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発見

それは、イレギュラーだった。


誰もが寄り付かない森の深くで生まれた。


弱さの象徴とまで言われているスライムの一種、


しかし、それには他とは違う明らかな知性があった。


弱さを理解し外敵から身を守るため生まれてすぐに鉱山に身を隠した。


食べれるものならなんだって食べた。


鉱物、魔物の死骸、果てに山そのものを吸収した。


気の長くなる時間が経ったころ、もはや隠れる必要などなくなった。


襲い掛かる者の(やいば)は体に傷をつくることもできず、


圧倒的質量で何もかもが潰された。


その存在が突如として姿を現したとき人々は瞠目した。


体積は膨張し山のような大きさで、浮遊しながら佇んだり、はたまた忽然と姿を消す球状の化け物。


そのメタルスライムはいつしか世界で最も恐れられる魔物 ”四獣 ” の一体として人々から恐れられていた...


_________________________________________


(随分と暇だな....)


 数十年はメタルスライムを討伐しようとする者は多く、ある者は未知の金属でできた体を狙って、ある者は名声のために、時にはなわばりである北の森を奪うために国から討伐隊が組まれて挑んできたときもある。


 しかし今となっては、北の森は誰もが深く探索せず四獣の怒りに触れないように恐る恐る採取や偵察をするだけになっていた。

 実際は敵対することさえしなければ彼から手を出すことはないのだが。


(魔物にも期待できん、仕方あるまい、いつもの散歩で暇をつぶすとするか)


 四獣と恐れられているメタルスライムにはまだ誰も知らない生態があり、そのうちの一つに体の収縮がある。この特性を生かして少し大きめだが一般的な範囲の大きさのメタルスライムになることができ、忽然と姿を消すのもこの生態のためだった。


 その姿のまま、恐る恐る探索する冒険者や、魔物同士の喧嘩や食物連鎖、深くでひっそりと咲く珍しい色の花を観察したりするのは停滞しきった生活にいろどりを与えてくれる唯一の趣味。


 この日も趣味の観察をするために体を縮ませて森の浅い地点まで移動した。

 今は天気も良い早朝だ、こんな日には冒険者が採取に来るに違いない。


(このあたりで今日は冒険者の観察でもするとしよう...今回は少しばかり驚かせてもよいか。)


 そんなこと考えながら木の上にへばりついていると戦闘音と怒号が聞こえてきた。


(少し遠いがまあいいだろう。さて、今日はどんな輩が森に来ているのかな?)


 素早く木の上から降りて移動を開始する。

 浮遊しながら移動するため音もなく、魔物も人もほとんど彼の接近に気づく者はいない。

 その普通のメタルスライムとは思えない移動スピードで動いている時点で、見つかれば擬態は意味をなさないのだがそんなことは知ったことではない。


 そうこうしているうちに目的地に着いた。そこでは5人の冒険者がダイヤウルフの群れと戦っていた。


(厄介なのに絡まれているな、まあ別に群れのリーダーから倒せばなんということはない。)


 その考え通り冒険者達は苦戦することなくダイヤウルフと戦っていた。


 熟練とまではいかないが、それなりに動ける冒険者らしい。

 冒険者の一人が指示を飛ばすと、弓を持った仲間が死角から矢を放った、その矢は軌道上にいたリーダー個体を仕留めることに成功する。統率を失った狼たちに冒険者の剣と魔法が襲い掛かり1分もしないうちにダイヤウルフの群れは逃げる間も与えられず掃討された。


(まあまあ観察し甲斐のありそうなやつらが来たようだ...おや?あれは....)


 冒険者5人組は剣士、斥候、魔法使い、神官、弓使い、とオールラウンダーで無駄のない布陣だがその集団の中でひどく浮いている赤髪の少女がいた。

 少女はやせ細った肢体に、防御力のないみずぼらしい服装、武器は小さなナイフしかなく、盾も持っていない、その割に大きなバックを背負った姿は冒険者とは言い難い。

  

(あんな装備でここに来るなど正気とは思えないし...。人とは矮小なものなれどもっと逞しさやら狡猾さを持っているのではないのか...。)


 生まれてきて一度も見たことのない存在そのものが危うく弱々しいその様に困惑し、初めての感情が芽生えた。

 

(慈善の意識にでも目覚めたというのか?...まさかな同種族でもあるまいし)


 否定しながらも探るような視線を少女に向けるのをやめれずにいた。

 すると背後から葉を揺らし近づいてくる音が聞こえる。

 忙しいというのに、という思いとこれから起こるであろう騒乱にワクワクする思いが高まる

 もうそこまで来ている脅威に気づいたとき彼らはどうするのだろうか。

 破滅がそこに迫っていると気づいたとき彼らはどうするのだろうか。

 最後まで弱肉強食の掟に抗ってくれるのだろうか。

 観察者はほくそ笑みながらその足音の主の登場を待った。


 .......



 (それはそうとあの少女はどうしようか。)


_____________________


 「ちくしょー、なんで冒険者になれなかったのよ!」 


 少女ミラはグンダ王国のスラムに住んでいた。親も、頼れる大人もおらず、物乞いやゴミあさりをしてきて育ってきた。味方のいない社会で過ごすのに隠れることと逃げることは必須の技術となり、運よく才能のあった彼女は、犯罪や喧嘩など日常茶飯事のスラム内で襲われることもなく五体満足で14歳を迎えていた。

 13歳からは非正規の冒険者の荷物持ち≪ポーター≫を始めた。

 武器はボロボロのナイフのみ、命がけで依頼について行って成功したとしても稼ぎがいいとは言えないし、時には質の悪い冒険者にあたってしまい報酬を払われないこともある。このままでいるよりは冒険者になったほうが早いと思い集めた金で冒険者ギルドに登録をしようとしたのだが試験に受かることができなかったため門前払いされてしまったのである。


 試験なんて聞いてないし..絶対あたしがスラムの住民だから適当言って突き返したんだ...。

 これからどうしようかなぁ、せっかく希望ができたのにまた振り出しか。

 そう陰鬱な気持ちになっていると冒険者ギルドから出てきた一団が話しかけてきた。


「ねぇキミ!ポーターやってた子でしょ、次の依頼についてきてくれないかな?」


 金髪のリーダーらしき剣士の男に話しかけられた。

 仕事があるなら取り合えずやりながら考えようかな。

 そう思いミラはこの依頼を受けることに決めた。

 今回ポーターとして参加するのは急造のパーティーではなく結成から破竹の勢いでランクを上げ新気鋭と期待されているパーティーであり、ランクはF~SのうちBランクと高ランクなので報酬の期待もできる。

 

 「いいよ、あんたらは金払いもよさそうだし、何の依頼なの?」

 「北の森≪アビス≫の偵察だ。」


 うげぇ...まじか、四獣の縄張りをうろつくなんて正直ごめんなんだけど...。

 

 「勝算はあるんでしょうね?」

 「もちろん。道具の補充も十分だし、偵察する区域の地理も頭に入ってる。倒した魔物を換金することもできるから報酬も期待してもらっていいよ。浅いところまでしか潜らないしね。」

 「なるほど」


 まぁ、Bランクの冒険者がここまで言ってくれるんだったら報酬を期待して賭けに出るのも悪くないかと思ったとき。


 「ちょっと!こんな貧相で生意気なガキを本当に連れてくわけ?」


 スレンダーな斥候風の装備に身を包んだ女性が声を荒げた。


 「トレールさん、あまり子供に向かって棘のある言葉を使ってはいけませんよ?」

 「文句の一つも言いたくなるのもわかるけどね、どうせケントが声かけたのだってその女の子がかわいそうだからとかそんな感じでしょ?」

 「いつものナンパ癖」


 神官と魔法使いらしき女が斥候の女を窘め、弓使いのエルフの女は淡々と喋った。

 

 あ~この人達ハーレムパーティーかぁ~今からでも断ったほうがいいかな?


 「そ、そんなことないって、ほかの冒険者に聞いたけど彼女は足も速いし確かに痩せてるけど荷物を持つ力も十分だったって言ってたし...ナンパが目的じゃないから!!!」

 「そうですよトレールさん彼女は職に困っているようですし、ケントさんの善意を無下にしてはいけませんよ。」

 「ちょっと私がいじめてるみたいなこと言わないでよ!...しょうがないからついてくるのを許可してあげるけど、自分の身は自分で守ってもらうわよ!」

 

 あぁもうついていく流れになってる...。


 


.................


 その後北の森の探索の途中ダイヤウルフの群れに遭遇した。


 「俺が前に出る!トレールはカバー!フランとイルチカは後方支援しつつミラを守ってくれ!」

 「「「了解!」」」


 このパーティーメンバーは斥候のトレール、神官のフラン、魔法使いのイルチカ、

弓使いのセイン、リーダーで剣士のケントで構成されていて基本的に私はフランさんの後ろのポジションにいる。

 

 「セイン!木の後ろにいる奴から撃て!」

 「もう撃った」

 

 『ガアアアア!!!』

 

 矢はダイヤウルフのリーダー個体の眉間に突き刺さり、絶命した。

 すると周りのダイヤウルフの連携が崩れ始める。

 

 「よし!トレールとセインは各個撃破に移れ!フランとイルチカは待機!」

 

 その号令の後1分もせずにダイヤウルフの群れはいなくなった。

 最初は不安だったけど結構強いじゃん。

 

 「みんなお疲れー、ダイヤウルフは討伐証明部位だけ持っていくからミラちゃんに集めてね。」

 「あ、はい、切り終わったらあたしに下さい。」


 戦闘が終わりその場の空気が緩んでいた。

 探索は終盤、あと少しで何事もなく帰路に着けると思ったその時、轟音が鳴り響き世界が揺れた。


 『ズガアアアアアアアン!』

 

 「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 誰かが叫んだ時、その光景を見た。


 「うそ」


 そこには無残に転がっているフランとイルチカの姿があった。


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