出会い
「フラン!イルチカ!大丈夫か!」
「なに...何なの...?」
ケントはフランとイルチカに駆け寄り、トレールは茫然としていた。
あの二人は...死んではないわ、それよりこの攻撃はいったいどこから?
周りを見渡していると沈黙していた弓使いが指を指した。
「あ...あれ。」
そこには森に溶け込むようにして佇む巨大な甲虫のような魔物がいた。
全身が深緑色鎧に覆われたような体表をしており頭に付いた大きな角の先端は空洞が見て取れ、上下に稼働できるようになっていた。
「キャノンビートル...。」
それが襲撃者の名前。
頭の一本角から魔力を込めた大砲を放つことができ、ミスリルの如く硬い甲殻を持つ体。
魔物の強さを測る討伐難度ではF~Sの中でAランクに分類される強さを持っていた。
「キャノンビートル!?なんでこんな浅い場所を縄張りに?」
「とにかく逃げましょう!」
「待ってくれ!2人はどうするんだ!」
「なんとか担げませんか?」
「無理だ、機動力を失っては誰かが捕まる。」
「そんな。」
そうこうしている内にもキャノンビートルは第2射を放とうとしている。
この中の誰かが殺される。しかも確実に。
だからといって2人を見捨てられない...。
膠着状態を破ったのはトレールだった。
彼女が投げたナイフが命中したのは.........ミラの脇腹だった。
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
自覚すると同時に激痛が走りその場に倒れこむ。
「な、なにをしてるんだトレール....。」
「結局誰かが犠牲になるのよ。こいつはギルドに入ってないからここにいたことは私たちしか知らない。それにフランとイルチカがいなくなった後私たちのパーティーはどうするの?」
「だからってこんなこと!」
「いまさら言ってももう遅いわよ!もうそいつは手遅れ!どうするのが一番生き残る人数が多いのかぐらいわかるでしょ!?」
痛い、痛い、痛い、痛い、何を言ってるんだかわからない。
ミラの腹からは大量の血が流れている。
「リーダー、私も賛成、もうこの場のことは私達の内にとどめるのが最善。」
「セインまで......。」
「.....このことに関してはトレールと一緒に後でいくらでも文句聞く。」
許せない、自分を正当化して、人殺しを容認するつもりか、あたしを、仲間は見捨てなかったくせに、あたしをおとりに使うのか、ふざけるな!
「.......すまない......、ミラちゃん。........行こう。」
「い、いかないで。」
「っ.....ごめん。」
「行くわよ。」
倒れていた2人を担いでへ3人がどんどん遠ざかっていく。
キャノンビートルは動く獲物よりその場に這いつくばってる侵入者に照準を合わせる。
くそ、今まではうまくやってたのにな...。
あがいても貧乏で、
あがいても報われなくて、
あがいても、誰も助けてくれない。
いいことなんてなかった。
でも、いつかはいいことがあるって信じてたのに...。
最後はこんなもんだ。
キャノンビートルの魔力が完全に充填される。
誰か......
誰か,,,,,,,,
誰か........
「たすけてよ」
轟音があたりを包む。
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メタルスライムは一部始終を観ていた。
(まぁ予想していたとはいえ面白いものではないな,,,,,2つの意味で。)
1つは単に起こるべくして起こったありきたりな展開だったことに関して、もう一つは....。
”いかないで”その言葉を聞いたとき、また己の中に知らない感情が渦巻いた。
憤慨?憐憫?とにかくあの少女には他とは違う何かを感じる。
それが何かを知りたいならば、やることは決まっている。
(あんな少女をおとりにするとは、まったく人間は度し難い....度し難いので....
ちょっと手助けでもするとしよう。)
自然の掟云々をなかったことにして彼は自分が抱いたものを理解するため、その少女に近づくことにした。
実に勝手である。
冒険者5人組が遠ざかっていくのを確認してすぐに行動を始めた。
キャノンビートルの脇まですぐに移動する。
体の質量に任せて体当たりをする。
発射寸前だった大砲の軌道を逸らすことに成功する。
『ギシィィィィィィィィ!!!』
体当たりで浮いた巨体に素早く近づき、懐からえぐるようにして顎のように形を変えた体を甲殻の間に差し込む。
バキィッと硬いものが割れる音が森に鳴り響く。
次の瞬間にはキャノンビートルの胴と頭がちぎられた。
(まぁ手加減したからこんなものか。これからあの少女と一緒に行動するのだ、普通のスライムじゃないと警戒されてしまうからな。)
そもそも普通のメタルスライムは防御力特化でほとんど攻撃力を持たないため、一般的に
脅威度はEとなっている。
そんなことは知らない彼は4ランク上の魔物を軽々と倒してしまい、普通の人が見れば明らかに普通のスライムとはかけ離れた行動をとっているのだが....。
そんなことはつゆ知らず彼は少女に近づいていく。
(少女よ、いつまでも縮こまってないでこっちに来い。ひとまずその傷をいやそうではないか。)
....しかし少女からは、こっちの方を茫然と見るだけで返答も反応も示さない。
(あー、こちらの言葉は伝わらないのか。というかそもそも私は発声することもできなかったか。)
さらにゆるゆると少女に近づいていく。
ビクッと少女の体が反応したがお構いなしに少女の頭に伸ばした触手で触れる。
そのまま警戒を解いてくれるように慎重に撫で始めた。
(こ、こうすれば警戒も薄れる...だろうか?分からないが、赤子を育てる魔物はしきりに毛づくろいをしていたりするし...頼む、成功してくれ!)
そしてその願いは叶った。
「あ、あなた、あたしを助けてくれたの?」
(そうとも!いやはや、言葉が通じずとも何とかなるものだな。やはり人間も動物、友好を示す行動にも似たり寄ったりなところもあるのだろう。森の知識も捨てたものではないな!)
メタルスライムは初めてのコミュニケーションに成功したことにはしゃぎ、その体を
伸び縮みさせた。
「あたしの願いを聞いてくれたの?ってメタルスライムに言ったって分からないか。まずは足をどうにかしないと。」
そう言い少女は脇腹に刺さったナイフを力任せに引っこ抜いた。
「ぐっ.......くっそー滅茶苦茶痛いわ。」
(そ、そんなに力尽くに抜いたら血が出るのでは...ああ、やはりでてきたではないか、大丈夫なのか?)
「ふん、あいつらが置いていったんだからあたしが使ったって文句ないわよね。」
そう言い、上体を起こし、背負っていたバックの中からいくつかの小瓶が入ったホルスターを手にした。
小瓶の中身の緑色の液体をナイフが刺さっていた傷口にすべて振りかけた。
「こんな高級品使ったことないけど今日は大盤振る舞いだ!」
液体がかかった傷口はみるみるうちにふさがっていく。
「うわすっごい、高いポーションってこんなに早く効くんだ。」
(ほう、これが人が傷を治すときに使うものか、ポーション...裏切り者の荷物をためらいなく使うあたり少女は思ったより図太い性格をしているようだ。少し安心したな。)
「それにしてもあたしの悪運の強さには呆れるよ、あんな絶体絶命の状況だったのにまさかメタルスライムに助けてもらえるとはな~(この子明らかに普通じゃないし)。」
(ふふふ、すごいだろう。)
メタルスライムが機嫌がよさそうにフルフルと揺れていると。
「というかこの子メタルスライムにしてはかなり大きくないか?あたしの身長ぐらいあるし。」
(なに?そうなのか?しかしこれより小さくなることなんてできんのだがなぁ。)
少女はメタルスライムの大きさを確かめるべく立ち上がろうとしたのだが。
「いててて、まだ動くのは無理そうかー。早く森を出たいのに...そうだ!そんだけでかいんだったらあたしのこと乗せていってよ、なーんて。」
(仕方があるまい。)
メタルスライムはひょいっと少女の下に潜り込んでからその体を痛めないように体の上に乗せた。
「うそ、言葉が通じてる?ってことはこの子私の従魔になってくれたの!?やったーーー!!!」
(む、従魔とはいったい?まぁ喜んでいるのであれば、私の謎を晴らすために定期的に会いに来てくれればいいんだが。)
その言葉が少女に伝わるはずもなく、近くに落ちていたバックを拾い、話しかけてきた。
「私の名前はミラ。このまま森の外まで運んでくれる?」
(...やはり図太い。)
メタルスライムは少女を上に乗せたまま動き出した。