完成させ地球の衛星上を自由に行き来出来るようになった。

 地球の衛星上にあるソーラーパネルやコロニーは月の管理システムが一括管理していた。

 そんなある日、地球の衛星上で大事故が発生した。

 ソーラーパネルとコロニーが激しくぶつかり七つある超高層エレベータの一つに地球の地軸上、南極にある宇宙エレベータを直撃した宇宙エレベータは地響きと共に大きく崩れ大量の熱を放出した。

 地球の温暖化が急激に加速し南極の氷が一気に解け大陸のほとんどが海に沈んでしまった。

 しかし、既に人類は月、太陽系を公転する巨大なコロニー、火星へと移住を始めており人類が絶滅する事はなかった。

 地球に残ったわずかな人間は人工の島(ノアの箱舟)を造り、そこに住み生活をし始めた。

 月には大きな都市国家ができ、地球の状態を監視していた事により、地球上にわずかに住んでいる住民は夜な夜な、月を見上げると大きな化け物に見られている気がすると皆口々に語っていた。

 そして、月は毎日多くの宇宙船が飛び交う太陽系の中心的な都市へと変わり、多くの人々で賑わっていた。

 火星からの貨物を載せた宇宙船が1隻、月の港に入って来た。

 火星は地球よりも太陽に遠く寒い為、火星の上空、衛星上には大きなソーラーパネルが設置されておりソーラーパネルに反射される太陽の光により火星の表面を暖め、冷え切った大地を温め人の住める環境にしていた。

 しかし、ソーラーパネルの当たらない夜は極寒で昼間との温度差が大きく、更に火星は地球よりも小さく為、一日が短く重力も弱い。

 空気もほとんど無い事から、人々はドーム状の大きな人工の大陸を造り、そのドームの中に空気を充満し浮かせた。

 地球と同じ重力にする為、ドームの中の大気圧を上げた。

 人工のドームは浮き上がり火星の上空を地球と同じ時間、1日24時間で回る事により人々はドームの中で地球と同じような生活が出来るようにした。

 更に火星の人々の絶え間ない努力により、火星の厳しい環境にも生きていける動植物も生み出した。が。しかし、新たな生命を創りだす事により、より強靭な生物が誕生し野生化し独自で進化する生物も現れた。その事から、人を襲いだす生物も生まれ始めていた。

 火星に住む人々は、厳しい環境と上空にあるソーラーパネルからの照り返しにより、皮膚が厚く茶色の肌が特徴である。

 逆に月の人間は、裕福な人間が多く重力も低い事から、白く太めな人間が多い。

 そして、月の人間は火星から来た人間を見下して、「火星人ひせいじん。」と、馬鹿にする者も多かった。

 ちなみにコロニーに住む人間は、重力の不安定性と太陽光の不足により細身で長身の人が多い。

 火星から遣って来た一隻の貨物宇宙船の中には、火星で採取できるレアアースと火星産の食用動植物が沢山入っていた。中には、危険な動物?いや、怪物も冷凍保存状態で入っていたが、この肉は非常に柔らかくて美味しく為、月では人気があり高価な値段で買うバイヤーも多い一級品の食べ物でもあった。

 火星の商人たちが、月のバイヤーと値段交渉をしている時、貨物宇宙船の中から商人とは思えない一人の女性が降りて来た。

 30歳前の女性で銀色の髪と日焼けした小麦色の肌、そして緑色の目をしており、痩せ型でグラマーなボディーをしているが、女性とは思えない強靭な肉体と左腕は義手から多くの戦いを経験してきた女性であるのが分かる。が。それには似合わない綺麗な顔立ちをしていた。

 その女性は火星の商人と交渉を始めている月のバイヤーの一人に話しかけた。

 「その怪物、私が仕留めた物だよ。高く買い取って下さいね。」

 月のバイヤーは彼女の引き締まった体と顔を見て答えた。

 「あなたみたいな綺麗な方が狩をした怪物ですか、体長は2mぐらいで大きな牙と爪をしているバルカーと言う生き物ですね。これは、肉が非常に柔らかくて美味しい。月では非常に人気のある食材です。高く買い取りましょう。ところで、あなたのお名前は。」

 「私の名前は、カレン。カレン ユウキよ。」と、微笑みながら答えた。

 そして、カレンは月のバイヤーの隣に居た火星の商人に話しかけた。

 「この船、1週間後の出航だよね。」

 「そうだよ。カレン、1週間後の15時出航だ。遅れないで帰って来てくれよ。次の日は月で太陽系会議が開催するので警備が厳しくなって船が出航が難しくなってしまうからね。」と、火星の商人は答えた。

 「どこに行くのかい。月の観光なら私が案内してもいいよ。」と、月のバイヤーはニヤニヤしながら答えた時、カレンと月のバイヤーの間に大柄な男が割り込んで来て、月のバイヤーを睨みつけた。

 「月では無く、私、地球に行くの。」と、カレンは答え足早に、その場を去って行った。

 月のバイヤーはカレンの後ろ姿、きらめく銀色の髪を見てつぶやいた。

 「あれが、火星の創られし人間か、綺麗だが。獣のような恐ろしい人間だと聞いているが、ベットの中でも見てみたいものだ。」と言い、月のバイヤーは、さっさと商談を終え帰って行った。

 地球は月の管理化にあり、地球に下りるには超高層エレベータに乗らなくてはならない。そのエレベータは地球から建てられており、物凄く高く大気圏を超えた宇宙空間まで伸びていた。

 そのエレベータに乗るには、月から出ているシャトルに乗らなくては行けない、月の人々はノービザで地球に降りる事ができるが、火星の人々はビザが必要で更に1週間の滞在しか認められていない。

 カレンもビザ所得に幾日も掛かり、ようやく火星にある月の大使館よりビザの発行が許され今回の貨物宇宙船に乗り月へと遣って来た。

 カレンは、地球に降り立つチケットを買いに出かけた。

 カレンは火星の怪物たちを狩って稼いだ金を溜め込んでいて結構金は持っていた。

 色々な種類のお金が流通している為、他国との支払いは電子マネー払いが主流である。

 カレンは無事に月から地球に降り立つチケットの購入ができ、月にあるシャトルステーションへと足早に向かって行った。

 月は火星の移住空間より気圧も低く重力も軽い。

 「こんな場所に長く居たら、運動不足で太ってしまうわ。」と、カレンは思いながら超高層エレベータ行きのシャトルに乗った。

 シャトルは月を出発して直ぐ地球に下りる超高層エレベータの出入口ポートに到着した。

 エレベータ乗るには厳しい手荷物検査がある。

 カレンは、これが嫌いであった。

 身体検査は機械で体中をスキャンさせられパスポートの記録と照合させられる。

 裸を見せられている様で好きではなかった。

 手荷物検査は下着まで調べられ、すごく不快感があった。

 ようやく検査が終わりエレベータ乗り場まで遣って来た。

 エレベータ乗り場は多くの人で賑わっていた。

 その中に黒装束が二人いた。

 カレンは、直ぐに彼らが木星人だと分かった。

 木星は火星より太陽から遠く重力は地球より大きい、木星の人々のイメージは性格が暗くネガティブな人間が多いと言う印象があった。

 エレベータの扉が開きゲートが解放した。

 エレベータと言っても中は広く何層にも座席が設置されており窓側の席も確保出来た。

 カレンは席に着きシートベルトを閉めた。

 場内アナウンスが流れた。

 「本日は、弊社ムーンライト社を選んでもらい誠にありがとうございます。降り立つ地球の空は晴れでございます。皆様、ご着席の上、シートベルトの装着お願い致します。このエレベータは、まもなく地球へと降りて行きます。良いご旅行を心からお祈りしております。」

 放送が終わり、3分後にエレベータは動き出した。

 カレンは窓からの景色を眺めていた。

 そして、青く綺麗な地球の姿を見て、「綺麗。」と心の中で思った。

 超高層エレベータは3時間で地球に降り立った。

 出口を出てカレンは地球の重力と空気に感動し涙があふれてきた。

 「これが地球、そして母なる大地。」

 地球は、温暖化により大陸のほとんどが海に沈んでいた。

 超高層エレベータ設置の場所は昔高い山ので会った場所に立てられており周りは海で囲まれていた。

火星物語=第1章 カレン


 地球は銀河系でもまれな青く美しい惑星で有り、その美しさは数百年後の世界も見た目は変わる事は無かった。

 しかし、人口の増加による食料不足や急速なインフラ対策による設備の増強により人々が暮らす場所には膨大なエネルギーと食料を必要とした。

 人々は生き残る為、急速な対策を投じた。

 食料対策は地球の周りにコロニーを設置し、そこで農作物や家畜に魚介類を育てていった。

 不足したエネルギーも太陽光エネルギーの開発を急速に進めた。その開発により地球の衛星上に大きなソーラーパネルを建設し膨大な太陽光エネルギーを地球に送り込んでいた。

 様高層エレベータの完成である。

 地球から大気圏も貫く高い塔を完成させ地球の衛星上を自由に行き来出来るようになった。

 地球の衛星上にあるソーラーパネルやコロニーは月の管理システムが一括管理していた。

 そんなある日、地球の衛星上で大事故が発生した。

 ソーラーパネルとコロニーが激しくぶつかり七つある超高層エレベータの一つに地球の地軸上、南極にある宇宙エレベータを直撃した宇宙エレベータは地響きと共に大きく崩れ大量の熱を放出した。

 地球の温暖化が急激に加速し南極の氷が一気に解け大陸のほとんどが海に沈んでしまった。

 しかし、既に人類は月、太陽系を公転する巨大なコロニー、火星へと移住を始めており人類が絶滅する事はなかった。

 地球に残ったわずかな人間は人工の島(ノアの箱舟)を造り、そこに住み生活をし始めた。

 月には大きな都市国家ができ、地球の状態を監視していた事により、地球上にわずかに住んでいる住民は夜な夜な、月を見上げると大きな化け物に見られている気がすると皆口々に語っていた。

 そして、月は毎日多くの宇宙船が飛び交う太陽系の中心的な都市へと変わり、多くの人々で賑わっていた。

 火星からの貨物を載せた宇宙船が1隻、月の港に入って来た。

 火星は地球よりも太陽に遠く寒い為、火星の上空、衛星上には大きなソーラーパネルが設置されておりソーラーパネルに反射される太陽の光により火星の表面を暖め、冷え切った大地を温め人の住める環境にしていた。

 しかし、ソーラーパネルの当たらない夜は極寒で昼間との温度差が大きく、更に火星は地球よりも小さく為、一日が短く重力も弱い。

 空気もほとんど無い事から、人々はドーム状の大きな人工の大陸を造り、そのドームの中に空気を充満し浮かせた。

 地球と同じ重力にする為、ドームの中の大気圧を上げた。

 人工のドームは浮き上がり火星の上空を地球と同じ時間、1日24時間で回る事により人々はドームの中で地球と同じような生活が出来るようにした。

 更に火星の人々の絶え間ない努力により、火星の厳しい環境にも生きていける動植物も生み出した。が。しかし、新たな生命を創りだす事により、より強靭な生物が誕生し野生化し独自で進化する生物も現れた。その事から、人を襲いだす生物も生まれ始めていた。

 火星に住む人々は、厳しい環境と上空にあるソーラーパネルからの照り返しにより、皮膚が厚く茶色の肌が特徴である。

 逆に月の人間は、裕福な人間が多く重力も低い事から、白く太めな人間が多い。

 そして、月の人間は火星から来た人間を見下して、「火星人ひせいじん。」と、馬鹿にする者も多かった。

 ちなみにコロニーに住む人間は、重力の不安定性と太陽光の不足により細身で長身の人が多い。

 火星から遣って来た一隻の貨物宇宙船の中には、火星で採取できるレアアースと火星産の食用動植物が沢山入っていた。中には、危険な動物?いや、怪物も冷凍保存状態で入っていたが、この肉は非常に柔らかくて美味しく為、月では人気があり高価な値段で買うバイヤーも多い一級品の食べ物でもあった。

 火星の商人たちが、月のバイヤーと値段交渉をしている時、貨物宇宙船の中から商人とは思えない一人の女性が降りて来た。

 30歳前の女性で銀色の髪と日焼けした小麦色の肌、そして緑色の目をしており、痩せ型でグラマーなボディーをしているが、女性とは思えない強靭な肉体と左腕は義手から多くの戦いを経験してきた女性であるのが分かる。が。それには似合わない綺麗な顔立ちをしていた。

 その女性は火星の商人と交渉を始めている月のバイヤーの一人に話しかけた。

 「その怪物、私が仕留めた物だよ。高く買い取って下さいね。」

 月のバイヤーは彼女の引き締まった体と顔を見て答えた。

 「あなたみたいな綺麗な方が狩をした怪物ですか、体長は2mぐらいで大きな牙と爪をしているバルカーと言う生き物ですね。これは、肉が非常に柔らかくて美味しい。月では非常に人気のある食材です。高く買い取りましょう。ところで、あなたのお名前は。」

 「私の名前は、カレン。カレン ユウキよ。」と、微笑みながら答えた。

 そして、カレンは月のバイヤーの隣に居た火星の商人に話しかけた。

 「この船、1週間後の出航だよね。」

 「そうだよ。カレン、1週間後の15時出航だ。遅れないで帰って来てくれよ。次の日は月で太陽系会議が開催するので警備が厳しくなって船が出航が難しくなってしまうからね。」と、火星の商人は答えた。

 「どこに行くのかい。月の観光なら私が案内してもいいよ。」と、月のバイヤーはニヤニヤしながら答えた時、カレンと月のバイヤーの間に大柄な男が割り込んで来て、月のバイヤーを睨みつけた。

 「月では無く、私、地球に行くの。」と、カレンは答え足早に、その場を去って行った。

 月のバイヤーはカレンの後ろ姿、きらめく銀色の髪を見てつぶやいた。

 「あれが、火星の創られし人間か、綺麗だが。獣のような恐ろしい人間だと聞いているが、ベットの中でも見てみたいものだ。」と言い、月のバイヤーは、さっさと商談を終え帰って行った。

 地球は月の管理化にあり、地球に下りるには超高層エレベータに乗らなくてはならない。そのエレベータは地球から建てられており、物凄く高く大気圏を超えた宇宙空間まで伸びていた。

 そのエレベータに乗るには、月から出ているシャトルに乗らなくては行けない、月の人々はノービザで地球に降りる事ができるが、火星の人々はビザが必要で更に1週間の滞在しか認められていない。

 カレンもビザ所得に幾日も掛かり、ようやく火星にある月の大使館よりビザの発行が許され今回の貨物宇宙船に乗り月へと遣って来た。

 カレンは、地球に降り立つチケットを買いに出かけた。

 カレンは火星の怪物たちを狩って稼いだ金を溜め込んでいて結構金は持っていた。

 色々な種類のお金が流通している為、他国との支払いは電子マネー払いが主流である。

 カレンは無事に月から地球に降り立つチケットの購入ができ、月にあるシャトルステーションへと足早に向かって行った。

 月は火星の移住空間より気圧も低く重力も軽い。

 「こんな場所に長く居たら、運動不足で太ってしまうわ。」と、カレンは思いながら超高層エレベータ行きのシャトルに乗った。

 シャトルは月を出発して直ぐ地球に下りる超高層エレベータの出入口ポートに到着した。

 エレベータ乗るには厳しい手荷物検査がある。

 カレンは、これが嫌いであった。

 身体検査は機械で体中をスキャンさせられパスポートの記録と照合させられる。

 裸を見せられている様で好きではなかった。

 手荷物検査は下着まで調べられ、すごく不快感があった。

 ようやく検査が終わりエレベータ乗り場まで遣って来た。

 エレベータ乗り場は多くの人で賑わっていた。

 その中に黒装束が二人いた。

 カレンは、直ぐに彼らが木星人だと分かった。

 木星は火星より太陽から遠く重力は地球より大きい、木星の人々のイメージは性格が暗くネガティブな人間が多いと言う印象があった。

 エレベータの扉が開きゲートが解放した。

 エレベータと言っても中は広く何層にも座席が設置されており窓側の席も確保出来た。

 カレンは席に着きシートベルトを閉めた。

 場内アナウンスが流れた。

 「本日は、弊社ムーンライト社を選んでもらい誠にありがとうございます。降り立つ地球の空は晴れでございます。皆様、ご着席の上、シートベルトの装着お願い致します。このエレベータは、まもなく地球へと降りて行きます。良いご旅行を心からお祈りしております。」

 放送が終わり、3分後にエレベータは動き出した。

 カレンは窓からの景色を眺めていた。

 そして、青く綺麗な地球の姿を見て、「綺麗。」と心の中で思った。

 超高層エレベータは3時間で地球に降り立った。

 出口を出てカレンは地球の重力と空気に感動し涙があふれてきた。

 「これが地球、そして母なる大地。」

 地球は、温暖化により大陸のほとんどが海に沈んでいた。

 超高層エレベータ設置の場所は昔高い山ので会った場所に立てられており周りは海で囲まれていた。

 カレンはこの建物の1階に降り、ここから移動できる海列車の乗車口を探した。

 一階のこの場所はレストランや土産、そして換金所や銀行などの多くの施設が有り多くの人々で賑わっていた。

 10歳くらいの一人の少年がカレンの前に遣って来た。

 「お姉ちゃん、この写真付の富士饅頭買わない。この場所は昔、富士山て呼ばれていた神聖な山の場所なんだよ。」

 カレンは、その少年の身なりを見て不思議に思い尋ねてみた。

 「君は、どうして雨でもないのに、そんな暑苦しいレインコートを着ているの。」

 その少年は笑いながら答えた。

 「お姉ちゃん、火星人だね。地球に住む人は日中は暑く紫外線がキツイから、ほとんどの人は家の中に居るんだよ。夜、涼しくなってから外に出て行動するのが普通だよ。このコートは紫外線対策用だよ。お姉ちゃん綺麗だから、この紫外線対策用クリーム買わない。」と、その少年はポケットから化粧品を出してきた。

 「ありがとう。このカード使える。」とカレン言い少年に見せた。

 「もちろん使えるよ。そのカード火星のゴールドカードだね。お姉ちゃん金持ちなんだ。」

 その少年は時計タイプのタブレットからB5サイズの光のボードを映し出し、すばやくカレンのカードをスキャンし、日焼け止めクリームをカレンに手渡した。

 「お姉ちゃんのメールにレシート送ったから、確認しておいて。」と少年は言った。

 カレンも時計形のパソコンからB5サイズの光のタブレットを出し確認した。

 「OK,確認できたわ。ところで、ねえ、君。私と同じ銀色の髪の毛と緑色の目をした少年を知らない。」と、カレンは少年に質問した。

 「銀色の髪の毛と緑色の目をした少年、知らないね。お姉ちゃんの知り合い。それだったら、この近くにある観光都市「京」に行って聞いて見た方がいいかもよ。知り合いの旅館なら安く泊まれるよ。良かったら紹介するよ。」と少年は笑顔で話していた。

 カレンは、その紫外線対策用クリームをリュックに入れると、その少年と別れた。

 少年の名はタロウと言い、お勧めの旅館の場所も教えてもらった。

 そして、地下道へと続くエスカレータに乗り海の中を走る海列車の改札口に向かい観光都市「京」行きの切符を購入した。

 列車の改札口のタッチパネルに腕時計を当てると改札口のゲートが開き、カレンは改札口の中に入った。

 そして腕時計からB5サイズの光のタブレットを出し行き先を確認し希望の列車へとカレンは乗った。

 暫くすると列車の扉が閉まり列車は動き出し下へと下って進んで行った。

 途中で列車は止まるとトンネルの扉が開き海水が入り込んできた。海水に完全に列車が浸ると列車は動き出しトンネルの中を進んで行った。

 トンネルを抜けると列車は海の中に出た。

 海の中に線路が有り、しばらくは線路の上を走っているが徐々に速度が上がっていくと線路から列車は浮き、レールから離れると途中で線路が無くなり海の中を走る潜水列車へとなった。

 列車の車輪が収納され変わりにウォータージェットのタービンが出てきて加速した。

 カレンは海列車の窓から海の中の景色を見て感動していた。

 海の中は綺麗で色とりどりの多くの魚が泳いでいた。

 「大昔、魚などの海の生物は乱獲や汚染により減って行ったと聞いた事があるが。大陸が海の沈み人口が減った事により魚が増えだしたのね。」と、カレンは思った。

 2時間して海列車は「京」の駅へと辿り着いた。

 京は海に浮かぶ人工の島であり多くの観光客が訪れ、町には地球産の海産物や和食レストランが多く有り、日本の古き町並みをイメージした色鮮な建物が多く並んでいた。

 人工島『京』はドームになっており太陽からの紫外線を直接受けない構造となっていた。

 カレンは先ほどの少年が紹介した京の旅館を訪ね、そこで一泊する事にした。

 京の街で夕食をとり街の中を堪能した後、旅館へと戻ってきた。

 布団に入り腕時計から光のタブレットを映し出し現在位置の確認を行った。

 「カズエさんの占いだと、この近くの何処かに居るはずなのよね。時間が無いわ。1週間までになんとしても見つけなくては。火星の平和の為にも。」と、カレンは言い就寝に付いた。

 次の朝、カレンは旅館の食堂で朝飯を食べていると昨日の少年、タロウが走って遣って来た。

 「お姉ちゃん、お姉ちゃん。昨日、お姉ちゃんと別れた後、黒装束の人たちがお姉ちゃんと同じ、銀色の髪の毛で緑色の目の少年を探していたよ。家に帰ってお母さんに聞いたんだけど、ここから50キロ先に猟師の村が在って、そこに銀色の髪の少年が居るみたいだよ。」

 カレンは、その話を聞き辺りを見渡してからタロウの耳元で小声で話しはじめた。

 「タロウ君。お願い。私をその場所に連れて行って。」

 「分かったよ。お姉ちゃん。」と、タロウは大きく頷いた。


火星物語=第2章 いずたく


 猟師の村 富良フラ)は、小さな人工の島である。

 住民の大半が漁業を営む猟師の村であり、釣った魚のほとんどが京の街に売られていた。

 京の街の辺りには、小さな人工の島がいくつも在り、ほとんどの島が漁業で生計を建てていた。

 タロウもこの島々の1つの島の出身であり、銀色の髪の毛の少年が居るらしき島、富良とは別の島に住んでいた。

 タロウの父親も漁師であったが、漁に出かけた際に大波にあい小舟が転覆し亡くなってからは母親と二人で生活しており京の街に出稼ぎに行き生計を立てていた。

 富良の村の外れにタロウと同じ紫外線対策用コートを着ている二人の少年が富良の島の外れにある海岸で釣りをしていた。

 晴天の昼間のせいか辺りには、彼ら二人以外誰も居なかった。

 そこに、別の紫外線対策コートを着た人が二人の下に走って遣って来て、二人の少年に話しかけてきた。

 「いずたく、大変よ。あなたを探している人が居るわよ。黒装束のおかしな人たちよ。あなた、また何かやったの。」と二人の下に遣って来た人物は女性の声であった。

 釣りをしている少年の一人が、当たりの無い竿を上げて答えた。

 「姉ちゃん、またって何。僕、最近悪さなんかしていないよ。それに黒装束のおかしな人って誰。そんな人知らないよ。」と少年が答えた。

 隣で釣りをしていた別の少年が話に割り込んできた。

 「いずたくの姉ちゃん。黒装束て、あの2人の事と。」と、別の少年がこちらに向かって歩いてくる人を指差して聞いてきた。

 「いずたく、あなたは、銀の髪をしているから、コートのフードを深くかぶって顔を隠しなさい。ここは、私たち2人で対応するから。お母さんが言っていた事って、この事なんだ。」と、いずたくの姉が言った。

 いずたくの姉ちゃんは、いずたくの銀色の髪と違い黒く少し茶色かかっていた。

 いずたくの隣の友達も髪は黒く彼だけが違う銀色の髪をしていた。

 いずたくの姉は、いずたくが遣って来た時の事を思い出していた。

 いずたくの姉すずが、まだ4歳の頃、すずは父親と二人暮らしをしていた。

 母親は、すずを生んで直ぐに亡くなった。

 嵐の夜、ずぶ濡れになり赤ん坊を抱えたナオコと言う名の女性が突然家に泊めてくれと遣って来た。

 その頃、地球は太陽エネルギーの事故により酷く混乱していた。

 いつの間にか4人は仲良くなり、ナオコといずたくは家族となった。

 ナオコの髪の毛も黒く、何故いずたくだけが銀色の髪の毛と緑色の瞳をしているのか不思議に思い、すずはナオコに聞いた事があった。

 「この子は火星の王子で、ある有名な占い師に導かれて地球に来たの。正解だったわ。こんな優しいすずの家族になれたんだから。」と母ナオコはすずに言ったのを思い出した。

 黒装束の男が三人に近づいて来た。

 顔や姿は見えないが一人は瘦せ型長身で、もう一人は小太りな体系をしていた。

 三人が身構えていると黒装束の二人は、ゆっくりと三人の下に近づいて来てた。

 そして、小太りの男の方が優しい声で3人に話しかけて来た。

 「君たちの中に、銀色の髪の毛をした少年は居るかい。」

 いずたくの姉すずと親友タイチはフードを取り顔を出して、話しかけてきた男の方を見て、すずが返答した。

 「何で銀色の髪の毛の少年を探しているのですか、おじさん。」

 すると、黒装束の男2人は背を向け釣りをしている少年いずたくの方を見てから、お互いに目を合わせ頷き小太りの方が、すずに話しかけた。

 「いや、なに。その子は元々、地球の子ではなく、とある星の王子なんだよ。本当のご家族の依頼でね。我々が探しに地球まで来たのさ。」

 「でも、そんな髪の毛の子は見た事無いし、ここには居ないわよ。」と、すずが答えた。

 「そうかい。それじゃあ、そっちの子の顔も見せてもらえないかい。」と、普通の体系の男が、いずたくの方を指差して言った。

 「こいつは、肌の病気で紫外線を浴びると体に良くないんだ。」と、タイチは言い、いずたくの前に立った。

 「本当のご家族が心配しているからね。我々も仕事だから、仕方が無いんだよ。」と、痩せ型の体系の男が答え、いずたくのフートに手を掛けようとしたので、すずが振り払い言った。

 「じゃあ、銀色の髪の毛の子は、何処の子なのよ。」と、すずが声を少し上げて心配そうに言った。

 「火星だよ。」と、小太りの男が答えた。

 「さあ、君、顔を見せてもらおうか。」と、痩せ型の体系の男は言い、すずとタイチを少々強引に払いのけ、いずたくのフードに手を掛けた。

 いずたくは、その手を振り払い男を突き飛ばして走り出した。が。痩せ型の男は、とっさにいずたくのコートを掴んだので、いずたくはコートを脱ぎ捨て銀色の髪をなびかせて走り出した。

 いずたくの銀色の髪の毛は太陽の光を浴びて綺麗に輝いていた。

 すずとタイチは黒装束の男二人を通さないように壁を作ったが、痩せ型の男は軽々と二人の上を飛び越えていずたくを追い駆け走り出して行った。

 すずとタイチが、その様子に驚いている隙に小太りな男は二人の間に強引に入り込み二人を突き飛ばして仲間の男の後を追った。

 タイチは尻餅をついて痛そうにお尻を押さえながら立ち上がりながらすずに言った。

 「いずたくなら大丈夫だよ。いずたくの足なら、あいつらに捕まる事は無いよ。」と笑顔で言い、いずたくが走って行った方を見つめた。

 いずたくは海岸線の小道を北に向かって走り、人の居る場所を目指した。

 黒装束の男は、いずたくを追い駆けていたが見る見る離されて行った。

 「さすが、火星の作られし人間。」と、痩せ型の体系の男が走りながら言い、着用していた黒装束のマントを脱ぎ捨てた。

 小太りの男が後方から追いかけており、その脱ぎ捨てたマントと拾いながら言った。

 「ジンもよいよ本気を出すか。」

 その様子を防波堤の上でカレンが見ており、銀色の髪の毛の男の子を発見すると慌てて走り出した。

 「一足、遅かったわ。あいつらは昨日、超高層エレベータで会った木星人。」と、言い二人を追い駆けた。

 痩せ型の男ジンの着衣は全身黒タイツのなんとも言えない不気味な格好をしており、顔には薄笑い顔をしたお面を被っていた。

 ジンは体が軽くなったのか急に足が速くなり、いずたくに追いつき出し始めた。

 いずたくは後ろを振り返り、物凄い速さで追いかけてくるジンの姿を見て、「あいつは、何だ。」と思い、このままだと追いつかれてしまう恐怖を感じとっていた。

 いずたくは海岸線の歩行者道路からガードレールを飛び越え一般道路へ渡り、一般道路を横切り反対側へ横断しようとしていた。

 ジンもいずたくを追って一般道路に飛び出し道路を横切ろうとした時、大きな魚を積んだ大型トレーラが走って来たが、かまわず強引に横断しようとした。

 トレーラの運転手は急ブレーキをかけたが間に合わずジンを引いてしまった。

 トレーラはバックをして、引いてしまった男の状態を確認した。

 ジンは、平べったくなり道路に付着していたが、暫くすると両腕が動き出し、平べったい状態で立ち上がった。

 ジンの体は厚みが無く風にユラユラと揺れていた。

 いずたくは驚き足を止め、その様子を見ていた。

 「嘘だろう。あいつ人間なのかよ。」

 ジンは、いずたくの方を見て歩き出した。

 いずたくは足がすくんでおり動けなかった。

 ジンは徐々に体に厚みが出てきて速度を上げ走り出し、いずたくに近づいて行った。

 そして、いずたくから10mほど離れた位置に近づいた時、右手を真上に上げ、いずたくの方に向かって右手を放り投げた。

 右手は伸び、いずたくの方へ向かって行った。

 いずたくは、その場で横に飛び体を回転しジンの右手を避けたが、今度は左腕が飛んできていずたくの右足を掴んだ。

 トラックの運転手は、その様子を運転席から隠れるように見ており驚きと怖さで外に出ることは出来なかった。

 昼間の、この時間は外は暑く紫外線がきつい為、ほとんどの人は外に出歩かず家の中に居る事が多い。

 それにより町外れの海岸線には人が居なかった。

 いずたくは左手で地面を押さえ、右手でジンの左手を自分の右足から外そうとしたが、外すことができず少しずつ引きづられながらジンの方に近づいて行った。

 その時、銃声が響き渡った。

 その途端、いずたくの右足が軽くなったので、いずたくは体を回転させてジンの方を見た。

 ジンの左腕はちぎれ、ジンは大声を上げた。

 「うギャー。」

 「早く、こっちに走って。」と遠くの方から、いずたくを呼ぶ女性の声がした。

 いずたくは、その声のする方に振り返り見た。

 カレンだった。

 彼女は海側の歩道に立っていて、左腕の義手から銃が出ていた。

「早く、こっちに着なさい。」と、カレンは言い、大きく手を振りいずたくに手招きした。

 いずたくは、どうして良いのか分からず、立ち止まって周りをキョロキョロと見ていた。

 すると、小太りの黒装束の男が追いつき、ジンの方に近づき言った。

 「ジン、どうした。腕をやられたか。」

 「ギャロ。あの女にやられた。左腕の義手に銃を隠し持っているぞ。気をつけろ。」と、ジンは言った。

 お面をして顔の表情は分からないが、苦しそうな声でカレンを右手で指差した。

 「そうか、あの女か。左腕の義手に銃を潜めていたので、地球入国時のセキュリティー検査に引っ掛からなかったのか。肌黒に銀色の髪。火星人か。厄介だな。」と言い、ギャロは、黒いマントを脱いだ。

 すずとタイチも追いつき彼らの様子を遠くから見て驚いていた。

 そして、すずは2,3日前、母ナオコの言った言葉を思い出した。

 「すず、いずたくは地球生まれではないの。いずたくを探している人たちがいるわ。彼らは最近、いずたくが地球に居る事が分かったみたい。連れ戻しに来るかもしれない。すず、お母さんは、どうしていいのか分からないわ。15年間ほんとに平和で幸せだったわ。いずたくに何かあっても、すずは絶対に手を出さないでね。彼らは、いずたくを殺したりしないわ。あなたまで危険な目に合わせたくないのよ。」と言いながら泣いていた母ナオコを思い出していた。

 トラックの運転手はトラックの中に隠れ、どうにかしてくれと神に祈り息を殺し見守っていた。

 ギャロは、モヒカン頭で口元には鉄製のマスク、体のほとんどが機械であった。

 そして、機械の背中から2本指の機械の手が左右三本づつ出てきた。その指は刃物のように尖っていた。

 ギャロの短い足が前後二つに別れ、姿勢を低くし一気にカレン目掛けて4本の足で飛び跳ねた。

 「地球の重力は木星と比べ軽くて動きやすい。」

 ギャロは背中の六本腕の刃物でカレンを切り刻もうとしたが、カレンは、すばやく避けたが銀色の髪の毛、数本が切り落とされ風に舞った。

 「女の髪を切り落とすなんて、最低な男ね。」とカレンは言い、左腕の銃でギャロを撃った。

 至近距離だったのでギャロの体は10m程度飛ばされたが、機械の体には利かなかった。

 「弾丸エネルギーは、後2発だけね。セキュリティー検査に引っ掛からないエネルギーしか充電できなかったから、あいつを貫通することはできないみたいね。でも、どうにかして、あの子を助けなくては。」と、カレンは思った。

 その隙にすずとタイチが、いずたくに近づいて来た。

 「いずたく、僕のお父さんに連絡したよ。すぐにこちらに向かってくれるよ。」と、タイチは言った。

 「いずたく。大丈夫、動ける。」と、すずが心配そうに言った。

 「これは、どういう事なんだ。何がなんだか分からない。」とタイチは言った。

 「僕もだよ、タイチ。でも、皆、僕にようがあるみたいだよ。」と、いずたくは言った。

 ジンはカレンとギャロの方を見ていたが、3人が逃げようとしていたのに気が付き体の厚みを無くし薄っぺらくなり、地面に張り付き影のように3人に近づいて行った。

 カレンは3人が逃げて行く後を影のように近づいて行くジンの姿が見えたので追いかけて行こうとした。が、ギャロが行く手を阻んだ。

 カレンは至近距離から左腕の銃でギャロを撃った。が。ギャロの体には傷一つ付けられなかった。

 しかし、銃の威力でギャロが、よろけたのを見てギャロの頭を踏み台にして飛び越え海岸線の道路に着地し3人の下に急いで走った。

 3人は逃げ切ったと思い走る速度を落としたら急に、いずたくの足が動かなくなり、その場でいずたくは転んでしまった。

 すずとタイチは、いずたくの足元を見て驚いていた。

 ジンは影のように近づき、いずたくの左足を右腕で掴んでいた。そして、ゆっくりと立ち上がった。

 「俺と一緒に来るんだ火星人。」

 ジンは、そう言うと黒い体が伸び、いずたくの体を巻きついて行った。

 そして、いずたくの体を覆いつくした。

 すると薄笑いのお面が取れ、いずたくの顔が現れた。

 ジンの左腕は新しく現れ、その左手でお面を取り顔に装備した。

 すずとタイチは、恐ろしさで言葉を失い、只、立ち尽くすしかなかった。

 そして、ジンは二人の下を急いで立ち去って行った。

 カレンは二人の下に遣って来たが、二人の様子を見て「遅かったか。」と、思い、その場を後にした。

 そして、10分後、大人たちが二人の下に遣って来たが、既にその場所には二人以外誰も居なかった。

 すずとタイチは、只泣きじゃくっていた。

 母ナオコは、すずの様子を見ながら一言もはせず、俯いていた。


火星物語=第3章 サラ

 太陽系会議。

 太陽系各地に住む代表が年に一度、月に集まり各々議題を持ち入り話し合いをする会合である。

 月の代表、タンク ヤマザキを主導の下行われる。

 タンク ヤマザキは、月の大統領であり地球を統括管理する責任者でもあった。

 各コロニーの代表や金星、火星、木星、土星の代表たち計30カ国が集まった。

 その中でも一際目立って居たのが、火星の女王サラ ユウキである。

 銀色に輝く髪の毛と透き通るような肌、そして澄んだ緑色の瞳、19歳という若さで女王になり火星を治めているだけあり気品のよさと色気も備わっており、その美しさに誰もが目を奪われた。

 サラは壇上に立ち、現状の火星の状態を話した。

 「今、火星は長い内戦が終わり、ようやく平和の道を歩き始めています。しかし、人々の暮らしは貧しく、火星の周囲にある3基の内、2基のソーラーパネルの老朽化は否めません。人々は火星に住む凶暴な生物に恐れ、日々不安な生活を送って降ります。どうか、皆様のお力と支援を願いたいです。」とサラは切に願い話した。

 しかし、コロニーに住む人々もコロニーの老朽化や食糧難を訴えていた。

 木星の皇帝パッキャオだけは無言であり答弁も省略していた。

 木星はガスで覆われている惑星で地球よりも大きく重力があり木星でしか採取出来ないレアーアースが国力となっており、国は豊かであった。

 皇帝パッキャオの権力は木星では絶大であった。

 サラは皇帝パッキャオを見て、隣に座っている護衛のトーイに小声で話した。

 「私、木星人好きじゃあないのよね。特にパッキャオ。黒いフードコートを来て顔を覆面で隠していて、あれでカッコイイつもりなの。」

 トーイはサラの言葉を聞いて慌てて答えた。

 「サラ様、パッキャオ様に聞こえます。顔の覆面は大きな火傷を隠しているらしいと言う噂ですよ。」

 トーイはサラと同じ年頃で細身で色白の黒髪で有り綺麗な顔立ちをして居る人物だが、性別は男でも女でもない中性であった。

 か弱い体をしているが格闘技術に飛んでおり、サラとは気が合い護衛兼相談相手でもあった。

 この時代ではクローン技術も進んでおり、こういった人々も少なくない。

 特に火星はクローン技術が進んでいた。

 結局、太陽系会議は月の大統領タンクの自慢話と結論の出ない長い話の会合で終わった。

 サラたちは一旦ホテルに戻り寛いでいた。

 ホテルの部屋の外の扉には火星の護衛たちが立っていた。 

 サラは下着姿でベットに横たわっていた。

 そのはしたない姿を見てトーイが言った。

 「サラ様、火星の女王としての自覚が足りないのではないですが。そんな姿で寛いではいけません。」

 サラは起き上がり下着姿のまま窓側に行き、外の景色を見ていた。

 「別に私は真の火星の女王では無いわ。本当の火星の女王はカレンよ。カレンが継ぐはずだったのよ。火星で内戦が酷かった時は、私はまだ小さくて何も知らなかったわ。内戦を終わらせたのもカレンだし彼女がふさわしいのに、カレンたら「私は女王という柄じゃあないから、後はサラに託した。」と言って、国を出てしまうんだもの。」とサラは寂しそうな声で言った。

 「サラ様。カレン様の活躍はいつも二人で見ていて最後の戦いは凄かったですよね。ただ悲しすぎる結末だったので心が深く傷ついていたのでしょうね。今、何処に居るのでしょうか。」とトーイは心配そうに答えた。

 「トーイ。カレンは、この月の何処かに居るわ。私、感じるの。月に来るとなぜかいつも凄くおぞましい気配を感じるのだけど、その気配の中にカレンの気を感じるのよ。」とサラが言った。

 「え。カレン様が月に。」とトーイは言い返したが、時計を見て慌てて言った。

 「サラ様、タンク大統領との食事の時間が近づいています。早く身支度して下さい。待ち合わせの時間に間に合わなくなります。」と、トーイは慌てて言った。

 数分後、サラとトーイはドレスに着替えホテルの出入口に行くと、タンク大統領が用意した大型で金色の高級車がホテルの前まで迎えに来ていた。

 サラとトーイ、そして護衛の三人は車に乗り込み地球食材が食べられる高級料亭へと向かった。

 「この車、悪趣味ね。金色でいかにもって感じ。」と、サラが言った。

 「サラ様、声が大きいです。言葉には気をつけて下さいね。」と護衛の一人、マゼラン大尉が言った。

 マゼラン大尉は大柄で昔はカレンの下で働いていた兵士であり、小さい頃のサラを非常に可愛がっていた。

 月の道路の下には磁力の発生する鉄板が埋められており、月の自動車が通ると磁力が発生し、その磁力の反発力を利用し月の自動車は中に浮き進む事が出来た。

 月の車は乗り心地も良く火星の旧式の乗り物とは大違いであった。

 サラとトーイはキラキラと光り輝く月の街のネオンを眺めていた。

 「サラ様、なんで私だけこんな短いスカートを履かなければならないのでしょうか。私は女でも男でもないんですけど。」と、トーイは不満そうに言った。

 「月の大統領タンクは無類の女好きだというし、その格好は喜ぶのではないでしょうか。」と、サラは笑いながら言った。

 「私、タンク大統領好きじゃあないんですよね。あの色白でお腹の出た体系。それに、地球の太陽光エネルギーの暴走も彼の仕業だという噂も聞いております。あの事故で多くの偉い人間が死んで地球の実権を彼が握ったという事も聞きました。サラ様、気を付けて下さいね。」と、トーイは不安そうに言った。

 「だから、トーイにその様な服を着せたのです。私じゃあなく、注意が君に行くように。」と、サラは笑いながら言った。

 サラたちを乗せた高級車が高級料亭「弁慶」の前に止まった。

 サラたちが車から降りると同時に別の黒い車が弁慶の前に止まった。

 黒い車の中から木星の皇帝パッキャオたちが降りて来た。

 一応、サラとトーイは皇帝パッキャオにお辞儀をしたが、パッキャオは無視して弁慶の中に入って行った。

 サラとトーイは、その態度を見て文句を言いながら、厳重警備の中、5階の個室へと案内された。

 もう、夜であるけれどサラは日傘を1本持ったまま個室へと入って行った。

 そこには、タンク大統領とその側近、そして木星の皇帝パッキャオと側近2名が座っていた。

 パッキャオは仮面をしており銀色の髪の毛と目と口だけが辛うじて見えていた。

 側近の者も同じく黒のコートと仮面をしており怪しげな不陰気を醸し出していた。

 火星側はサラとトーイの2名で、外に側近3名を待たせていた。

 食事は地球で取れた魚介類の海鮮料理であった。

 サラはカレンの影を強く感じており一旦個室を出てお手洗いに向かった。

 鏡の前で自分の顔を見ながら手を洗っていると、鏡の端にぼんやりとカレンの顔が見えた気がしたので振り返ろうとした時、カレンの声がサラの心の中に響いた。

 「サラ。振り返らないで意識を集中して私の話を聞いて、私はこの近くに居てサラに念を送っているわ。私はある人物を追って月まで来ているの。その人物は多分、今日、どこかで皇帝パッキャオに会うはずなのよ。この警備厳重の中では、私はパッキャオに近づくことは出来ないわ。で、サラ、お願い手伝って、これは火星にとってとても重要な事なの。」と、カレンはサラの心の中に話しかけた。

 「分かったわ、カレン。皇帝パッキャオの様子を伺うわ。何か有ったらどうやって連絡すればいいの。」と、サラは言いた。

 「思いを伝えて、感じる事ができるから。」と、カレンが答えたのでサラは声の感じる方向に振り返ったが、そこにはカレンは居なかった。

 「カレン。私の脳に直接話しかけて来たのね。左腕が無くても力は健在ね。」とサラは思い。お手洗いを出て厳重警備の中、トーイたちの居る個室へと戻った。

 料理は非常に美味しく、トーイは嬉しそうに食べていた。

 サラは、タンク大統領の自慢話を聞きながら皇帝パッキャオの様子を伺っていた。

 タンク大統領は、程よく酔っ払って上機嫌であった。

 その時、皇帝パッキャオの側近が一人、彼の耳元手ささやいていた。

 すると皇帝パッキャオの隣に座っていた側近がタンク大統領の隣に座りお酒を注いだ。

 その側近は仮面を被っていたが全身黒タイツの体からでも分かるくらい豊満な体の女性であり色気のある声でお酌した。

 タンク大統領が喜んでいる間に皇帝パッキャオは立ち上がり個室を出て行った。

 サラはトーイの耳元でささやいた。

 「タンク大統領をよろしく頼みます。」と、言い日傘を持って個室を出た。

 料亭「弁慶」の外で待機していたカレンが中の様子が慌しくなったのを感じとり動き出した。

 「ようやく、動き出したか。」と、カレンは目を光らせた。

サラは皇帝パッキャオの後を追ったが。

 パッキャオは一足早くエレベータに乗り1階へと降りて行ってしまった。

 料亭「弁慶」の前にパッキャオが乗ってきた黒い車が止まった。

 カレンはビルとビルの隙間からその様子を見ていた。

 「あの少年は何処に居るの。」と周りを見渡しかが、それらしき人物は居なかったが、パッキャオが車に乗り込む瞬間、車の中にジンが居るのを確認した。

 皇帝パッキャオが、車に乗り込むとすばやく車は動き出した。

 カレンはバイクに素早く乗り込み、その車の後を追った。

 サラは5階の女性用お手洗いの窓からその様子を見ており、カレンがバイクに乗り移動するのを発見したので窓ガラスの電子ロックを右手で軽く触れた。するとサラの右手から電気が発生し電子ロックが解除されたので、窓を開けて顔を出し大声で叫んだ。

 「カレン。」

 カレンはサラの声に気が付きバイクの方向を変えてサラの前を通過したので、サラは5階の窓から飛び降りた。

 月の重力は軽く、サラは持っていた日傘を広げ下降速度を和らげカレンのバイクの後部座席に下りた。

 「サラ、久しぶり元気だった。あの車を追うわよ。しっかり捕まって。」と、カレンは言いバイクを急発進させた。

 「サラ、大丈夫。ここで問題を起こすと木星との全面戦争になるわよ。」と、カレンは笑いながら言った。

 サラはドレスの長いスカートを切り破り短くして、バイクの後部座席に座り直しながら言った。

 「その時は、その時よ。何とかなるでしょう。ところで、何を追っているのよ。」と、サラが聞いた。

 「私たちの仲間が捕まっているのよ。」とカレンが言った。

 皇帝パッキャオを乗せた黒い車は、カレンたちが追いかけてくるのに気が付き速度を上げた。

 皇帝パッキャオを乗せた黒い車は月の車であり、磁力で車体を浮き上がらせて走る為、車専用道路しか走る事ができないが、カレンたちが乗っているバイクは車輪のあるバイクの為、道路の限定が無く自由に走れるので、わき道を走りながら徐々に黒い車に近づいて行った。

 皇帝パッキャオは後部座席に乗っており、後ろのバイクを見て隣に座っているジンに話しかけた。

 「後ろで追いかけているバイクは、ジンお前が地球であった火星の女か。」

 「そうです。あの女です。後ろにもう一人いますね。誰ですか。」とジンは言った。

 皇帝パッキャオは薄ら笑いを浮かべながら答えた。

 「あいつは、火星の女王サラだ。リカルドを取り返しに着たのか。婆の差し金か、厄介だな。」

 「私の体の中にこいつが居る限り、そうやすやすと手出だしは出来ないと思いますぜ。」と、ジンが笑いながら言った。

 「冬のカレン。奴を侮るな。」と、皇帝パッキャオが言った。

 「パッキャオ様。もうすぐ港のゲートに着きます。あの、ねずみはどうしますか。」と運転手が言った。

 「港近くに居るギャロに連絡しましょう。ここで我々が問題を起こすより、あいつらに任せた方が良いでしょう。パッキャオ様。」とジンが答えた。

 黒い車は木星の宇宙戦艦が停泊している港へ入って来た。

 港の入り口は警備上から橋が掛けられており橋ゲートを通過しない限り港には入れないようになっていた。

 ギャロは遠くからカレンたちの乗るバイクを双眼鏡で眺めており笑いながらマントを脱ぎ捨てた。

 ギャロの機械の体には大きなキャノン砲が装備されとおり、これが彼本来の姿でもあった。

 そして、キャノン砲をカレンたちの乗っているバイクに標準を合わせ発砲した。

 カレントとサラはミサイルに気が付きバイクを止めた。

 キャノン砲は彼女らのバイクを直撃した。

 ギャロは、その様子を見て大笑いしたが、次第に笑い声が小さくなり顔が強張って行った。

 サラは、とっさに日傘を広げキャノン砲を受け流していた。

 「便利ね。その日傘。」とカレンは言った。

 「そうよ。この日傘、便利なのよ。」と、サラはカレンの方を振り返りながら日傘をたたみ、銃のように日傘を構えバイクを降りた。

 サラの体が青白く輝きだし銀色の髪が逆立ち体から電気が発生し日傘に電気を集中させ解き放った。

 高圧電流は、ギャロ目掛け放たれ雷のような稲妻が走りギャロを直撃した。

 機械の体を持つギャロの体は一瞬で黒焦げになった。

 皇帝パッキャオを乗せた黒い車はゲートを潜り橋を渡り始めていた。

 「このままでは、港に入られてしまう。」とカレンは思い、サラを置いてバイクを急発進させた。

 「待って、カレン。あの車の仲間て、誰なの。」とサラが叫んだ。

 「最後のドラゴン族、リカルドよ。」とカレンは答えた。

 バイクは速度を上げてゲートを強引に突破し橋の手摺の上を走り、橋を渡りきった黒い車に追いつき平行して走り大型のクレーンの柱に乗り加速させて行った。

 「リカルドて、メイウェザーの息子の。生きていたんだ。」とサラは驚きカレンが運転しているバイクを見た。

 バイクはクレーンの先端目指し駆け上がり、先端から飛び出し皇帝パッキャオが乗っている黒い車の天井に乗り上げ前に出たが、黒い車は速度を緩めず逆に加速して行きカレンが乗るバイクにぶつかって来た。

 カレンは間一髪バイクから飛び上がり、空中から左腕をライフル銃へと変化し、黒い車の右の後部を撃ち向いた。

 「地球の時と違い、エネルギー満タンだからね。」とカレンは言い、無事地面に着地した。

 黒い車は磁力の有る道路から外れ制御を失い止まった。

 その時、黒い車の後部座席から黒かい物体がカレン目掛けて飛び出して来た。

 カレンは左腕のライフルを盾にして、その黒い物体を避けた。が。次の瞬間カレンの左腕は吹っ飛んだ。

 カレンは、その勢いで飛ばされ地面に叩きつけられた。

 黒い影の正体は皇帝パッキャオであり、パッキャオはカレンの前にちカレンの顔、右目のそばに剣を向けた。

 仮面の隙間と黒いマントの隙間から炎が上がっているのが見えた。

 すると直ぐに黒い車の中からジンが出て来た。

 運転手は気を失っていた。

 ジンは皇帝パッキャオに言った。

 「パッキャオ様、早くブラックジュピター号(木星の宇宙戦艦)にお逃げ下さい。ここは私がこの女を何とかします。直ぐに他の者も着ます。奴が私の中に居る以上、こいつは手出しはできないでしょう。ここで問題を起こすと後々月との交渉が面倒になります。」

 「分かった。ジン、助けの者が着たら深追いせず直ぐに戻って来い。」と、パッキャオは言い、港の方に歩いて行った。

 直ぐに木星の兵士たちが出てきて、カレンは囲まれた。

 サラは橋の向かい側から、その様子を見ていた。

 カレンを助けに行くには橋のゲートを通らなくてはならなく橋の下は深さ50mの谷であった。

 カレンがサラの頭の中に話しかけてきた。

 「サラ、あの全身黒タイツの中にドラゴン族の少年が居るわ。何とか目覚めさせて、歳は、あなたの方が近いから、少年が発情しそうなお色気とかで。」

 「カレン、何言っているの。ドラゴン族の人間ならこれぐらいでは死なないのでわ。」とサラは言い。

 日傘から高圧電気をジン目掛けて放出した。

 雷に似た高圧電気により木星の兵士は次々と倒れて行った。

 カレンは立ち上がった。カレンの銀色の髪の毛は逆立っていた。

 「やっぱり、私の妹だわ。」とカレンは思ったが、次の瞬間、目を疑った。

 ジンには聞いていなかった。

 「私の体は特殊なNBR。ゴムで出来ているのよ。電気は通さないわよ。他の兵士は機械の為、あの女の電気に遣られてしまったけど。」とジンは言った。

 すると、カレンはジンに抱きついてこう言った。

 「これならどう。」

 ジンの体は氷ついて行った。

 いずたくは、暗い闇の中で眠りについていたが何かを感じとり、うっすらと意識が戻ってきていた。

 「暗い。寒い。何だこの寒さは、僕はどうしたんだ。手も足も動かない。何か小さな物を感じる。何だ、これは、小さい本当に小さい物たちが震えている。」と、いずたくは感じとっていた。

 するとその小さな物体がいずたくに話しかけてきた。

 「僕が暖めてあげるよ。僕が、だから力をかして。」「力を貸して。」

 するとジンの体が急に温かくなり煙が出てきた。

 ジンは大声を上げて叫んだ。

 「体が熱い、燃えるようだ。」

 すると、ジンの体の中から炎が発生し表面のゴムが溶け出した。そして、その中からいずたくが姿を現した。

 カレンは、その様子を見て、「覚醒したか、原子を感じとる事が出来るようになったのね。やはり、炎のメイウェザーの息子か。」と、つぶやいた。

 いずたくの服は燃え裸の状態でカレンの方に倒れ込んできたと同時に炎も消えてきた。

 カレンは、至近距離で男の子の裸を見てしまい慌てて自分の上着を脱ぎ、倒れ込むいずたくに上着をかけ抱きかかえるように包み込んだ。

 カレンの右腕の腕時計から着信音が流れた。

 そして、カレンは素早く、いずたくを右腕で抱きかかえ柵を越えて谷に落ちた。

 サラは、その様子を見て驚き谷の下を眺めた。

 すると下には、大型のドローンのような飛行艇が飛んでおりカレンといずたくは、その飛行艇の上に乗った。

 いずたくの意識は戻っていなかった。

 「サラ、後は頼んだわ。」とカレンは笑いながら言い、谷間の隙間に消えて行った。

 「ちょっと、カレン。」と言った時、サラの腕時計の携帯電話機能から着信音が鳴った。

 サラが携帯電話に出た時、トーイの怒り声が聞こえた。

 「サラ様、今、何処に居るのですか。早く帰ってきて下さい。あの後、タンク大統領は酔い。私は太ももは触られるは、肩は触れられるわで、大変だったのですからね。あのエロ親父。」

 サラは、その声を聞いて「あっ。トーイの事、忘れていた。」と思った。

 しばらくすると、月の警察が遣って来たのでサラは逃げるようにその場を去った。

 カレンといずたくを乗せた飛行艇は貨物の間を縫うように飛んで、大きな貨物の中に入り消えて行った。

 すると、直ぐにその貨物から中古で小型の宇宙船が出てきて緊急用脱出口から逃げるように出て行った。


火星物語=第4章 その1 サトミ婆さん

 いずたくは、深い眠りについており夢を見ていた。

 白く何も無い空間の中、いずたくは仰向けになり寝ていた。

 体が冷たく上半身を起こし起き上がり辺りを見渡した。

 いずたくは雪で真っ白の高原の上に居た。

 そこは雪以外何も無かった。

 いずたくは生まれて初めて雪を見たが何故か懐かしく、遠い昔の記憶がよみがえる様であった。

 丘の上に木が一本生えているのに気が付き、雪を掻き分けいずたくは近づいて行った。

 木の下に一人の女性は座っているのに気が付き、その女性の元に近づいて行った。

 その女性は、いずたくに気が付き微笑み、「いずたく。」と、口ずさんだ。

 しかし、木の中から黒く上半身裸の女性が出てきて、いずたくの方をあざ笑うかのように見ていた。

 木の下に座っている女性が光り輝くと木の中から出てきた影のように黒い女性は木に巻きついて、いずたくの方をじっと見て何かつぶやいていた。

 小声であり聞き取りづらかったが、口の動きから想像すると「私の新しい体。」と、言っているようであった。

 すると、木に巻き付いていた黒い女性の右腕が木の中から出てきて長く伸び、いずたくを捕まえようと追いかけてきた。

 いずたくは必死で逃げたが途中で転び、黒い影の手は大きくなり、いずたくに迫り握りつぶされそうになた時、いずたくは目が覚めた。

 いずたくは辺りを見渡した。

 小さな部屋のベットの上で寝かされており、ここが何処なのか分からなかった。

 「何だ。あの黒く恐ろしい女性は。」と、いずたくは思いベットから起き上がろうとした時、自分が裸だと気が付き慌てた。

 すると、部屋の扉が開き大きな厳ついスキンヘッドの男が入って来た。

 男は筋肉質で2メートル近くある大男であり恐ろしい顔をして、いずたくに近づいて来たので、いずたくは恐ろしさで顔が青ざめ声が出なかった。

 「お、目覚めたか。」と、女性の声がして大男の後ろからカレンが現れた。

 いずたくは、まったく状況を把握できておらず。

 「ここは、何処ですか。」と聞いた。

 「宇宙船の中よ。」と、カレンは答えがいずたくが不安そうな顔をしているので話始めた。

 「私は、カレン。カレン ユウキ。そして、この大男が、タイガ ハセガワ。私の仲間よ。今回は近くのコロニーで宇宙船のメンテをしてたから来てもらったのよ。あなたは、いずたく君、変わったな名前ね。地球の君の友達が、そう言っていたような気がしたけど。」

 「高野出拓。この名前は未開の地を開拓すると言う意味で父がつけました。」と、出拓は答えた。

 「父て、地球の。」とカレンは言った。

 「地球のて。どう言う意味ですか、確かに家族で僕だけ銀色の髪の毛でしたが。それに、これから何処に行くのですか。地球には戻れないのですか。」と、出拓は言った。

 「あなたは地球には帰れないわ。火星に行くのよ。地球は、あなたの本当の生まれ故郷ではないわ。火星があなたの本当の生まれ故郷よ。私と同じ銀色の髪の毛と緑色の目が証拠よ。」と、カレンは答えた。

 「じゃあ、火星に行って何をするのですか。」と出拓は大声を上げ興奮気味に言った。

 「ま、まず。服を着ようか出拓君。」カレンは、少し赤くなって答えた。

 出拓は興奮のあまり布団を飛ばしており、自分の姿に気が付き股間を両手で隠して小さな声で言った。

 「済みません。服を下さい。」

 一先ず、カレンは部屋から出てタイガが服を持ってきてくれた。

 少し大きいが今は、このサイズしかないらしい。

 タイガが着替え途中の出拓に話掛けてきた。

 「出拓の髪の毛、銀色、目は緑。カレンと同じ髪の毛、同じ色の目。同じ火星の人間。カレン、火星の王女だった。けど、分け合って我々と旅している。出拓、地球に友達、家族いる悲しい、俺、少し分かる。けど、火星は本当の生まれ故郷。出拓、知りたくないか。知って旅、終われば地球に戻ればいい。時間まだいっぱいある。」

 出拓は、少し考えていた。

 「タイガ、タイガの髪は銀色。」と、出拓はタイガに聞いてきた。

 「俺、はげ。髪の毛無い。昔は黒色。銀色は火星の王族だけ、ドラゴン族のみ。出拓、お前。偉い人。」と、タイガが答えた時、カレンが部屋に入って来た。

 「出拓。服着替えた。これから、第18コロニーに行くわ。そこで出拓の服と私の左腕を新しくするわ。」と、カレンは言い壊れた左腕を振り回して出拓に見せた。

 「木星のパッキャオたちも私たちを追っていると思うの。今度は地球や月じゃあないから、かなり手荒なまねで出拓を奪いに来るわ。」とカレンはタイガに言った。

 出拓は、その話を

聞いて「何故、僕を狙っているんだ。」とカレンに聞いた。

 「私も良く分からないのよ。地球に出拓が居る事を告げられて助けに行ったまで、ただ、あなたと私は同じ火星の人間で特殊な力が備わっている。まだ出拓はその力を解放していないけど、パッキャオはその力を欲しがっているのかも知れないわ。」とカレンが答えた。

 出拓たちを乗せた宇宙船は第18コロニーへと遣って来た。

 出拓はタイガに貰った栄養ドリンクを飲みながら宇宙船の操縦席の窓から見えてくるコロニーを眺めているとカレンが話しかけてきた。

 「あれが、第18コロニーよ。旧式のドーナツ型コロニーよ。あの輪の中に人々が生活をしているわ。古いコロニーなのでお年寄りばかり住んでいるわ。最近は多くのコロニーで過疎化が進んでいるのよ。これも大きな問題となっているわ。このコロニーなら木星や火星の宇宙船もあまり来ないし忘れ去られたコロニーなので安全でもあるわ。」

 出拓たちの乗せた宇宙船も旧式の小型宇宙船で室内は狭くところどころに応急処置した後が目立っていた。

 操縦をしていたタイガが出拓に話しかけてきた。

 「ここ、年寄り多い。けど、昔ながらの職人も多い、よい場所。この船や武器,修理依頼する。皆、直ぐに新しいものを購入。古くても修理すれば、まだ使える物が多い。」

 宇宙船は、第18コロニーに近づいてきた。

 コロニーのハッチが開き、赤い光の進入灯路が現れ、コウたちを乗せた宇宙船は、その指示に従ってコロニー内部へと入って行った。

 管制塔には人影も見えた。

 遠くて良く見えないが、お年寄りが手を振ってこちらを見ているようであった。

 「あれが、このコロニーの人たちよ。コロニーは重力が小さい為、皆、細く背が高い人が多いわ。お年寄りたちが多く彼らはもう地球などの重力には内臓系が耐えられないので、ずっとここに住んでいるしかなのよ。でも皆明るくて、私たちは良くここで宇宙船のメンテを行うのよ。」と、カレンは言い、管制塔に手を振り返した。

 出拓とカレンは、髪の毛の色が目立たないように帽子をかぶって、コロニーの中の居住区へと向かった。

 タイガは宇宙船のメンテナンスを馴染みの業者に依頼する為、船に残った。

 カレンと出拓は居住区に降りるエレベータに乗り居住区へと降りていった。

 エレベータが居住区に着き扉が開いた。

 出拓は外に出て辺りの様子を伺うように見渡して驚いた。

 街は寂れており、所々空き家が目立っていた。

 「活気が無い。人の気配が無い。」と、出拓は思った。

 出拓はカレンの後を追いかけ寂れた商店街に入り、更に奥の小さな裏道へと入って行った。

 突き当りに古びた町工場があり、カレンは、その工場の裏へ回り裏口から中に入って行った。

 工場の中は暗く人の気配がしなかった。

 「サトミ婆さん、居ますか。」と、カレンは大声で呼んでみた。

 するとその声に反応したように暗い工場の中で1点だけ裸電球の明かりが灯り、その場所に近づくと一人の小さな老婆が椅子に座っていた。

 明かりは、その老婆の頭に取り付けられているカンテラであった。

 その老婆はこちらを振り向いて言った。

 「誰だね。私を呼ぶのは。」

 「サトミ婆さん。私です、カレンです。」とカレンは言いながらさとみ婆さんの元に近づいて行った。

 「今日は何のようだね。カレン。」と、サトミ婆さんが言った。

 「これ、これ。」と、カレンは自分の壊れた左腕を振って見せた。

 サトミ婆さんは虫眼鏡のような丸いレンズの厚い眼鏡でカレンの左腕を見た。

 「また、派手にやった物だね。かなり凶暴なモンスターだったのかい。近くに来て見せなさい。」と、サトミばあさんは言ったのでカレンは近づき左腕をサトミ婆さんに差し出した。

 「これは、綺麗に切られているね。かなり腕の立つ奴だね。新しい腕を造らなければならないね。カレンのは特注だから大変なんだよ。そう言えば、孫娘見なかったかい。」と、サトミ婆さんが言った。

 「孫、娘。サトミ婆さんに孫娘居たの。」と、カレンは不思議そうに聞いてきた。

 すると、カレンと出拓の後ろの方から突然、人の気配がして二人はびっくりして振り返った。そこには190cm近い長身の細身で色白の長く薄い髪の毛の不健康そうな女性が立っていた。

 カレンと出拓は驚き、その場で尻餅をついた。

 「その子が私の娘、小百合だよ。ここのコロニーの子で孤児だったので私が引き取ったのさ。小百合、こいつらは、お客さんだよ。」と、サトミ婆さんは言った。

 「そうですか、いらっしゃいませ。」と小百合は薄ら笑いを浮かべ言った。

 「いつから居たのですか。」と、出拓は小百合に聞いてきた。

 「ずっと居ましたわよ。あなた方が工場に入った時から、ずっと後ろに付いてきていました。この工場、暗いから工場を明るくしますね。」と、小百合は言い。工場の電気を付けにすっと姿を消して行った。カレンは、その様子を見て言った。

 「幽霊みたいだね。私でも彼女の気配を感じ事が出来なかったわ。」

 「あの子は良い子だよ。この忘れられたコロニーに生まれ、両親はこのコロニー特有の重力病に掛かり亡くなったのさ。可哀想な子だよ。」とサトミ婆さんが言うと工場の電気が付き薄明るくなってきた。

 出拓はサトミ婆さんの姿を見て驚いた。

 彼女は下半身が無い状態で椅子に座っており、良く見ると右腕も機械の腕であった。

 小百合がラジコンカーのような物を手に持って遣って来た。

 そして、サトミ婆さんをそのラジコンカーの上に乗せた。

 サトミ婆さんは機械の右腕から中指を立ててた。

 その中指は30cm程度伸びラジコンカーの側面に接続した。すると、サトミ婆さんを乗せたラジコンカーは自由に動き出した。

 サトミ婆さんは、出拓を指差して小百合に言った。

 「小百合、その子を街に案内してやってから、だっちゃんのホテルへ連れて行ってやってくれ。カレンは、こちらに来て、その腕を直そう。」とサトミ婆さんは言い、カレンを連れて工場の置の方に消えて行った。

 カレンの声が遠くの方から聞こえてきた。

 「後でホテルで合いましょう。」

 出拓と小百合は街の中心部へと遣って来たが、人はまばらで老人が多く街に活気が無かった。

 「服を買いたいんだ。」と出拓が言った。

 小百合は繁華街の裏にある小さな店を案内した。

 そこは、手頃な値段の服が置いてあったが、どれも細く長身サイズであった。

 「出拓さんは、火星人ですか。」と、小百合は聞いてきた。

 出拓は、少し困った顔をして答えた。

 「地球で育った。火星人かな良く分からないんだよ。やっぱり髪の毛が銀色だから火星人と思われるのかな。」と出拓は気難しそうに言った。

 「地球には、出拓さん以外に銀色の髪の毛の人いたんですか。」と小百合は聞いてきた。

 「いや、居なかったよ。姉ちゃんも父さん、母さんも黒かった。僕だけが銀色で目が緑色だった。」と出拓は言い、かなり大きい目の服を見て選んでいた。

 「出拓さん、ごめんなさい。このコロニーに住む者は地球と比べ重力が軽く、食事も冷凍食品が多いので、体系が細長い人間に進化してしまったの。それでこの子供用服なら合いませんか。」と、小百合は真面目に答えた。

 出拓は、とりあえず自分に体に合いそうな服を選んだ。

 会計は小百合が払ってくれた。

 「ありがとう小百合さん。」と出拓は会計をしてもらった小百合に言った。

 「いいのよ。カレンさんに頼まれていたし、後でカレンさんに請求するつもりだったのだけど、久しぶりの友達が出来たみたいで私がプレゼントします。」と小百合は言い、二人は店を出た。

 「久しぶりって、友達居ないの。」と出拓は小百合に聞いてきた。

 「元々、このコロニーは過疎化が進んでいて、何人かの友達は居たんだけど、皆、重力病に掛かり病院で寝たきりになったり亡くなったわ。何とかしようと大人たちが太陽系会議に赴いたが、相手に去れず、すっかり私の友達はお年寄りばかりよ。」と、悲しそうに小百合は言いた。が。直ぐに思い出したように嬉しそうに話し始めた。

 「そうだ。ここからちょっと離れた場所に有名な占い師が居るのよ。出拓さんたちの旅の安全を祈願して占ってもらいましょう。」と、小百合は嬉しそうに言った。

 出拓は小百合の言われるまま、占い師の居る場所へと向かった。


 その頃、カレンはサトミ婆さんに新しい左腕を設計してもらっていた。

 「カレン、貴女なら無茶をして腕を壊すと思って新しい腕を準備して良かったわ。で、誰にやられた。」と、サトミ婆さんは新しい腕をつけながら興味深々に聞いてきた。

 「木星の皇帝パッキャオよ。彼もカズエ婆さんの言った通り出拓を狙っていたわ。」とカレンは言った。

 「そうかい、あの子がメイウェザーの息子かい。ところで私の姉さんの居場所は分かったかい。」と、サトミ婆さんは聞いてきた。

 「ミチヨ様は、まだ見つかっていませんが、大体の場所は検討が付いております。火星に戻ったら、直ぐにその場所に行くつもりです。」と、カレンは言った。

 「カレンは王女に戻る気は無いのかい。」と、サトミ婆さんはカレンの左腕を微調整しながら言った。

 「無いわよ。あれは、妹のサラに任せたわ。私は自由に生きるわよ。」とカレンは答えた。

 「カレン、新しい腕を仮付けしたわ。ちょっと動かしてみい。」とサトミ婆さんが言たのでカレンは動かしてみた。

 「調子がいいね、この腕。」とカレンは言い腕を動かし銃へと変形させ照準を合わせるまねをした。

 「カレン、今度は手を伸ばすようなしぐさをしてみなさい。」

 「こう。」とカレンは手を伸ばして見せた。

 「もっと、強くの伸ばしてみて。」と、サトミ婆さんは言った。

 カレンは、もっと強く伸ばしてみると腕が剣へと変形した。

 「どうだい。木星産合金とチタンを合わせた剣だよ。鋭く切れ味抜群だ。今度は力を緩め元に戻し、丸い玉を沢山の指で掴むイメージをしなさい。」とサトミ婆さんは言いのでカレンは言われるままにイメージし左腕を動かした。

 すると、各指が二つに割れて指が10本になった。

 「これ、何か必要なの。」とカレンは10本になった指を眺めながら聞いた。

 「あや取りとかマッサージとか何かの役には立つだろう。」とサトミ婆さんは言って左腕をカレンから外した。

 「微調整をして取り付けるぞ。これは特注だから結構、高いよ。」とサトミ婆さんは真面目な顔をして言った。

 「分かりました。大丈夫ですよ、払いますよ。」とカレンは言った。

 「毎度あり。」とサトミ婆さんは言い領収書をカレンに出した。

 「パッキャオとは仲良く出来ないのかね。昔のあいつはあんな男で無かったのに。木星は戦争でも始めるつもりなのかい。」とサトミ婆さんはカレンに聞いてきた。

 「分からないわ。でも、地球や月で会ったのだけど、パッキャオは昔とは別人だったわ。それにパッキャオの軍隊は機械でもクローンでもない、何か特殊な生き物よ。怖さを感じるわ。」とカレンは悲しそうに言った。

 「その事に責任を感じて女王を降りたのかね。あれはしょうがないよ。それに、もともと木星はガスで覆われた太陽系でも巨大な惑星で有ったが人が住めるような惑星ではなかった。資源目的で調査団が行くぐらいで、それが木星の衛星に基地を造り人が移住すると巨大都市国家へと成長した。ミチヨ様なら何か知っているかも知れないね。」とサトミ婆さんは言った。


火星物語=第4章 その2 カズエ婆さん

 出拓と小百合は町外れにある小山へと遣って来た。

 そこはコロニーの中とは思えない程、木や草が茂っており出拓たちは大きな鳥居をくぐり抜けて長い石段の階段を登っていた。

 コロニーの中は重力が軽いはずだが、空気が薄いせいなのか出拓は非常に疲れていた。

 「いつもこの階段の登ると疲れるんですよね。」と小百合は汗をかきながら階段を登って行った。

 二人ともようやく登り終わり、最上段の階段に腰を下ろし暫く休んでいた。

 出拓は顔を上げて後ろを振り返った。

 後ろには大きな神社があり、二人が立ち上がり近づくと自動で扉が開いたので出拓は驚いた。

 「さあ、行きましょう。」と小百合が平常心で言い、二人は中へと入って行った。

 大きな講堂の奥に人影があり、出拓は恐る恐る近づいて行くと小さなお婆さんが正座をし座っていた。

 顔は暗くて見えなかった。

 「ここは、御婆さんの多い場所だな。」と出拓は思った。

 「小百合、今日は何の用だい。」と、小さなお婆さんは甲高い声で言った。

 出拓たちは、その老婆の下に近づいて行くとロウソクの明かりで薄っすらと小さなお婆さん顔が見え始めて来た。

 出拓は、その老婆の顔を見て驚いた。

 その老婆の顔はサトミ婆さんにそっくりであった。

 出拓は驚きの早口で小百合の方を向い話した。

 「この婆さん、サトミ婆さんの姉妹か何か。」と、出拓は小さな声でしゃべった。

 「一応、姉妹みたいな物さ。」と、出拓の声が聞こえたらしく、小さな占い師の老婆が答えた。

 「地獄耳だな。」と出拓はつぶやいた。が。その声も聞こえたらしく、占い老婆は、「何か言ったかい。」と言った。

 そして、その占い老婆は静かに話し始めた。

 「私の名前はカズエ。11番目の子さ。サトミは5番目の子で、私たちはミチヨ様のクローンなのさ。火星で大きな戦争があった頃、私たちはこのコロニーに逃げてきたのさ。」と占い老婆のカズエは答えた。

 「火星で大きな戦争。」と、出拓はつぶやき、それがどんな戦争だったのか興味を抱いていた。

 「小百合、よく、このドラゴン族の子を連れて来てくれたね。」とカズエ婆さんは言った。

 「そのドラゴン族の子て、僕の事かい。」と出拓は吐き棄てるように言った。

 「どれ、占ってやろうかい。」と、カズエ婆さんは言った。

 「人の話、聞いてました。ドラゴン族て何。」と、出拓は言った。

 「出拓さんの旅が無事終わるように占ってもらいたいのです。」と、小百合は心配そうな顔をして答えた。

 「僕の話、無視かい。」と、出拓は思った。

 「右手を出しなさい。出拓とやら。」と、カズエ婆さんは出拓に命じた。

 カズエ婆さんは、出拓の右手を見ながら難しそうな顔をして、暫く考え込んでから答えた。

 「出拓とか言ったかね。これから火星に行くと思うが、多くの人に出会い危険な旅になるだろう。やがてミチヨ様にお会いになるだろう。そして、遠い昔に会った事のある人物が、君をある者に会われるだろう。そして、旅は終わるであろう。」とカズエ婆さんは占い、小物入れからお守りを出した。

 「昔、地球がまだ多くの大陸であった時代に日本と言う国で売られていた。交通安全、受験合格祈願、安産のお守りだ。何かの役には立つだろう、今なら安くしておくよ。」と言いカズエ婆さんは、そのお守りを出拓に見せた。

 出拓と小百合は、呆然とした。

 「それと女難の相が出ている。くれぐれも女性には気をつけるんだな。」と、笑いながらカズエ婆さんは答えた。

 すると、出拓の背後に大きな体の人影が見え、出拓は慌てて振り返った。

 そこには、大きな体の男が立っており小百合は驚いた。

 タイガであった。

 「出拓、ここに居たか。カズエさん、占い。良く当たる。火星までの無事。占ってもらう。」とタイガは、はげた頭をかきながら大きな体を小さくして済まなそうな声で答えた。

 カズエ婆さんはタイガの方を見て厳しい顔で答えた。

 「大きな黒い影が、このコロニーに遣って来ている。少し距離を置いて赤い影が黒い影を追うように来ている。カレンを、ここに呼びなさい。この寺に身を潜め逃げる機会を伺いなさい。」と、カズエ婆さんはタイガに命令した。

 

 黒い影、それは、大航海時代の大型帆船を思わせるようなデザインの木星の皇帝パッキャオ専用の黒い宇宙戦艦であった。

 木星の特殊合金で出来た宇宙戦艦は自己修復機能付いている無敵の宇宙戦艦であった。

 その船が第18コロニーへと遣って来た。

 黒い木星の宇宙戦艦、ブラックジュピター号は速度を落とし、ゆっくりと第18コロニーに進み様子を伺っているようであった。

 そして一機の小型宇宙艇を出し、第18コロニーの港に許可無く強引に入って来た。

 カレンたちを乗せた宇宙船は点検を終え港の端の方に隠すように置いてあり見えないようにカバーをかけていた。

 木星の黒く不気味な小型宇宙艇からは全身黒タイツに防弾チョッキを着て黒いマントに水中を潜るダイバーのようなお面をかぶり、フートを深くかぶった5人の兵士が出てきた。

 彼らの後を追うように黒いゴム製の体で出来た体長1.5m程の犬のような形で尻尾は長くトカゲのようでもある奇妙な動物が15体出てきた。

 その黒い動物は、走って街の方に行くのもあれば、蛇のようになり通気口などの隙間へと入り込んで行く奴もいた。

 カレンとサトミ婆さんはタイガに連れられてカズエ婆さんの占い神社へと遣って来た。

 「忙しいね。まったく、こんな場所でカレンの新しい左腕をつけないといけないとわ。」とサトミ婆さんは文句を言いながらカレンに新しい腕をつけ始めていった。

 その後ろから気配を消した小百合が話し始め、皆驚いた。

 「神社の階段下の鳥居の周りに黒い大きなトカゲのような生き物が居ます。」

 「生き物じゃあないよ。木星の特殊素材の合金の化け物だよ。カレンの左腕にも使っているが原子が生きているかのように動き色んな形に姿を変える事が出来るんだよ。火星の技術に似たような知識だよ。何故、パッキャオが、この技術を持っているか謎だけどね。」と、サトミ婆さんは言った。

 「パッキャオが火星の技術者を何人か木星に連れて行ったのでわ。それなら、なんとなく木星があんな大帝国になったのも察しが付くわ。」と、カレンが言った。

 「そうかもね、カレン。近い時期に太陽系で戦争が起きるかも知れないね。ほれ、カレンできたよ。100万キャッシュ頂こうか。一括払いでね。」と、サトミ婆さんは微笑みながら言った。

 「分かったわよ。そういう所は抜け目ないのね。」と、カレンは言って腕時計からB5サイズの光のキーボードを出し、右手でタイプを打ち込みメールを送った。

 サトミ婆さんのお腹の機械部分が光り「毎度あり。」と、嬉しそうに言った。

 「カレン、急ぎなさい。トカゲ犬が臭いを嗅ぎながら、こちらに遣ってくるぞ。私の座っている座布団の下に抜け道の扉があるから、そこから、お逃げなさい。」と、カズエ婆さんは言い。水晶もどきの占い玉で外の様子を見ながら座っていた座布団を持ち、立ち上がり指で下を指し扉の場所を指示した。

 神社の周りには黒いトカゲ犬と黒いマントの兵士たちが取り囲んだ。

 黒マントの兵士の一人が大きく腕を振り指示するとトカゲ犬は一斉に神社の中へと飛び込んで行った。

 後を追うように木星の黒マント兵士たちも神社に入り込んだ。

 だが、中には人っ子一人居なかった。

 出拓たちは、地下通路を走っていた。

 「このまま真っ直ぐ行くと湖のある滝の後ろの出口に出られます。」と小百合がカズエ婆さんをおんぶしながら駆け足で言った。

 タイガは、サトミ婆さんをおんぶしていた。

 6人は無事、滝の出口に到達した。

 「ここから、湖の周りの道を左回りに進むと港に上がるエレベータがあります。そこから宇宙船のある港に出られます。ご無事で、出拓さん、また遊びに来てください。」と小百合は笑顔で言った。

 出拓たち3人は、急いでエレベータに乗り、無事に宇宙船に辿り着いた。

 タイガの知人の整備氏は見つからないように宇宙船にカバーを掛け、隅の方のスクラップ置き場に隠していた。

 3人を乗せた宇宙船は、無事に第18コロニーを出る事ができたが、待ち伏せをしていたかのようにブラックジュピター号が宇宙船の前に現れ、航路を塞ぎ宇宙船はブラックジュピター号に吸い込まれるように入って行ってしまった。


火星物語=第5章 クイーンとジャック

 出拓たちは、宇宙船の中で息を殺して周りの様子を伺っていた。

 出拓たちを乗せた宇宙船は第18コロニーを全速力で出た為、目の前に突然、木星の宇宙戦艦ブラックジュピター号が現れ、ブレーキを掛け旋回しようとしたが間に合わず、ブラックジュピター号に吸い寄せられるように中に入ってしまった。

 「静かね。」とカレンは宇宙船の中に身を潜めながら言った。

 「壁、何か、動いてる。」とタイガが言った。

 カレンと出拓は、タイガが指差した方の壁を見た。

 壁に張り付いている黒い影が無数動き出し、宇宙船を取り囲んで行った。

 その様子を見て、カレンがつぶやいた。

 「出拓は、この中に居て私とタイガで外に出て応戦してくるわ。」

 タイガは両腕に銃とライフルを持ち、無数の銃弾を体中に巻いてカレンの後を追った。

 カレンとタイガは宇宙船の外に出た。

 宇宙船を取り囲んでいた無数の黒い影はトカゲ犬へとなり一斉に飛び掛かって来た。

 カレンも左腕をライフルにし、右腕にはマシンガンを持ち宇宙船に近づいてくるトカゲ犬を撃った。

 タイガも襲い掛かってくるトカゲ犬を銃で撃ち続けた。

 その頃、サラを乗せた火星の宇宙戦艦レッドマーズ号も第18コロニーに遣って来た。

 レッドマーズ号は、曲線の美しく船体と赤く光り輝いている宇宙戦艦であった。

 コックピットでは、操縦員の一人がサラに報告をした。

 「サラ様。カレン様を乗せた宇宙船が木星の宇宙戦艦ブラックジュピター号に捕らわれたようです。どうしましょうか。ここで木星と争うのは得策だとは思いませんが。後々大きな問題になる可能性があります。」

 「トーイ、レットマーズ号の指揮をお願い。私とマゼラ大尉とで宇宙艇タイタンで出るわ。マゼラ大尉に小隊を5名連れて行くように連絡して下さい。」と、サラは言いコックピットを後にした。

 サラとマゼラ大尉、兵士5名は宇宙艇タイタンに各々乗り込み、木星の宇宙戦艦ブラックジュピター号に急接近して行った。

 宇宙艇タイタンは、丸い円形コックピットにドーナツ状の翼を持った機体で土星のような形をしている。

 このドーナツ状の翼にはエンジンとレーザー砲が内臓されており、宇宙空間では摩擦抵抗が無い為、このドーナツ翼がコックピットの周りを上下右左、360°にグルグルと動き回るため機体の自由な動きが可能となった。

 サラたちは宇宙艇タイタンでブラックジュピター号に近づき警告を鳴らした。

 「木星の戦艦ブラックジュピター号に告げる。火星の人間があなた方の母船の中に捕らわれている。直ちに開放しなさい。」と、サラはブラックジュピター号に発進した。

 すると、ブラックジュピター号は主砲を発射させ攻撃してきた。

 「やはり、そう来たか。そのつもりなら、私たちも容赦なく攻撃出来るわ。」と、サラは言い攻撃命令を出した。

 ブラックジュピター号は自己修復機能があり攻撃しても直ぐに修復してしまう。

 「これでは拉致がありません。サラ様、クイーンとジャックを出しましょう。」と、マゼラ大尉は攻撃しながら言った。

 「そうね。これでは、カレンたちを助けられないわね。クイーンとジャックを出しましょう。」と、サラは言い、トーイにクイーンとジャックの発射させるよう命令を出した。

 クイーンとジャックは人型兵器である。クイーンは女形で主にサラ専用機であり、ジャックは男形で一般兵が操縦する人型兵器である。

 足が無く下半身は大きなスカートのような形をしている。

 宇宙艇タイタンの中心部にある丸い円形のコックピット部は胸の部分に収納され、ドーナツ状の翼は背中部分に取り付けられる事で自由な動きが可能となり、両腕には大型のライフル銃などを装備する事で攻撃力を上げる事ができる。

 サラたちを乗せた宇宙艇タイタンは一度、母船レッドマーズ号まで引き返しクイーンとジャックに合体した後、再びブラックジュピター号を目指した。

 ブラックジュピター号から沢山の物体が放出された。 

 その物体は奇妙な生き物のような形をしており、丸く黒い甲羅の様な物の中に2つの青く光る目のようなものが見えた。

 左右には大きく鋭い爪の腕が2本、その爪の間からは銃口があり赤く光っていた。

 そして、無数の触覚が隙間から出ており、その触覚は起用にジェットエンジンの向きを操作し動いていた。

 この奇妙な兵器は、クイーンとジャックに近づき攻撃を開始しした。

 1機のジャックが攻撃を受け撃退された。が、幸いコックピットは無傷で直ぐに本体と切り離され、ドーナツ状の翼と合体して、単独でレッドマーズ号に戻って行った。

 「このアンモナイトもどきが。」と、マゼラ大尉が吠えた。

 「マゼラ大尉、体制を整えて一気に突っ込むわよ。」とサラは言い、サラの機体クイーンを中心に先頭はマゼラ大尉、そして、残る4機でクイーン機を囲むようにしブラックジュピター号目指し加速して行った。

 一方、カレンとタイガは宇宙船を守っていたがトカゲ犬の攻撃に防戦一方で徐々に押されて行った。

 「倒しても、倒しても次から次へと現れる。いったい何体居るのよ。この犬わ。」と、カレンは銃を撃ちながら言った。

 「兵隊、出てきた。」と、タイガが銃を撃ちながら言いた。

 全身タイツで防弾チョッキを身にまとい鬼の面を被った木星の兵士たちが出てきた。

 「変態おじさんの登場ね。」と、カレンが言うとカレンたちを乗せていた宇宙船に装備されている機関銃が木星の兵士たちを打ち出した。

 「出拓、なのね。」とカレンは驚いて言った。

 出拓も宇宙船の中で隠れているのは辛く使い慣れていない機関銃で応戦した。

 その頃、サラたちを乗せた機体、クイーンとジャックはアンモナイトもどきの攻撃を潜り抜けながらブラックジュピター号に近づいた。

 その時、サラの機体クイーンがマゼラ大尉の前に出た。

 マゼラ大尉を乗せたジャックは向きを換え、背を向き後方の敵の攻撃に備えた。

 他の4機体は2体を守るように左右に2体別れて防戦した。

 そして、サラの乗るクイーン機は大きな銃口をブラックジュピター号に向けた。

 カレンは、サラの問いかけに気が付いた。

 「タイガ、急いで宇宙船の中に入るわよ。サラが大きいのを一発打ち込むみたい。」とカレンが言った、その時タイガが大きな声で叫んだ。

 「皇帝、パッキャオ。」

 カレンは木星兵士の奥に居る、皇帝パッキャオの存在に気が付いた。

 「タイガ、早く宇宙船に逃げなさい。私が食い止めるわ。」と、カレンは言い皇帝パッキャオ目掛けて飛び跳ねた。

 カレンの左腕は剣になり、うなり声を上げ皇帝パッキャオに剣を降った。

 「ワォー。」

 皇帝パッキャオとカレンの激しい戦闘が始まった。

 カレンは左腕の剣で皇帝パッキャオに襲い掛かり、皇帝パッキャオもすぐさま剣を出して対応したので、カレンはすぐさま右腕の銃で至近距離から撃った。

 パッキャオは人間技とは思えないスピードで銃弾を避け、低姿勢から飛び跳ねるようにカレンに向かって剣を振りかざした。

 木星の特殊合金で出来ている剣同士が、ぶつかり合うと物凄い火花が発生した。

 カレンは、後ろに飛び跳ね左腕を銃にして打ちながら宇宙船の方に移動した。

 パッキャオは銃弾を剣ではじき返しカレンに詰め寄って行った。

 タイガは宇宙船の出入口に立ちカレンの帰りを待ちながら銃を撃ち宇宙船をトカゲ犬と木星の兵士から守っていた。

 「もう、弾が切れてしまう。数が多すぎる。」と、出拓は不安そうになりながら機関銃を撃っていた。

 一方、外ではサラが照準を合わせていた。

 「カレンの気配を感じる部分が、あそこだから。少しずれた部分を打てば穴が開き脱出できるはず。」と、サラが照準を合わせるとカレンの声が聞こえてきた。

 「サラ、私の居る場所を打ちなさい。ここに皇帝パッキャオが居る。私なら大丈夫、避けて見せるわ。私を信じて打ちなさい。サラ。」

 サラは、カレンの言われた通りカレンの気を感じた場所に狙いをつけ大型のライフル銃を発砲した。

 カレンはパッキャオに攻撃しながら後ろ側に移動し宇宙船に近づいて行った。

 そして、サラが攻撃したのを感じ取って、体を回転させ前向きになり一気に宇宙船目指して走り去った。

 パッキャオが追って来た時、目の前にレーザー光線の閃光が走った。

 カレンは間一髪避け、皇帝パッキャオは直撃を受けたが、燃え尽きる瞬間女性のような体系に変わった。

 カレンは、トカゲ犬を1匹捕まえ一緒に宇宙船に乗せ、すばやく、大きく穴の開いた部分から脱出した。

 すぐさま、サラを乗せたクイーンとジャックが助けに遣って来た。

 ブラックジュピター号は、自己修復機能により修復して行ったが、木星の宇宙兵器、アンモナイトもどきは退却して行った。

 カレンたちを乗せた火星の宇宙戦艦レッドマーズ号は、すぐさま第18コロニーを後にし火星へと向かって行った。

 ブラックジュピター号は追ってこなかった。


火星物語=第6章 マリ

 出拓たち3人を救出した火星の宇宙戦艦レッドマーズ号は火星へと無事帰還できた。

 出拓はレッドマーズ号の客室におり,窓から少しずつ近づいてくる火星の様子を眺めていた。

 「これが、火星か。」と出拓は火星を見ながら思った。

 地球の青さとは違い、茶色く大陸が多く目立つ惑星であった。

 そして、火星の衛星上を回っている大きな鏡のタイルが無数に張りめぐらされたソーラーパネルが3基が見えた。

 「あれがソーラーパネルか。なんて大きさだ。これで火星の表面温度を上げ氷を溶しているのか。」と、出拓は思い身を乗り出して見ていた。

 レッドマーズ号は一基のソーラーパネルを横切って行った。

 その時、出拓の耳元に男のささやき声が聞こえた。

 「我が息子よ。」

 出拓は、その声が気になり辺りを見まわしていた。

 タイガが物音立てず出拓に近づいておりタイガの姿を見た出拓は驚き飛び跳ねた。

 タイガは済まなそうな顔をして出拓にカードを手渡した。

 「ごめん。脅かして、これ、火星、身分証明書。出拓、特別。王家の臨時証明書。出拓、本当は火星人。」

 「大丈夫ですタイガ、ごめん。」と出拓は言いタイガから渡されたカードを見た。

 カードには青い竜と赤い竜の火星の紋章が刻まれており見た事の無い文字が書いてあった。

 一方、カレンはサラと二人きりでサラの部屋で話し合いをしていた。

 「サラ、今回はありがとう。助かったわ。あのトカゲ犬、貴女にあげるわペットにでもして頂戴。」と、カレンは言った。

 「カレン、冗談はやめてよ。あんな、かわいくない動物、要らないわよ。どんな構造をしているかわ調査しますけど。ところで、木星の皇帝パッキャオは、あの攻撃で死んだと思う。」と、サラは半信半疑に聞いてきた。

 「だぶん死んでいないわ。月で会ったパッキャオは体中から炎が溢れ威圧感が半端で無くあったわ。でも、今回、ブラックジュピター号でで出会った彼は、そのどれも感じなかったわ。あれは影武者よ。だから私が逃げれる事が出来たのよ。」と、カレンは言った。

 「カレン、これからどうするの城には戻らないの。」と、サラは悲しげな顔をして言った。

 「サラ、城には戻らないわ。まだ、やらなくてはならない事が沢山あるし、レットマーズ号が宇宙ステーションに着いたらお別れね。」とカレンは言った。

 カレン、出拓、タイガの3人はレットマーズ号の乗組員たちと別れ、自分たちの宇宙船に乗り込みレッドマーズ号から飛び出して行った。

 レッドマーズ号は無事、火星の衛星基地で宇宙ステーションのセカンドマーズへと辿り着いた。

 出拓、カレン、タイガを乗せた宇宙船もレッドマーズ号より一足早くセカンドマーズのドックに無事到着した。

 3人は急いで火星へと降りる超高層エレベータ行きのシャトルに乗り込んだ。

 超高層エレベータの入口にシャトルは到着すると3人はいち早く火星に降りて行く、下りエレベータに乗り込み乗車席に座った。

 100人乗りの超高層エレベータには30人程度が乗り込んでおり、カレンは辺りを見渡しタイガに話しかけた。

 「サラたちは、まだ着ていないみたいね。良かったわ。私、お城の堅苦しい不陰気嫌いなのよね。」と、カレンは言った。

 「カレン。カレンは王族なの。」と、出拓は聞いてきた。

 「昔わね。でも、今わ違うわ。」とカレンは笑いながら言った。

 その時、シートベルト着用の放送が始まり、超高層エレベータはゆっくりと加速して行った。

 3人を乗せた超高層エレベータは速度を上げながら地上に降りていった。

 出拓は、外の様子を見ながらカレンに話しかけた。

 「カレン。地球の風景とは違うね。地球は青く澄み切った惑星だったが、火星は青さが足りない。それに、地球もそうだったけど、何故、宇宙船で降りないの。」

 「出拓。超高層エレベータの方が大気圏を通過しないし分安全で経済的よ。それに、ここで規制する事により勝手に火星や地球に降りる事が出来なくなり、誰が降りたかが分かるのでセキュリティー的にもいいのよ。」と、カレンは言った。 

 3人が火星へと降り立ちエレベータを出てチェックを無事済ませて出口を出ると大声で声を掛けてくる人物が数名居た。

 カレンとタイガは、その声のする方に近づいて行き出拓を手招きした。

 「出拓、こいつら、私の仲間だよ。」と、カレンは嬉しそうに言って彼らを紹介した。

 「この、小さくて赤髪の男が、タイヨウ。で、こっちの黒髪でロングヘアーの色男風なのがリョウ。そして、こいつがマリで、出拓、こいつ男か女 どっちだか分かるかい。」と、カレンは言った。

 皆、肌の色は黒茶色であったがマリの顔は女性のようであるが胸が出ていなく、男性のような体つきであったので、出拓は、こう答えた。

 「オカマ。」

 マリ以外の4人は大笑いをした。

 「一応、正解かな。こいつは、サラのところのトーイと同じ中性だよ。」と、カレンは笑いながら答えた。

 「中性。」と出拓は不思議そうに思い、マリの体を見渡した。

 するとマリは出拓に近づいてきて耳元でささやいた。

 「私の体、どうなっているか見てみたい。今晩、見せてあげようか。」

 出拓は顔が赤くなり驚いたように後ろへ下がった。

 「冗談よ。私は、火星のクーロン人間よ。相手が男性、女性により体が変化するのよ。今は、まだその中間かな。でもトイレは男性用で立ってするのは、ちょっと無理があるかもね。」と、マリは言った。

その時、カレンの腕時計の携帯が鳴り、カレンが電話に出るとモニターにサラの顔が映し出された。

 「カレン。例のトカゲ犬を医療チームが調べた結果、ちょっと面白い事が分かったわ。多分、木星の全身黒タイツの変態兵士も同じだと思うけど。特殊なゴムの生命体ね。と、言うより、火星のシムジウのような生命体よ。アメーバー見たいな生物が、このゴムと絡み合い成形しているわ。しかも、かなり知的な生物として....。火星の技術ととても似通っているわ。これらの生命をどのように創っているか調べる必要があるわ。」とサラが言った。

 「まあ、簡単に考えると戦争でも始める気ね。サラ、引き続き調査して、私たちはある人を探し火星を探索するわ。」と、カレン言い電話を勝手に切った。

 「さあ、出拓。明日の出発に備えて、腹ごしらえをするわよ。今日は、火星のモンスターの肉料理よ。」と、カレンは言うと、その他の4人は大いに盛り上がった。

 出拓たち6人は、リョウの運転で大型のワゴン車に乗り超高層エレベータステーションを後にした。

 火星は重力が地球より小さいので、出拓たちを乗せたワゴン車も小さな力で浮くことが出来る為、ワゴン車から翼が出てきて翼の中心に据え付けられているプロペラにより浮くことが出来た。

 「ここから我々のアジとも近く、地上を進むより飛んでいた方が火星のモンスターに襲われる事もなく安心なのよ。」と、出拓の隣に座っているマリが言った。

 「火星はクローン技術が発達しており、最初は食料や緑を増やそうと火星の厳しい環境に耐えれる動植物を開発していたが、彼らの中にも野生化し独自に進化を遂げ凶暴なモンスターへと進化して行った物もいたのさ。そして、俺たちみたいなモンスターハンターという商売があるのさ。」と、後ろの席に座っていた赤髪のタイヨウが言った。

 彼は、右目が茶色で左目は赤かった。

 「人類が火星に住むことは厳しく、人々は大きなドームの中で生活をしているんだよ。ドームの中は地球と同じ重力になるようにドーム内の空気圧力、気圧を上げているのだよ。その空気の圧力によりドームは浮き上がり、ゆっくりと動くことにより地球と同じ時間、1日24時間で火星の周りを自転している。そして、このドームをサードマーズと呼ぶ者もいる。」と、運転をしていた黒髪で長髪のリョウが言った。

 6人を乗せたワゴン車の目の前に大きなドームが現れ、ワゴン車はそのドームの中へと入って行った。

 「出拓。ここが、火星第二の都市ガイアだよ。私たちのアジともここにあるのよ。」とマリが言った。

 6人を乗せたワゴン車はドームの中に入ると翼を収納し、ドーム出入口からはタイヤで走り出した。

 途中のゲートでリョウが免許書を見せるとゲートが開き、無事ドームの中に入ることが出来た。

 火星第二の都市ガイアは緑美しい街であり、ドーム中心には大きな湖があった。

 ドームは半透明であり、小さな太陽の光とソーラーパネルの光がドームの中まで達し湖がキラキラと輝いていた。

 出拓はワゴン車の窓から、その景色を眺めていた。

 街の外れにある古い中世の城がカレンたちのアジとであった。

 彼らは火星のモンスターハンターであり、倒したモンスターの賞金で生計を建てていた。 

 火星のモンスターの肉は月でも高値で売られている為、彼らは意外と金持ちでもあった。

 今日は出拓の為に、火星でもっとも高価なモンスターの肉料理を振舞った。

 宴は大いに盛り上がり、飲めない酒を出拓は無理やり飲まされ酔いつぶれ倒れる様に寝てしまった。

 ドームの中はすっかり夜になり火星の月の光が出拓の寝ている顔を照らしていた。

 すると出拓の周りに雪虫が纏わりついてきた。

 出拓は夢を見ていた。

 目が覚めると真っ白な雪の上で寝ていた。

 辺りを見渡すと古い木造の駅が、ぽつんと一軒建っていた。

 出拓は駅に近づいて行き木造の引き戸を開け中に入った。

 駅は無人駅で人は誰も居なかった。

 ふと外を見ると列車が止まっていたので、出拓は改札口を出た。

 列車の中には一人の女の子は座っており、列車の窓からこちらを見ていた。

 出拓は、その列車を乗ろうとホームに向かおうとすると雪が深くなり進む事が困難になってきた。

 そして、真っ白な雪の上に大きな人影が出てきて出拓の下に近づいて行った。

 その影から手が出てきて、出拓の足元を掴んだ出拓は雪の上で動けないなりもがいていた時、列車は無常にも出発してしまった。

 列車に乗っていた女の子は心配そうに出拓の方を見つめていた。

 出拓を掴んでいた人影は徐々に体が浮き上がってきて、以前月で夢で見た黒い女性が現れた。

 出拓は転び這いつくばって、そこから逃げようとし右手を伸ばした。

 出拓は、そこでまた目が覚めた。

 右手に柔らかい感触があり、その手の方向を見て出拓は驚いて立ち上がった。

 「マリさん。」と出拓は言い自分の右手を見てから、マリの胸を見た。

 「どうしたの出拓。」とマリは目ぼけたように起き上がった。

 「どうして、マリさんこそ、なんでここに居るの。」と出拓はマリに聞いてきた。

 「だって、ここは私の部屋だもの。」とマリは言い自分の胸をTシャツから覗き込んだ。

 「あっ。胸が大きくなっている。君と寝たから女性へと変化したんだ。」

 「えー。」と、出拓は大声で叫んだ。

 6人は全員起きてきて朝食を食べていた。

 当然皆、マリの体の変化に興味津々であった。

 「俺たちと一緒に寝る事があっても、こんなことが無かったのに。」と、リョウは言った。

 「若いエキスをたっぷり吸ったからかな。」と、マリは答えた。

 「じゃあ。出拓、マリと何かあったのか。」と、リョウは出拓に聞いてきた。

 すると、マリが答えた。

 「それは、秘密よね、出拓。」と、マリは出拓に近づいてきながらリョウに答えた。

 「マリさん。そんな話し方をしたら皆、誤解するでしょう。」と、出拓は慌てて言った。

 「まあ、いいわ。二人の事は、この辺にしましょう。それより出拓、これからドームの外に出るわよ。ちょっと危険な旅になるかも知れないわよ。」とカレンは言い、火星の地図をテーブルの上に置いた。

 「いい出拓、良く聞いて、ここから200km先に別のドームがあるわ。私たちは、ここに行きある人物を探すわ。でも、このドームの中がどうなっているか私たちも予想できていないのよ。このドームは火星の上空を回る回転速度が一定でなく、今まで私たちの居るドームを避けるように移動していたので見つける事が出来なかったのよ。」と、カレンは言った。

 「それは、どういう事ですか。」と出拓は不思議そうに言ったので、マリが答えた。

 「火星には小さなドームが一杯存在しているわ。このガイアは地球の自転にあわせて火星を回っているわ。火星は地球より1日が短いから、このガイアはゆっくりとバックして時間を稼いでいるのよ。しかし、このドームは他のドームとは同じようには回っていないのよ。火星で大きな戦争があり、戦争は一応終わったけれど、まだ所々では内戦は続いているわ。各ドームが、どのようになっているか調べているのだけど、まだまだ分からないドームが一杯あるのよ。そして、ようやくこのドームに我々の探して求めている女性が居るらしいのよ。」と、マリが答えた。

 「その女性へて。」と、出拓が聞いてきた。

 「火星の元女王、ミチヨ様。」と、タイヨウが答えた。

 「さあ、朝ごはんが済んだら出発の準備をしましょう。」と、カレンが言った。

 1時間後、6人はトラックに乗り込みガイアの外に出た。

 トラックはガイアを出て、ゆっくりと火星の地上に降り立つとトラックの下部に取り付けられていたプロペラを回し1m程度浮き上がり走り始めた。

 運転手のリョウ以外は皆、荷台の中にいた。

 カレンは車に揺られながら出拓に話し始めた。

 「出拓は、火星での実戦は始めてよね。しばらくすると車を止めてバイクでの移動になるわ。防護用スーツに着替えて、火星は地球と違い酸素が薄いからヘルメットとスーツは必需品よ。」

 「何故、昨日見たいに空を飛んで移動しないの。」と、出拓は不思議そうに聞いてきた。

 「昨日の超高層エレベータとガイアまでの移動場所は安全地帯であり、到着時間にガイアが安全地帯に到達するのを確認して降りたのよ。だから、昨日は急いでたのよ。これらか行く場所は安全地帯ではないわ。まだ一部では内戦も終わっていないし凶暴なモンスターも多い。うかつに空を飛んだら撃ち狙われてしまうわ。だから地上から行くの。リョウがトラックに装備してあるレーダーで周辺の様子を確認して無線で連絡してくれるわ。出拓はバイクに乗ったことがある。」と、カレンは聞いてきた。

 「水上バイクなら、一応あります。」と、出拓は答えた。

 「じゃあ、スーツに着替えましょうか。」と、マリは言い出拓の背中を押してロッカーへと連れて行った。

 マリと出拓のロッカーは向かい合わせにあり、マリはいきなり裸になりスーツに着替え始めた。

 出拓は目のやり場に困り、あたふたしていた。

 「やっぱり、スーツが合わないわ。カレン、予備のスーツ貸して、胸が大きくなって入らないのよ。」と言いカレンの声のする方にマリが移動したので出拓は、その隙に急いで服を脱ぎ捨ててスーツに着替えた。

 その時、股間の周りを触り締め付けられたので、出拓は堪らず変な声を出した。

 「あ~。へ~。」

 それを見て、マリは笑った。

 「出拓、驚いたでしょう。このスーツには長時間着れるようにおしめ機構が装備されているのよ。ヘルメットには無線の他に栄養ドリンクなどが給水できるように装備されているわ。操作は簡単で特殊な手袋にて、こうヘルメットのバイザー部分をタッチすれば画面が現れ操作できるわ。着替えが終わったらカレンの下に行きましょう。」と、マリは言った。マリは昨日と違い女性ぽく見えた。

 出拓とマリは荷台の出口扉側に置いてあるバイクの近くに遣って来た。

 既にタイヨウとタイガも着替えが終わっておりカレンの下に皆、集まっていた。

 出拓たちを乗せたトラックは停止し収納していたタイヤを出し地上に地をつけ、プロペラを収納した。

 「出拓、これがこれから旅に出るバイクよ。」とカレンはバイクの座席に触りながら言った。

 そのバイクは大きな球体のタイヤを装備していたので出拓は不思議に思い訊ねた。

 「このタイヤ丸いんだ。」

 「そう、このタイヤに特殊な液体を入れるとすごく重くなるの、火星の重力なら、これでちょうどいいのよ。それに火星は岩や砂が多いからしっかりとしたタイヤが必要なの。まあ、操作は普通のバイクと変わらない体重移動よ。」とカレンは言い後部の収納ボックスから飛び出ている武器を手に取った。

 「これがレーザー銃、大きいけど火星の重力なら片手で簡単に持ち上げられるわ。」とカレンは言いレーザー銃をしまうと別の武器も手に取った。

 「そして、これが剣ね。この手元のボタンを押すと剣の周りに高電圧のレーザー膜ができ火星のモンスターを両断できるわ。他には、医療品と栄養ドリンク等が入っているわ。さあ、目的に着いたみたいね。皆、外に出るわよ。」と、カレンは言いヘルメットにつながれているダクトをバイクの後部に接続した。

 皆、各々のバイクに乗った。

 カレンのバイクは青くドラゴンのマークがあった。

 タイガは茶色でキングコングのマークがあり、タイヨウは赤色で鳳凰のマークがあった。

 マリは緑色でユニコーンのマークであった。

 出拓のバイクは黒とシルバーで、まだ何のマークも無かった。

 出拓がバイクに乗ると無線でマリが言った。

 「出拓、ヘルメットの後ろにあるダクトをバイクの後部にあるコンセントに差し込んで、そして絶対に地上ではヘルメットを取らないでね。血液が蒸発してしまうわ。それと、この任務が終わったらデートしましょう。」

 出拓はヘルメットの中で赤くなり、急いでダクトをバイクに接続した。

 トラックの荷台の扉が開き、皆バイクにまたがり1台づつ降りていった。

 最後に出拓が降りて全員そろった。

 カレンが全員に無線で指示した。

 「リョウ、お目当てのドームは近づいてきている。」

 「カレン、計算では後4時間後に、ここから直線で200kmの地点に、お目当てのドームが通る予定だ。夜が来るのが8時間後なので皆注意するように、それでは健闘を祈る。」

 「了解、リョウ。それでは真っ直ぐ突っ走るわよ。出拓を中心にタイヨウが先頭で左がマリで右が私、タイガは後ろを走行して、お互い距離を保ちながら進むわよ。いい。」

 「了解。」とタイヨウ、マリ、タイガは言いたが、出拓は少し緊張しており声が出なかった。

 「出拓、大丈夫。」とマリが言った。

 「だ、大丈夫。」と、出拓が答えた。

 「それじゃあ。出発。」と、カレンは言いタイヨウのバイクを先頭に出発し皆、隊列を守りながら進んで行った。

 綺麗な隊列を組み、10km程度進んだ時、リョウから皆に無線が入った。

 「そろそろ、安全地帯を抜ける。皆、心して掛かるように。」

 しばらくするとタイヨウの左目(赤い目)が何かを捕らえたようで、皆に無線で知らせた。

 「少し、速度を落とそう地面に生き物がいる注意しろ。」と、タイヨウは言い右手を伸ばして速度を落とすように指示し、少し右に旋回した。

 すると岩場ばかりの地面が少し盛り上がり、大きな長い首の生物が出てきた。

 「何、これ。」と、出拓は言った。

 「ゴナアだ。体の半分以上は地面の中に隠れている生物さ、長い首が特徴で近づかなければ襲って来る事は無い。ソーラーパネルの熱により地面が暖かくなったので出てきたんだ。それに辺りを見てみろ植物たちも出てきたぞ。」と、タイヨウが言った。

 すると、地上から沢山の植物が出て来て北に移動しているように見えた。

 「北、2kmに氷が解け湖が出来ている。多くの動植物たちが集まりそうなので、少し遠回りして進んだ方がいいな。」と、リョウから無線が入った。

 「分かったわ、リョウ。タイヨウ、リョウの言った通り迂回するように進みましょう。」とカレンが無線で答えた。

 5台のバイクは湖に移動する植物を避けながら迂回し進んで行った。

 すると、後方のタイガが無線で話し始めた。

 「いる。地面、何か、追ってきている。」

 タイガの無線を聞いてリョウがレーダで特定を急いだ。

 「ほう、これは、珍しい。ニカバラタだ。」と、リョウが言った。

 マリはバイクに装備してあるレーザ銃を右手に持ちリョウに言った。

 「我々との距離はどれくらい。出拓、気を付けて行き成り飛び出てくるわよ。」と言った。

 「気を付けろよ。直ぐ近くまで来ている。」と、リョウが叫んだ。

 すると地面が急に浮き上がり、出拓の左側から突然大きなカニのような爪が飛び出してきた。

 後ろを走っていたタイガが大きな剣を持ち、その爪を剣で叩いた。

 大きな爪に、ひびがはいた。

 次の瞬間、地面から巨大な生物が現れた。

 左腕に大きな爪、右腕は人の手ような5本指、全身は亀のような甲羅で包まれて足が6本あり頭部は甲羅の上、中心部にあり目が二つ飛び出していた。

 「ニカバラタだ。」とマリが叫んだ。

 そのニカバラタは、出拓に襲い掛かろうとしたがマリが間に入りレーザー銃を撃った。が。ニカバラタは大きな爪で攻撃を払い避けた。

 そして、甲羅の上下が大きく開き大きな口と無数の牙が現れ、雄たけびを上げ威嚇した。

 出拓はバイクをUターンさせ方向を変えながらニカバラタの大きな口を見て驚いた。

 「なんで化け物だ。体の半分が口かよ。」

 するとニカバラタは右手を握り締めてマリを殴ろうとした。

 マリは間一髪避けた。

 ニカバラタがもう一度マリを殴ろうとした時、ニカバラタの甲羅の上にタイヨウが乗っていた。

 ニカバラタの甲羅の上には触覚状の目と小さな頭があった。

 ニカバラタはタイヨウを見て驚き慌てたが、彼の手は甲羅の上までは届かなかった。

 タイヨウの左目は赤く光、一言言った。

 「終わりだ。」

 タイヨウは、そう言いと刀をニカバラタの頭に一刺した。

 ニカバラタは倒れた。

 それを見てマリは悲しんだ。

 「カレン、これ持って帰れないんだよね。」

 「マリ、今回はモンスターハンターじゃあないんだよ。目的がある。残念だけど置いて行こう。」と、カレンはマリに言い慰めた。

 「ああ、こいつはめったに現れない高級品で、茹でて食べればすごくうまいんだよな。」と、マリは泣きながら言い、バイクを走らせた。

 出拓はタイヨウの事が気になった。

 特に赤く光った左目が気になっていた。

 バイクを走らせ目的地に進んでいると小型の豚のような生き物が大きな耳を羽根変わりにして細かく羽ばたかせ近づいてきた。

 その数、千匹の群れが、こちらに向かって飛んで来ていた。

 「タブの群れだ。」と、先頭を走っていたタイヨウが言いバイクを止め、タブが去るのを待っていた。

 タイヨウの目が赤く光、遠くを見ていた。

 「今度は、ブハの群れが来る。皆、左右に散れ。」と言い、出拓、マリ、タイヨウは左側に旋回するようにバイクを走らせ、カレンとタイガは逆に右の方にバイクを走らせた。

 ブハは蛇のような生き物で大きい物で全長3mあり地面の中を泳ぐように進み、獲物を見つけると地上に顔を出し、大きな口と牙で獲物を一飲みするのであった。

 マリとタイヨウは出拓を挟むように両隣に移動し地面から這い出てくるブハを剣で切り倒していった。

 ブハは地面の中に居るときは糸のような細体で俊敏に移動し獲物を狙っている。

 しかし地上にでて獲物を捕獲すると体は大きく膨らみ地面の上をクネクネと動くことになる。

出拓、マリ、タイヨウの3人はブハの大群から無事、離れることが出来た。

 マリを乗せたバイクは出拓に近づいて行き無線で話し始めた。

 「どう、出拓。火星の生き物は、地球に居ない生物ばかりで楽しいでしょう。ようこそ、火星へ。」

 出拓は複雑な笑みをこぼした。

 「ところで、カレンとタイガは大丈夫かな。」と出拓は心配そうに言った。

 マリは笑いながら答えた。

 「二人の心配はしなくても大丈夫よ。」

 するとリョウから無線が入った。

 「タイヨウ、マリ。随分コースから外れているよ。急いでカレンとタイガの後を追って行ってくれ。不味い事になりそうだ。今、未確認のドームが一基そちらに進んでいる。速度が一定ではない。嫌な感じのするドームだ。早く、その場から離れたほうがいい。」

 「分かった。リョウ。そうしよう。出拓、俺の後に着いて来るんだ。」とタイヨウは言い出拓の前にバイクを走らせた。

 3人はタイヨウ、出拓、マリの順番で一列になりカレンたちの後を追った。

 バイクに走りながらマリから出拓に無線が入った。

 「出拓、大丈夫。疲れてない。」

 「マリさん。大丈夫です。」

 「マリでいいわよ。出拓」

 「あっ、了解マリ。それで、一つ聞きたい事があるんだけど。タイヨウさんの目、何で赤いの。」

 「あ、あの目。遠くや暗闇を見れる目なのよ。私たちは戦争孤児なの。皆、色々と改造されているのよ。」

 その時、タイヨウが回線入り込んできた。

 「二人とも、速度を上げるぞ。後ろから怪しいドームが追いかけてきている。」

 出拓とマリは各々バイクのバックミラーで後ろを見た。

 黒く東京ドーム5個分のドームが近づいて着ていた。

 黒いドームは鳥の形をしており羽根を羽ばたかせならが近づいてきた。

 「何、あのドームが早すぎない。私たちを追ってきているの。」と、マリが言った。

 「そうかも知れない。速度を更に上げるぞ。」と、タイヨウが言った。

 3人はバイクの速度を上げたが、黒い影はどんどん近づいてきて3人の上を通過して行った。

 黒いドームの上には大きな黒い鳥が数百匹止まっていた。

 「あれは、スラカの群れね。あのドームの上に巣が有るかも知れないわね。私たちを餌だと思わないでね。」と、マリは言い黒いドームの上を見た。

 「これはやばいな、我々を餌だと思い、襲いかかってくるぞ。」

 スラカは黒い鳥で体長1m50cm程度の鳥で大きな羽根と鋭い爪のある手を持っている。羽根は柔らかく断熱性が有り、火星の厳しい環境に耐えれるようになっていた。

 集団で行動し頭も良く甲高い泣き声で片言の言葉を発し、くちばしは長く伸びたり短く収納できるようになっている。

 黒いドームは速度が減速して行った。

 ドームは通常浮いているだけの物であり、移動にはプロペラなどの風力で移動するが一般的だが、このドームはスラカたちの羽の力で動いていた。

 「攻撃してくるぞマリ。出拓、ライフル銃を装備しろ。」と、タイヨウが言った。

 リョウから無線でカレンとタイガに出拓たち3人の状況を説明した。

 カレンたちは3人の下に向かう事にした。

 スカラたちは3人の頭上を回って威嚇してきた。

 3人はライフル銃を持ち構えていたが、攻撃はしてこない。

 「頭の良い鳥ね。迂闊に近づけばライフル銃や剣でやられるので、距離を置いてこちらの様子を伺ってきているわ。」とマリが言った。

 「まずいぞ、マリ。日が欠けてきている。」とタイヨウが言った。

 ソーラーパネルの光当たらない場所は気温が一気に下がり直ぐに体が凍り付けになってしまう。

 「どうするタイヨウ。彼らはこれが目的ね。寒くなり動きが鈍った所を襲うのね。逃げても逃げても追いかけて来るでしょね。」と、マリは言った。

 「吉と出るか凶とでるかドームの中に入ろう。タイヤの重さを下げ飛び上がりドームの中に入りぞ。」とタイヨウが言った。

 「出拓、タイヤを軽くするから横にある青いボタンを押して、中に入っている液体が出てきて代わりにガスが入るわ。」とマリが言ったので出拓はマリと同じようにハンドルの横についている青いボタンを押した。

 するとバイクが少し浮き上がった。

 そしてバイクのマフラーの位置が下向きになり、エンジンを吹かすと熱気流が放出されバイクが飛んだ。

 スカラたちは、くちばしを細長くし、羽根をしまい体も細くし上空からミサイルのような形になり落ちてきた。

 無数のミサイルの様なスカラの群れが3人目掛けて落ちてきた。

 「キャー。」とマリが声を上げた次の瞬間、燃え盛る炎が三人を包みこんだ。

 「えっ。出拓がやったの。」とマリが驚いた。

 「さすが、炎のメイウェザーの息子。」と、タイヨウが言った。

 出拓はスラカの攻撃を無意識で避けるように腕を大きく振ると炎が発生した事により、スラカの動きが止まった。

 その隙に3人は日が傾き暗闇に入って行く中、黒いドームの上に乗りバイクを走らせスラカの群れを掻き分けながらドームの入口を見つけ素早く扉を開け中に入り、直ぐに扉を閉めた。

 数十羽のスラカが入って来たが、直ぐに手に持っていた剣と銃で対応した。

 三人は、黒いドームの中へと入って行った。 


火星物語=第7章 妖精ミカ

 3人は無事ドームの中に入った。

 中にはスラカは居なくドームの中は静まりかえっていた。

 ドームの中は徐々に暗くなり出した。

 出拓がドームの上を眺めると黒いスラカの群れが固まっているのが見えたが、その隙間の透明な部分から空が見え星が輝きだした。

 三人はバイクのライトを灯し、ゆっくりとドームの中心部へと進んで行った。

 街には明かりもなく人影も人の気配すら感じられないゴーストタウンであった。

 バイクをゆっくりと走らせながらマリが無線でタイヨウに聞いてきた。

 「タイヨウ。このドームに人は居るの。私、早くこのヘルメットとってシャワーを浴びたいわ。スーツの中も汗で汚いし早くこのオムツも外したい。」

 「マリ、ちょっと待ってくれ。ドームが浮いているという事は空気もあるしドーム自体は機能しているという事だが。だけど、まったく人の気配がしないし俺の左目で辺りを確認したが熱源反応も無かった。ちょっと、やな予感がする。もう暫く我慢してくれマリ。」とタイヨウが言った。

 ドームの中は空調機能が作動しており暖かく出拓も早くヘルメットを外したかった。

 その時、出拓はヘルメット越しから女性の歌う声が、かすかに聞こえてきた。

 3人は、ドームの中心にある湖へと遣って来た。

 このドームには人工の湖があり火星の月の光で水がキラキラと輝いており、湖の中心には小さな島が有るのが見えた。

 その小島には火が灯っており南国の屋敷見たい建物が見えた。

 出拓は、その湖から女性の歌声がしたのでバイクを止めて辺りを見回した。

 「どうしたの出拓。」とマリが無線で聞いてきた。

 「女性の歌声がするんだ。」と、出拓が答えた。

 すると突然、風が吹き砂が舞い、地面から人が次々と飛び出してきた。

 飛び出してきた人間は小柄で古い麻色の布を体全体で覆い顔を布で隠し両手には大きな鎌を持ち異様な不陰気をかもし出していた。

 「シムジウか。マリ、出拓、剣を構えろ。」とタイヨウは言い、タイヨウは乗っているバイクから刀を取り出した。

 布を被った者たちは一斉に襲いかかってきたので、出拓は剣を持ち応戦した。

 出拓は少しずつ剣の扱いに慣れてきていた。

 動きも少しずつ良くなってきて人を切るのに戸惑いが無くなって来ていた。

 それが良いことなのか悪いことなのか出拓は分からなくなってきていた。

 只、今切り倒している者は人間の体をしているが人ではないような気がしていた。

 13体全て3人で切り倒した。

 そして、出拓が無線でタイヨウに聞いてきた。

 「シムジウて、何者ですか。」

 「シムジウは火星に元来居た生物らしい。アメーバー状の生命体で人や動物の体に入り込み体を乗っ取る。そして、常に新しい体を欲しがっている。シムジウ自体の生命体は非常に弱く何かの体に入っていないと直ぐに死んでしまうので、土の中に身を潜め新しい体を求めている。」と、タイヨウが説明しているとタイヨウに斬られ上半身無い古い麻茶色の布を被ったシムジウがタイヨウに近づいてきた。

 「出拓。良く見ていろ。」とタイヨウが言うと、その上半身だけの男から何か飛びでて来てタイヨウの顔に付着した。

 タイヨウは、手でその付着した物を剥がしながら言った。

 「これがシムジウだよ、出拓。こいつらは人の鼻や目から体内に進入し脳に達し、その人間を支配する。が、我々はヘルメットをして顔を追ってるから彼らに襲われる心配は無い。」

 良く見るとマリの体にもシムジウが数体付着していた。

 出拓は自分の体を見ると自分の体にも足や背中に付着していたのに気が付き慌てた。

 「出拓。慌てなくていいわよ。こいつら非常に弱い生き物だから直ぐに動けなくなり死んで行くわ。」と、マリは言い体に付着したシムジウを手で払い避けて言った。

 「このドームに、これだけのシムジウが居るという事は生きている人間はいないわね。」とマリが言った。

 出拓は、また女性の歌声が聞こえてきた。

 「マリ、湖にある屋敷に明かりが灯っているよ。」と出拓が言い湖の真ん中にある南国風の屋敷を指差した。

 屋敷には明かりが灯っており入り口の門には炎による明かりもともされていた。

 三人は辺りを見渡し、湖の岸にある一艘のボートを見つけバイクを置き、ボートに乗り込み湖の真ん中にある屋敷へと向かうことにした。


 その頃、カレンとタイガは目的のドームの中に入り調査をしていた。

 リョウからカレンとタイガに無線が入った。

 「タイヨウから連絡が入った。3人は無事のようで黒いドームの中に入ったようである。中はシムジウの群れが居たが倒したらしく、これから人の居そうな屋敷に向かう。と、言っていたよ、カレン。」

 「分かったわ、リョウ。3人は無事なのね。ここは無人のドームのようたわ。シムジウもいないわ。街にも人が居なく、ミチヨ様の手がかりになる物は何も無いわ。でもおかしいのが、ドームの外には黒い鳥の羽や糞が落ちていたのよ。でも鳥らしい生き物はいないわ。それに城らしき屋敷があったので中を調査したのだけど人は居なかったのだけど、最近まで人が住んでいたように城の中は綺麗だったのよ。」とカレンが不思議そうに言った。

 すると、リョウが何かを思いついたように地図を見ながらパソコンで検索を始めた。

 「カレン、これは仮説だけど。マリたち3人が入った黒いドームだけど移動は不規則で経路が分かりづらいけど、カレンたちが、そのドームに到着する前に、このドームと接触があったみたいだ。もしかしたらマリたちを襲ったスラカがミチヨ様を連れ去ったかも知れない。」と、リョウが言った。

 「すると、出拓たちの居るドームが正解の可能性が有るわね。ただ今は両ドーム共、日の無い場所に居るからここから外に出る事も出来ないわ。朝まで待つしかないわね。」とカレンは言った。

 「とにかく、カレンは日が照る時間までそのドームで待って下さい。俺はトラックの中から黒いドームの動きを確認します。」と、リョウが言った。


 出拓たち3人を乗せたボートはタイヨウが漕ぎながら、ゆっくりと明かりの照らしている南国風の屋敷へと向かって行った。

 出拓はマリに火星のドームについて訪ねた。

 「火星の人は、このドームで生活しているんだよね。住むドームて各自、決まっているの。」

 マリが出拓に答えた。

 「別の決まっては居ないけど、それと無く種族に別れ生活しているわ。ドームは人が住める居住区、コロニーみたいなものよ。ドーム内に酸素を注入し空気圧を上昇し地球と同じ重力に保っている事により、風船のように浮く事が出来るの。それをプロペラみたいな物で動かし地球と同じ1日24時間で火星の周りを回っている衛星みたいなものよ。酸素は水や窒素などで簡単に発生できるし、各ドームは自然豊かにし空気を調整しているのよ。ドームを動かすエネルギーは三基の太陽パネルからの熱を集め電気を発生させ充電しているわ。火星にはガイアのような大きなドームから小さなドームまで数千とあり、そこで各々国を作り人々は生活をしているわ。」

 「ふーん。火星で大きな戦争があったと聞いたがけど本当なの。」と、出拓はヘルメット越しから無線でマリに聞いた。

 「そう、今から15年前にあったわ。炎のメイウェザーが同士を集め反乱を起こしたの。多くの国、ドームが焼き尽くされたわ。」と、マリが言った時、また女性の歌声がした。

 「女の人の歌声がする。」と、出拓が言った。

 「聞こえないわよ。ヘルメットをしているから。」とマリが答えた時、タイヨウが何かを発見し手に掴んだ。

 「どうしたのタイヨウ。」と、マリが言った。

 「虫が飛んでいたのて捕まえた。」と、タイヨウが答えた。

 「虫、捕まえたの。」とマリが聞いた。

 すると、タイヨウの捕まえた右手から声がした。

 「私、虫じゃあないわよ。」

 タイヨウは捕まえた右手をゆっくりと開いて言った。

 そして、三人は驚いた。

 「えっ。妖精。」と、出拓は叫んだ。

 「痛いわね。早く放してよ。」と、その妖精が言ったのでタイヨウは慌てて手を離した。

 その小さな生命体は羽根が生えており緑色のワンピースを着ていた女の子で、いかにも絵本で見たことのある妖精であり、三人の周りをグルグルと回った。

 マリは、その妖精を捕まえてスカートをめくった。

 「ちょっと何するのよ。」と妖精は言いマリを睨んだ。

 「ごめん、ごめん。どうなっているのかなと思ってね。女の子みたいだけど、もしかしたら私みたいなタイプかなと思って、女の子だったね。」と、マリは笑いながら言った。

 「君は何者で、何でここに居るの。」と、出拓は言った。

 「私は、かわいい妖精のミカよ。この湖を渡って、あの屋敷に行きたいのだけど、ここには私を食べようとする巨大魚が居るのよ。それで、あなた方が、さっき大勢のシムジウを倒したのを見て、このボートに乗って屋敷に行こうとしてたから近づいた来た訳。」とミカが言った。

 「かわいいて、自分から言う。今度同じことを言ったら、服を脱がしてやろうかしら。」と、マリは思った。

 「巨大魚。」と、出拓とタイヨウは思い2人はボートの下を覗き込んだ。

 タイヨウは、巨大な魚影がボートに近づいて来るのが見えた。

 「気をつけろ。何か来る。」と、タイヨウが言った。

 そして、巨大な魚影はボートの前で飛び跳ね大きく膨れ上がり空中で浮き、大きな口と無数にある牙を見せた。

 妖精ミカが逃げようとした時、巨大魚の口の中から牙の生えた口がもう一つ出てきて、それが何段にも綱鳴り出てきた。

 最後には小さな口となりミカに襲い掛かってきたので、出拓が剣で切り落とした。

 「何だ、この魚は。丸くて大きい体の割りに軽そうで、あの口は何。地球には、あんな魚居ないし見た事がない。」と、出拓が言った。

 その魚は胸鰭が羽のように大きく空中で少し飛ぶ事ができ、頭の上にはアンコウのような提燈があり、赤く怪しく光っていた。

 妖精ミカは出拓の後ろに隠れた。

 その魚は、また水の中に潜りゆっくりとボートの周りを回り様子を伺っていた。

 タイヨウの左目が赤く光っていた。

 「出拓、来るぞ。今度は近距離から大きな口で襲い掛かるつもりだ。」と、タイヨウが言った。

 そして、巨大魚は一旦深く潜り助走を付けてボートの目の前で大きく跳ね、出拓、目がけで襲いかかってきた。

 出拓も大きくジャンプして飛んでいる魚の背中に真上に達し、剣を斬りつけたが鱗は硬く掠り傷程度しか与えられなかったので、魚の背を台にし大きくジャンプした。

 「空中では、あまり動きが良くないみたいだ。これならどうだ。」と言い出拓は右手を大きく振った。

 すると、空気中から炎が発生し、魚の背中を焼き尽くした。

 魚はボートの上に落ちてボートにも火が移り燃え出した。

 マリとタイヨウは慌ててボートの上に乗っている魚に水をかけ炎を消そうとした。

 「私、泳げないのよね。」とマリは言った。

 出拓はボートの上に降りて一言言った。

 「ごめん。」

 3人はびしょ濡れになりながら何とか無事、屋敷のある小島に辿り着いた。

 屋敷には明かりが灯っており入口門の両側には、たいまつのような炎が燃え盛っていた。

 出拓たち3人と妖精1人が、門の前に立つと扉が開いた。

 妖精のミカは、すぐさま中に入って行った。

 出拓たち3人は剣を持ち戦闘に備えた。

 すると中から銅色で体長1m20cmの3頭身程のロボットが出て来て一言言った。

 「ゴ主人様ハ睡眠デス。オ引取リ下サイ。」と、ロボットは言い、すばやく扉を閉めた。

 3人は扉の前に無言で立っていた。

 すると、妖精ミカが出て来て出拓の手を引っ張りながら言った。

 「出拓、ヘルメットを早く取って、もうここにはシムジウは居ないから、奴ら泳げないからここには来ないわ。早く早く。」と、ミカは言い出拓のヘルメットを脱がそうとした。

 そして、出拓の銀色の髪の毛が姿を現した時、先ほどのロボットが出てきて出拓に言った。

 「ゴ主人様、ドウゾ中二、オ入リ下サイ。」

 出拓たち3人は、屋敷の中に入った。

 広い南国木岐が生い茂る庭園を抜け屋敷の中に入った。

 屋敷の中は綺麗に清掃されていた。

 出拓は全身銅色のロボットに話しかけた。

 「君は、どうして僕をご主人様と呼ぶの。」

 「私ノ名ハ91号デス。王族二使エル由諸正シイ、オ手伝イ、ロボット、デス。」

 「それで出拓をご主人様と呼ぶのね。91号、お腹がすいたわ。それにシャワーも浴びたいとあなたの主人、出拓が言っているわよ。」と、マリが91号に言った。

 「分カリマシタ。ゴ主人様、料理ヲ作リマスノデ、ソレマデノ間、2階ノ、オ部屋デ、オ待チ下サイ。各部屋二、シャワー、ト、簡単ナ着替エガ用意シテオリマス。ドウゾ寛イデ下サイ。」

 「やった。」と、マリは言い、出拓の腕を組み2階に上がって行った。

 「ちょっと待ちなさいよ。」と妖精のミカが言い2人の後を追った。

 「じゃあ、ちょっと休ませて貰う。」と、タイヨウが91号に言い2階に上がって行った。

 3人は各々の部屋に入り休んでいた。

 マリはシャワーを浴びており、タイヨウは軽装に着替え窓越しから赤い左目で外の様子を見ていた。

 出拓も部屋に用意されている軽装に着替えベットの上で寝転がっていた。

 そしていつの間にか寝てしまった。

 出拓は夢を見ていた。

 そこは病院の個室、窓が開いていて、心地よい風が部屋に入ってきていた。

 ベットの上には女の子が寝ていた。

 出拓は、その女の子に近づいて行き彼女の寝ている顔を覗き込んだ。

 その顔は何処となく妖精ミカに似ていた。

 すると、その女の子の目が開き、こちらを見ていた。

 出拓は驚き目が覚めた。

 そして自分が今何処にいるか思い出し理解した。

 するとバスタブからシャワーの音と女性の歌声が聞こえてきた。

 出拓は恐る恐るバスタブに近づき少し開いているドアから覗き込んだ。

 湯気で中が見えないが女性の姿がカーテン越しから見えた。

 「誰が居るんだ。」と出拓は思った。

 カーテン越しの女性は出拓に気が付き声を出した。

 「キャー。」

 出拓は慌てて、その場所から離れた。

 するとバスタブから妖精ミカが出てきた。

 「出拓、ちょっと覗かないでよ。」と怒って出てきた。

 出拓は、「へっ。」と思い、「さっきのカーテン越しから見えたのは人影だったよな。」と思った。

 その時、ちょうど料理が出来たらしく91号が呼びに来た。

 91号の料理は美味しく3人は、ご満悦であった。

 マリは食事をしながら91号に聞いた。

 「91号、さっき、屋敷に入る前ご主人様は睡眠中と言ってたけど、この城に私たち以外にも誰か居るの。」

 「ハイ、居マス。ゴ主人様ノ ミチヨ様ガ。」

 マリは飲んでいたジュースを噴出しタイヨウの顔に引っ掛けた。

 「えっ。」と出拓は思い驚いた。


火星物語=第8章 ミチヨ様

 三人は91号の案内の下,3階へと上がった。

 3階は薄く暗く長い廊下の突き当りに一部屋しかなく、その部屋のドア前に辿り着くと91号が三人に話しかけた。

 「ココガ、ミチヨ様ノ寝室ト ナッテオリマス。ドウゾ オ入リ下サイ。」

 91号は、そう言うと1階に下りて行き、三人だけが取り残される形となった。

 タイヨウとマリは出拓の顔を見つめた。

 出拓は声を出さず自分を指差した。

 そして、出拓は二人の視線の意味を理解しドアをノックし静かにドアを開けた。

 タイヨウとマリは出拓の後ろに隠れながら部屋の様子を見ていた。

 「何者だね。」と、暗い部屋の中から女性の声がした。

 出拓たちは驚き声のする方を見た。

 ベットの上に小さな人影があり、火星の月の光と目が暗闇に慣れてきたのと両方で姿が薄っすらと見え出してきた。

 ベットの上に頭と胴体半分だけの女性がおり右腕は無く左腕は機械であった。

 その姿、顔はコロニー18号で出会ったサトミ婆さんに良く似ていた。

 「私が怖いかね。」と、ベットの上に座っている女性が出拓に話し掛けた。

 「いえ、以前コロニー18号で貴女に似ている女性に出会いました。貴女はミチヨ様ですか。」と、出拓は言って部屋の中に入って言った。

 タイヨウとマリも背を低くし丸まって出拓の後ろに着いて来た。

 「部屋の電気はつけないでくれ、私は暗い方がいい。そうかい、コロニー18号でサトミにでも会ったのかい。あれは私の影だよ。そう、私がミチヨだよ。メイウェザーの息子で、リカルドとか言ったかね。」と、ミチヨ様は言った。

 「いえ、僕は出拓と言います。あなたに聞きたい事があるのです。僕は一体何者ですか。」と出拓は聞いていた。

 「地球では、いずたくと呼ばれていたのかい。なおこは無事辿り着き良い人々に出会えたようだね。しつけがちゃんとしている。パッキャオとは育ちが違うらしいね。」とミチヨ様は言った。

 「パッキャオ。」と出拓は言った。

 「パッキャオはお前の兄だよ。そんなところに立っていないで、ここに座りなさい。」とミチヨ様はベットの上を軽く叩いた。

 出拓はタイヨウとマリが、ビクついているのを不思議に思い話しかけた。

 「二人とも、どうしたの。」

 「私が怖いのさ。以前は火星の女王で魔女とも呼ばれていたからね。」

 タイヨウとマリはベットの端の床の上に正座をした。

 「ミチヨ様、火星で何があって、何故、僕が地球に連れて行かれたか教えて下さい。」と出拓は言った。

 「順を追って話そう、我ら火星の王国の話を......。」とミチヨ様は言った。


 今から100年前火星移住計画が行われた。

 世に言うマーズワン計画である。

 しかし、この計画は失敗に終わり多くの人々が犠牲になった。

 そして、マーズツー。

 セカンドミッションが行われた。

 まずは、火星の氷を溶かし水と酸素を確保しようとした。

 その為にソーラーパネルを1基、火星上空に設置した。

 それは、大変な作業であり、地球や月から部品を運び出し、火星上空で組み立てる作業であった。

 ソーラーパネル1基では、火星での昼夜の温度差や乾季の差が大きく厳しい環境となり火星を緑の惑星にしようとしたが、なかなかうまくいかなかった。

 そして、私たち科学者がセカンドミッションの教訓より火星に派遣された。

 サードミッションの始まりである。

 サードミッションとは火星の厳しい環境に耐えれる動植物の研究とドームによる生活環境の樹立であった。

 そして、最初のドーム、ガイアが完成した。

 私たちは、そこで研究を重ね火星の厳しい環境に耐えられる動植物を増やしていった。

 そして10年後、私は同じ科学者、名前は語りたく無いのでKとする。

 私は、その科学者Kと結婚した。

 次々とドームが完成し、火星で多くの人々が生活し始めて行った。

 そんなある日、科学者Kと助手のYたちが、マーズワンに建設され廃墟となった居住区に行き辺りを調査していた時、人の死体が起き上がり急に動き出す奇妙な出来事があった事を報告した。

 そして、その報告により軍が動き生きている死体を5体確保し研究所に送った。

 研究所に送られた死体の中からアメーバ状の生命体、シムジウを発見した。

 ちょうどその頃、火星の永久氷山の一角から人の右腕が発見された。

 この右腕は実態はあるのだが実態は無く、別の世界から来た生命体と思われような不思議な右腕で腐る事も無く光輝いており、時折り動く事があった。

 細胞の採取には困難を極め苦戦していた時、偶然カプセルに保管しているシムジウが騒ぎ始めたので私は何かに取り付かれるように、その右手の細胞の一部をシムジウに与えた。

 その時、私はシムジウの声を聞こえたような気がした。

 その細胞を取り入れたシムジウはドラゴンのような形に変化し進化していった。

 シムジウは元々非常に弱い生命体の為、ドラゴンになってもカプセルから出し空気に触れると直ぐに死んでしまった。

 ところがある事故が起きた。

 助手のYが何を思ったのか黄色いドラゴンと進化したシムジウを自分の背中に寄生させてしまったのだ。

 我々は、その事を知らなかったが、助手のYは、その日から視力の回復、運動能力の脅威的な上昇、体力が有り余り夜な夜な街を徘徊する様になった。

 気の弱い性格のはずのYの性格が徐々に野蛮な性格に変わって行くのが見えた。

 そして、シムジウを寄生させた事が知れるとガイアを出て、他のドームへと逃げて行ってしまった。

 私は、彼の脅威的な体の変貌と衰えて行く私の体を見て、このドラゴンの魅力に引かれ研究を重ねて行った。

 そして、我々は禁断の人体実験へと進んで行った。

 はじめは、動物とドラゴンの適合性を調べたが、直ぐに死んでしまう物や凶暴なモンスターとなる物が多くYのようなドラゴンと適用出きる生き物が居なく、とうとう人体への適合を求めて行った。

 我々は、一方でYの捜査も極秘で行っていた。

 そして、あるドームで化け物になったYを捕獲した。

 彼は、すでに人間では無く手に負えない化け物に変化して暴れていた。が。そのドームに居た女性の力により捕まえる事が出来た。

 彼女は不思議な力を持っている巫女であった。

 Yの後を辿るといくつかのドームを転々としており、複数の女性と関係を持ち10人の子供がいた。

 我々は極秘にその子たちを保護し、研究所へと連れて行った。

 その子たちはYの子供である為、ドラゴンと適合ができた。

 そして、その子たちに薬物投与を繰り返し忠実な兵士としてマインドコントロールし子供たちが16歳を過ぎた頃、ドラゴンを左腕に移植させ完璧な兵士を作り上げた。

 これがドラゴン族の始まりである。

 一方、Yを氷詰めにし彼の精子からクローン人間を作り出し兵士として育てた。

 私たちは、火星王国を作り次々と各ドームを支配下に治めて行った。

 Kは国王となり私は女王となった。

 私は永遠の美を追求する研究に没頭した。

 そして私は自分のクローン人間も創り美の実験として使っていった。

 そう、私たちは狂いだしていた。

 権力、財力、全てを手に入れた。

 夫は、ドラゴン族10人の中の一人、レイと言う綺麗な女性を愛し自分の愛人とし二人の子供を生ませた。

 それが、カレンとサラである。

 私も若い男と浮気をしており、まったく夫には関心が無かった。が、突然、王国の終わりが遣って来た。

 Yには11番目の子がいた。

 我々は、それを見逃していた。

 その子は、Y氏を捕まえた巫女が身ごもっていた子であり、子供を匿う為に化け物と化身したY氏を差し出したのである。

 これは、微かに残るY氏の人間としての優しさであり彼女が何故簡単にY氏を捕獲できたか分かった。

 それはY氏の意思で有ったからである。

 その子の名は、メイウェザーと言い研究所から赤い炎のドラゴンを盗み出し左腕に宿し我が王国に反旗を翻して来た。

 火星内で大きな戦争に発展して行った。


 出拓は、ミチヨ様の話を真剣に聞いていた。

 いつの間にか空は明るくなり朝日が部屋中に入って来た。

 ミチヨ様に日の光が当たると顔はどんどんと若返り美しい顔になって行った。

 「どうだい、私の体は光合成が出来るので少量の水さえあれば生きて生けるし若返る事もできる。もっと光合成をしたいのでベランダに行こう。」と、ミチヨ様が言うと頭や顔から無数の触覚が出てベランダに向かって動き出して行った。

 出拓はミチヨ様の後を追ったが、タイヨウとマリは着いてこなかった。

 「どうしたの二人とも」と、出拓は不思議そうに言った。

 「俺はいいわ、部屋に戻るよ。」とタイヨウが言った。

 「私も、そうするわ。」とマリも言い、二人は部屋を出た。

 「顔が若返り美人になったので余計に気味が悪い。昔を思い出してしまった。」とマリが小声でタイヨウに言いた。

 出拓はミチヨ様の後を追った。

 妖精ミカも出拓の後を追いベランダへと出た。

 ミチヨ様は椅子に座り、触手からテーブルの上にある水を吸っていた。

 出拓も開いている椅子に座りミチヨ様に聞いてきた。

 「それで、その戦争はどうなったの。」

 「この戦争は長引き多くの人々が死んで行った。

 そして、カレン。

 冬のカレンがこの長い戦争を終わらせたのさ。」とミチヨ様が言った

火星物語=第8章 ミチヨ様

 三人は91号の案内の下,3階へと上がった。

 3階は薄く暗く長い廊下の突き当りに一部屋しかなく、その部屋のドア前に辿り着くと91号が三人に話しかけた。

 「ココガ、ミチヨ様ノ寝室ト ナッテオリマス。ドウゾ オ入リ下サイ。」

 91号は、そう言うと1階に下りて行き、三人だけが取り残される形となった。

 タイヨウとマリは出拓の顔を見つめた。

 出拓は声を出さず自分を指差した。

 そして、出拓は二人の視線の意味を理解しドアをノックし静かにドアを開けた。

 タイヨウとマリは出拓の後ろに隠れながら部屋の様子を見ていた。

 「何者だね。」と、暗い部屋の中から女性の声がした。

 出拓たちは驚き声のする方を見た。

 ベットの上に小さな人影があり、火星の月の光と目が暗闇に慣れてきたのと両方で姿が薄っすらと見え出してきた。

 ベットの上に頭と胴体半分だけの女性がおり右腕は無く左腕は機械であった。

 その姿、顔はコロニー18号で出会ったサトミ婆さんに良く似ていた。

 「私が怖いかね。」と、ベットの上に座っている女性が出拓に話し掛けた。

 「いえ、以前コロニー18号で貴女に似ている女性に出会いました。貴女はミチヨ様ですか。」と、出拓は言って部屋の中に入って言った。

 タイヨウとマリも背を低くし丸まって出拓の後ろに着いて来た。

 「部屋の電気はつけないでくれ、私は暗い方がいい。そうかい、コロニー18号でサトミにでも会ったのかい。あれは私の影だよ。そう、私がミチヨだよ。メイウェザーの息子で、リカルドとか言ったかね。」と、ミチヨ様は言った。

 「いえ、僕は出拓と言います。あなたに聞きたい事があるのです。僕は一体何者ですか。」と出拓は聞いていた。

 「地球では、いずたくと呼ばれていたのかい。なおこは無事辿り着き良い人々に出会えたようだね。しつけがちゃんとしている。パッキャオとは育ちが違うらしいね。」とミチヨ様は言った。

 「パッキャオ。」と出拓は言った。

 「パッキャオはお前の兄だよ。そんなところに立っていないで、ここに座りなさい。」とミチヨ様はベットの上を軽く叩いた。

 出拓はタイヨウとマリが、ビクついているのを不思議に思い話しかけた。

 「二人とも、どうしたの。」

 「私が怖いのさ。以前は火星の女王で魔女とも呼ばれていたからね。」

 タイヨウとマリはベットの端の床の上に正座をした。

 「ミチヨ様、火星で何があって、何故、僕が地球に連れて行かれたか教えて下さい。」と出拓は言った。

 「順を追って話そう、我ら火星の王国の話を......。」とミチヨ様は言った。


 今から100年前火星移住計画が行われた。

 世に言うマーズワン計画である。

 しかし、この計画は失敗に終わり多くの人々が犠牲になった。

 そして、マーズツー。

 セカンドミッションが行われた。

 まずは、火星の氷を溶かし水と酸素を確保しようとした。

 その為にソーラーパネルを1基、火星上空に設置した。

 それは、大変な作業であり、地球や月から部品を運び出し、火星上空で組み立てる作業であった。

 ソーラーパネル1基では、火星での昼夜の温度差や乾季の差が大きく厳しい環境となり火星を緑の惑星にしようとしたが、なかなかうまくいかなかった。

 そして、私たち科学者がセカンドミッションの教訓より火星に派遣された。

 サードミッションの始まりである。

 サードミッションとは火星の厳しい環境に耐えれる動植物の研究とドームによる生活環境の樹立であった。

 そして、最初のドーム、ガイアが完成した。

 私たちは、そこで研究を重ね火星の厳しい環境に耐えられる動植物を増やしていった。

 そして10年後、私は同じ科学者、名前は語りたく無いのでKとする。

 私は、その科学者Kと結婚した。

 次々とドームが完成し、火星で多くの人々が生活し始めて行った。

 そんなある日、科学者Kと助手のYたちが、マーズワンに建設され廃墟となった居住区に行き辺りを調査していた時、人の死体が起き上がり急に動き出す奇妙な出来事があった事を報告した。

 そして、その報告により軍が動き生きている死体を5体確保し研究所に送った。

 研究所に送られた死体の中からアメーバ状の生命体、シムジウを発見した。

 ちょうどその頃、火星の永久氷山の一角から人の右腕が発見された。

 この右腕は実態はあるのだが実態は無く、別の世界から来た生命体と思われような不思議な右腕で腐る事も無く光輝いており、時折り動く事があった。

 細胞の採取には困難を極め苦戦していた時、偶然カプセルに保管しているシムジウが騒ぎ始めたので私は何かに取り付かれるように、その右手の細胞の一部をシムジウに与えた。

 その時、私はシムジウの声を聞こえたような気がした。

 その細胞を取り入れたシムジウはドラゴンのような形に変化し進化していった。

 シムジウは元々非常に弱い生命体の為、ドラゴンになってもカプセルから出し空気に触れると直ぐに死んでしまった。

 ところがある事故が起きた。

 助手のYが何を思ったのか黄色いドラゴンと進化したシムジウを自分の背中に寄生させてしまったのだ。

 我々は、その事を知らなかったが、助手のYは、その日から視力の回復、運動能力の脅威的な上昇、体力が有り余り夜な夜な街を徘徊する様になった。

 気の弱い性格のはずのYの性格が徐々に野蛮な性格に変わって行くのが見えた。

 そして、シムジウを寄生させた事が知れるとガイアを出て、他のドームへと逃げて行ってしまった。

 私は、彼の脅威的な体の変貌と衰えて行く私の体を見て、このドラゴンの魅力に引かれ研究を重ねて行った。

 そして、我々は禁断の人体実験へと進んで行った。

 はじめは、動物とドラゴンの適合性を調べたが、直ぐに死んでしまう物や凶暴なモンスターとなる物が多くYのようなドラゴンと適用出きる生き物が居なく、とうとう人体への適合を求めて行った。

 我々は、一方でYの捜査も極秘で行っていた。

 そして、あるドームで化け物になったYを捕獲した。

 彼は、すでに人間では無く手に負えない化け物に変化して暴れていた。が。そのドームに居た女性の力により捕まえる事が出来た。

 彼女は不思議な力を持っている巫女であった。

 Yの後を辿るといくつかのドームを転々としており、複数の女性と関係を持ち10人の子供がいた。

 我々は極秘にその子たちを保護し、研究所へと連れて行った。

 その子たちはYの子供である為、ドラゴンと適合ができた。

 そして、その子たちに薬物投与を繰り返し忠実な兵士としてマインドコントロールし子供たちが16歳を過ぎた頃、ドラゴンを左腕に移植させ完璧な兵士を作り上げた。

 これがドラゴン族の始まりである。

 一方、Yを氷詰めにし彼の精子からクローン人間を作り出し兵士として育てた。

 私たちは、火星王国を作り次々と各ドームを支配下に治めて行った。

 Kは国王となり私は女王となった。

 私は永遠の美を追求する研究に没頭した。

 そして私は自分のクローン人間も創り美の実験として使っていった。

 そう、私たちは狂いだしていた。

 権力、財力、全てを手に入れた。

 夫は、ドラゴン族10人の中の一人、レイと言う綺麗な女性を愛し自分の愛人とし二人の子供を生ませた。

 それが、カレンとサラである。

 私も若い男と浮気をしており、まったく夫には関心が無かった。が、突然、王国の終わりが遣って来た。

 Yには11番目の子がいた。

 我々は、それを見逃していた。

 その子は、Y氏を捕まえた巫女が身ごもっていた子であり、子供を匿う為に化け物と化身したY氏を差し出したのである。

 これは、微かに残るY氏の人間としての優しさであり彼女が何故簡単にY氏を捕獲できたか分かった。

 それはY氏の意思で有ったからである。

 その子の名は、メイウェザーと言い研究所から赤い炎のドラゴンを盗み出し左腕に宿し我が王国に反旗を翻して来た。

 火星内で大きな戦争に発展して行った。


 出拓は、ミチヨ様の話を真剣に聞いていた。

 いつの間にか空は明るくなり朝日が部屋中に入って来た。

 ミチヨ様に日の光が当たると顔はどんどんと若返り美しい顔になって行った。

 「どうだい、私の体は光合成が出来るので少量の水さえあれば生きて生けるし若返る事もできる。もっと光合成をしたいのでベランダに行こう。」と、ミチヨ様が言うと頭や顔から無数の触覚が出てベランダに向かって動き出して行った。

 出拓はミチヨ様の後を追ったが、タイヨウとマリは着いてこなかった。

 「どうしたの二人とも」と、出拓は不思議そうに言った。

 「俺はいいわ、部屋に戻るよ。」とタイヨウが言った。

 「私も、そうするわ。」とマリも言い、二人は部屋を出た。

 「顔が若返り美人になったので余計に気味が悪い。昔を思い出してしまった。」とマリが小声でタイヨウに言いた。

 出拓はミチヨ様の後を追った。

 妖精ミカも出拓の後を追いベランダへと出た。

 ミチヨ様は椅子に座り、触手からテーブルの上にある水を吸っていた。

 出拓も開いている椅子に座りミチヨ様に聞いてきた。

 「それで、その戦争はどうなったの。」

 「この戦争は長引き多くの人々が死んで行った。

 そして、カレン。

 冬のカレンがこの長い戦争を終わらせたのさ。」とミチヨ様が言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ